その27 綾乃さんとお食事(1)
綾乃さんとお食事(1)
●森田卓の視点
三木さんから僕のケータイにメールが届いていた。
それもそのはず。彼女とは午後5時の待ち合わせなのにすでに30分も過ぎている。
僕は酔い潰れて寝込んでいた上に、ケータイもマナーモードだったからメールに気づくのも遅れた。
“私、ずっと待ってますけど、森田さん何か来られない事情でもできましたか?”
このメールは今から15分前。
ヤバい…三木さんきっと怒ってる( ̄Д ̄;;
僕は待ち合わせ場所まで駆け足で急いだけど、まだ完全に酔いが覚めていない。なにせ空きっ腹にお酒を流し込んだから頭の中がグルングルン回っている。自分で蛇行しながら走っているのがわかった。
10分後、ようやく現場まで辿り着いたものの、三木さんはそこにはいなかった。
「しまった…完全に怒らせちゃったみたいだ。メールに返信すればよかった。。」
こういうことに気づくのも僕はいつも遅い。
「(;´Д`)ハァ…またドジっちゃった。。今日何回目なんだよ全く…」
ホント自分でもあきれるくらいの失態のオンパレード。僕の星座は毎日運勢が最下位なんだろうか?
走ったために、汗だくになって息切れしている上に、酔いのせいで目も回っている僕。
待ち合わせ場所にしゃがみ込んで息を整えているそんな時、三木さんから再びメールの着信があった。
“近くの○○公園にいます。そこ座る場所がなくて、立ってるの疲れちゃったんです。ごめんなさい。こっちであと30分だけ待ってます。”
「助かったぁ!帰ってなかったんだ。。」
僕はすぐ様、小走りで現場へ急いだ。
その公園のベンチにひとり、三木さんはケータイをいじりながら座っている。
僕は彼女のそばに行くとすぐに謝った。
「遅れてすみませんっ!!言い訳はしません。本当にごめんなさいでした!」
すると彼女は意外にもあっけらかんと答えた。
「いえ、全然待つのは平気。時間なんて気にしてませんでしたから。」
「いやそんな…僕なんかに気を遣わなくても。。」
「いいえ、本当なんです。私、最近ケータイ小説にハマってて今もずっと読んでたんです。時間なんて長く感じませんでしたよ。」
「そ、そうですか。。なら少し安心しました(^_^;)そういえば、今はケータイ小説が熱い!って僕も聞いたことあります。」
「ホントにそうなんですよ。素人さんの方が斬新で枠にハマってないっていうか…私、大好きなんです。」
「は、はぁ…でもどんなところがプロの作家と違うんですか?」
「例えば今私が読んでる人のはですね、顔文字がいっぱい出てくるんです。」
「へぇ…でもそれって、小説の文法としては邪道なんじゃ?…あ、すいません。また余計なことを(^_^;)」
「いいのいいの。気にしないで下さい。でも私には逆に登場人物の感情表現がよくわかるんです。下手な説明より想像を自由にめぐらせてもらえる小説っていいなって。」
「な、なるほど。僕は想像力がないんでちょっと苦手かもです。アハハ(^□^;A」
「それより森田さん、すごい汗。息切れもしてるようだし…私の隣に座って休んで下さい。さぁどうぞ!」
「じゃあちょっとだけ…さすがに今日は疲れまして。。」
と、僕がベンチに腰掛けるなり三木さんが自分の口を押さえた。
「うっ…!!」
「どうしました?大丈夫ですか?」
「いえ…私は平気です。ただ…森田さんからお酒の匂いがプンプンしたので…ちょっと。。(^_^;)」
Σ|ll( ̄▽ ̄;)||lそ、そうだった!!口臭消してなかった!!
僕は慌てて両手で口を塞ぎ、三木さんの元から離れた。
「すみませんっ!実はあの…今日、昼に学校の父親同士の懇親会があったもので。。」
とっさに出たウソ。僕はゆりかと三木さんまで騙しているのだ。良心が痛む。
「そうだったんですか。お疲れのところ私の方こそ本当にすみません。じゃあお腹はまだ空いてないんでしょうね。。」
「そ、そんなことありません。飲まされてばかりでほとんど食べることができませんでしたので。。(⌒-⌒;」
ある意味これは正解だった。実際はもう空腹で仕方がない。昼は幻の焼酎・森伊蔵を飲んだだけで、本当に何も食べてないんだから。
「じゃあこれから私とお食事に行けますか?」
「も、もちろんです。約束は約束ですから。」
「 (o^-^o) ウフッ!嬉しい!」
「三木さんはやっぱり、フレンチとかイタリアンの店が好きなんでしょうか?」
「ええ、大好きです♪」
「あぁ…でも僕、あまりそういうお店知らないんです。。」
「森田さんは普段、外食しないんですか?」
「娘がいるんで、ファミレスにたまに行くくらいで。。」
「そうですよね。ご家族がいるんですものね。。」
「ど、どうしましょうか?」
「あ、お店なら心配しないで下さい。実はもう予約してるんです。」
「(゜〇゜;)えっ?」
「和食のお店を予約しました。その方がいいと思うんです。お座敷もあるし。」
「お、お座敷?(^_^;)」
「ええ、一度父に連れて行ってもらったことがあるんですけど、お座敷はちゃんと個室みたいになっててプライベートが保てるんです。」
「は、はぁ(゜゜;)ドキドキドキ……!」
「どうかしました?」
「えと…あのやっぱり二人きりの個室はマズイのではと…?」
「それは逆です。偶然とはいえ職場の誰かに見られるとも限りませんでしょ?」
「はい。。」
「だからここら辺のオープンなイタリアンやフレンチのお店じゃ、外の通行人にも目撃されてしまうの。いつ知り合いに見られてもおかしくないとは思いません?」
「確かにそうですね。。」
「私、森田さんに迷惑かけたくないのでこういう形がいいかなって。」
「なるほど。よくわかりました。でもその和食の店って高くないですか?」
「大丈夫です。割烹とまではいかないくらいの中堅クラスのお店。お値段もリーズナブルなんです。」
「ならいいんですが…恥ずかしい話、持金が足りるかどうか心配で(^_^;)」
「私が払いますから心配しないで下さい。」
「いや、そういうわけには…」
「だって私から誘ったんだし、以前の焼きとりのお礼をする番でもあるんです。」
「なんか申し訳ないなぁ。。」
「そんなの気にしないで下さい。あ、そうだ。森田さんこれを…」
そう言うと三木さんはバッグから小さな容器を取り出した。
「はい、ブレスケア。3粒あげる。口の中がスッとしますよ♪」
「あ、ありがとうございます。この距離からでも匂います?」
「ええ、けっこう(^_^;)」
「ごめんなさい。。。」
こうして僕と三木綾乃さんのお食事会が始まろうとしていた。
(続く)