その22 いずみの幻滅(前編)
いずみの幻滅(前編)
●森田ゆりかの視点
胸騒ぎがした。今朝はいつもの卓さんとは少し違ったような気がする。
初めての参観日だから緊張してたのは確か。でもそのことじゃない。
卓さんが私にお金を要求したこと。
いずみの参観が終わった後、午後から会社の新入社員の歓迎会があるとは聞いていたけど、その分のお金は持たせたはず。
いつもならそれで何も言わない彼なのに、今回初めて私に訴えてきた。
「あのさ…万が一のために予備のお金くれないかな?^_^;」
「(・_・)エッ?足りない?」
「いや、たぶん足りるとは思うけど…ほら、誰かお金忘れて来たとき貸してあげたりとかできるし。」
「それはそうだけど。。」
「使わなかったら今晩ちゃんと返すから。」
「え、ええ。じゃあ、あと1万円ね。」
「ありがとう。良かったぁ。無理言ってごめんね。」
「・・・・・」
私はこの時の卓さんの一言『良かったぁ』という言葉が腑に落ちなかった。
何かお金をらえてホッとしたような一言に聞こえる。
もっとお金が要りような何かがあるような・・・
こんなこと思うのは考えすぎなのな?私がネガティブなだけ?
そう思いながらも言えずに卓さんを送り出したあと、玄関の掃除を始めた私。
靴を並べながらあることにハッと気づいた。
そこには卓さんが今日履いていくはずの革靴が。。。
「ヤダ!卓さん、スーツなのにスニーカー履いて行っちゃったんだわ(^□^;A」
だが、時はすでに遅い。卓さんが出てから15分も経っている。今更走っても追いつく距離じゃない。
「いいわよね。どうせ教室に土足で入るわけじゃないし。」
日曜は主に掃除の日。普段の私たちは共働きなため、なかなか家の掃除ができない。
「いずみが帰って来るまでに片付けちゃおう♪」
こうして私はほんの少しの胸騒ぎを抱えながらも家事に勤しんでいた。
お昼を過ぎた頃、玄関のドアが激しい音をたてて閉まる音がした。
何事かと思って私が玄関へ行こうとする前に、ドカドカと足早にキッチンに入ってくるいずみがいた。
この子の目は怒りで満ち溢れている。
「ママ、もうやだ!だから言ったんだよ!卓くん来るの絶対反対だって!!」
「ちょっとまってよ。一体何があったの?事情が全然わからないわ。」