その29 綾乃さんとお食事(3)
綾乃さんとお食事(3)
食事を始めて15分ほど経つと、三木綾乃はほろ酔い気分になっていた。
元々、アルコールはそう強い方ではないので、酔いが回るのも早い。綾乃自身、自分が少しずつ気分が“ハイ”になってゆくのがわかった。
それと比例して、緊張が“ハイ”になってゆく森田卓。彼は食べてばかりで、横にいる綾乃に対してわずかに振り向く素振りだけ。正座も崩そうとしない。
綾乃としては、何としても卓を打ち解けさせたいところ。
「森田さん、今日のスーツ素敵ですよ。」
「そうですか?アハハハ(^□^;今日は娘の参観日だったもんですから。」
「へぇ、そうだったんですか。森田さんらしい個性が出てて素敵ですよ。」
「え?個性?僕が?どんな?」
卓はハシの動きを止め、少し驚いて目線だけをチラッと綾乃に投げかける。
「ええ。さっき公園にいたときに気づいたんですけど、今日の森田さん、スーツにスニーカーですよね。新鮮ていうか…そう、フォーマルとカジュアルの融合っていうか…すごい斬新だと思いました。」
Σ|ll( ̄▽ ̄;)||lバレてたやっぱし。。。
「仕事とプライベートを“靴の遊び”で区別してるんですね♪」
「こ、これは単なる間違いで・・・( ̄ー ̄; ヒヤリ」
「いいえ、私は森田さんの天性のセンスだと思います。」
「天然とはよく言われますが・・・^_^;」
「謙遜なさるんですね。 (o^-^o) ウフッ」
「そんなつもりは全然…」
「あ、そうだ!森田さん、ここに私の苦手なお刺身があるんですけど、良かったら食べてくれませんか?」
と、綾乃はいきなり話題転換。だがこれも卓とスキンシップをはかるための作戦。
「い、いいですよ。何ですか?」
「私、中トロが苦手なんです。脂がどうも…赤身ならいいんですけど。」
「あぁ、いますよね。そういう人。いただけるのなら喜んで(*^.^*)」
「良かった♪じゃあはい、どうぞ。」
綾乃はハシで中トロを卓の“お造り皿”へ移動させ、そのときに彼の顔を下からちょっと覗き込んでみる。
卓はドキッとしたような表情を浮かべて困惑した。
「森田さん、もっとリラックスしていいんですよ。私なんてどこにでもいる普通のOLなんですから。」
「はい…普通に食べさせてもらってます^_^;」
「でもまだどこか堅いですよ森田さん。」
「そ、そうですか?おかしいなぁ…」
「だって黙々と夢中で食べてるだけなんだもん。」
「あ、これは気づきませんで…じゃあ僕のイクラをあげましょう。」
「そういう意味じゃなくて…(⌒-⌒;」
卓はすぐにイクラの軍艦巻をハシで綾乃の器に移そうしたが、緊張のためかその途中、震えるハシからイクラの軍艦がすべり落ちた。
ピチヤッ!!
なんと、落としたその下にあったのは綾乃の醤油皿。当然のごとく、飛び散った醤油が綾乃の洋服を襲う。
「キャッ!」
ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!!しまったぁぁぁ!!
「ヤダぁ…シミになっちゃう。。」
「す、すすすみませんっ!大事なキャミが…」
「トップスですけど(⌒-⌒;」
「ト、トップスが…」
運の悪いことに、たっぷり入った醤油が斑点のように綾乃の胸から腹部全体に沈着している。
「シミ抜きしなきゃ…」
綾乃が自分の洋服に手をかけた。それを見て仰天する卓。
「え?え?脱ぐんですか?ここで?」
「はい。森田さんしかいないから平気です。」
そう言いながら綾乃は勢いよく服を脱いだ。
「あわわわ…(◎0◎)ちょっと目のやり場が…僕は一体どうしたら…」
森田卓は慌てふためき、すぐに立ち上がってその場から離れようとした。
しかし、これが更なる失態に繋がってしまうことになる。今まで行儀良く正座していたのが逆にアダになったのだ。
卓の足が完全にしびれている状態で急に立ち上がろうとしたものだから、そのまま勢い良くひざから崩れ落ち、綾乃を押し倒して上に覆いかぶさる形になってしまったのである。
「森田さん…そんな、まだ時間が早いわ。」
「いや、そうじゃなくて足が… ̄ー ̄; 」
更にタイミングの悪いことに、ちょうど女性店員が襖を開けたところでもあった。
「お客様、こちらの料理は店からのサービスで・・・(゜〇゜;)ハッ!これはどうもお取り込みのところ気づきもしませんで。。」
「Σ|ll( ̄▽ ̄;)||lち、違いますっ!誤解ですっ!」
と卓が慌てて話しても、店員には言い訳にしか聞こえなかった。
「大丈夫です。心配しないで下さい。私は口が堅いですから。」
「いや、本当にこんなつもりじゃ…」
「最初は誰でもそうですから。(*^m^*)ムフッ♪」
「ムフッ♪じゃなくて、これは事故なんですって。」
「はい、わかりました。でもせっかくのお料理ですから、先に召し上がってからの方がよろしゅうございますよ?ではごゆっくり( ̄ー ̄)フフ…」
女性店員は半分ニヤニヤしながら襖を閉めて立ち去った。
「わかってないじゃん。。(;-_-) =3 フゥ」
店員が誤解するのも無理はない。肌着1枚の女性の上に男が乗っかっているのだ。
「三木さん、本当にすみません。ご迷惑ばかりかけてしまって…」
体勢を立ち直した綾乃がにこやかに卓に答えた。
「全然平気ですよ。なんか今ドキッとしちゃいました。とっても刺激的♪」
「クリーニング代は僕が出しますんで。。」
「じゃあ、お言葉に甘えて。シミ抜きしなくてもクリーニング屋さんなら落としてくれるかもですね。」」
「そう願いますけど(⌒-⌒;」
「じゃあこれは一件落着。ここのお料理いただきましょう!」
「はい・・」
このとき森田卓の脳裏にふと疑問が沸いた。これだけのドジをしてきたのに彼女は怒ろうともしない。呆れもしない。
なぜなんだろう?これが園崎さんだったら逆上するに違いないのに(^_^;)
(続く)