その14 不可能な約束
不可能な約束
「そんな驚いた顔しなくてもいのに。あなたってウソのつけないタイプね。」
と言って、倉沢まりもは森田卓に軽く微笑みかける。もちろんこれも演技のひとつ。チビデブの森田なんて本来ならみじんの興味もない。
でもこれは指示された命令。言う通りにすればあの人に気に入られる。そしてもっとあの人と距離が近くなる。
「でもどうして僕の職場がわかったんですか?」
森田卓が動揺した顔で私に聞いてくる。
「あ、それは違うの。私、ここの部長に用件があって来たんだけど、終わってここを歩いてたら偶然森田さんを見かけたってわけ。」
「あーなるほど。部長とお知り合いだったんですか。」
「ちょっとね。さっきも森田さんたちが階段を上ってくる所を上から見てたんだけど、気づかなかった?」
「いえ、僕は下向いてたんで・・」
「あらそうだったの。部長は私に気づいたみたいだったのにね。」
「ほんとに?」
「でも部長ったら私を見て階段で固まっちゃうんだもの。 (o^-^o) ウフッ」
「それは・・何ででしょう?」
「ナイショ!それよりあなたとここで再会するなんて、こんな偶然も何かの縁よね。」
と心にもないことを言ってみる。
『縁なんですかねぇ?(^_^;)」
「きっとそうよ。あ、そうそう!こんな良い機会にめぐり会えたんだから、私に昨日のお礼をさせて下さらない?」
「いえいえいえ、いいですよそんなこと。。」
「それじゃ私の気がすまないの。今日すぐにとは言わないから改めて別な場所で会ってくれないかしら?」
「会って何を・・?」
「森田さんの好きなものをプレゼントしたいの。私が勝手に選んで嫌な物もらっても嬉しくないでしょ?」
「いえ別に、もらいものなら何でもいいですけど(^^ゞ」
「(ノ _ _)ノコケッ!!そういうの私が嫌なんですっ!」
「でもホントに何もいらないですから。」
「とにかく!じゃ今度の日曜に会って下さらない?ね、いいでしょ?」
まりもはここで押しまくった。こういう男は強い姿勢で押されると断りきれないタイプが多いのだ。
「あ、でも今度の日曜日は娘の参観日があるので。。」
「それって丸一日なの?」
「いえ・・たぶん午前中で終わりかと。。」
「なら午後から決まりね!約束よ。」
「でもちょっと・・」
「1回お礼させてもらったらそれで私の気が晴れるの。1回だけだから。ね、いいでしょ?」
「・・・ん〜ん。。じゃその・・1回だけということで。」
( ̄ー ̄)ウフフ・・ほら堕ちたわ。
「奥さんには言わないでね。変に勘違いされたら森田さんも困るでしょ?」
「そ、そうですね。そうします。はい。」
「良かった。さすが森田さん。話のわかる人だわ。」
「は、はぁ・・」
「じゃ私はこれで。(*'‐'*)ウフフフ♪」
こうして充分な成果が得られたまりもは、この会社をあとにしたのである。
●森田卓の視点
ーー昼休みーー
朝のまりもさんの一件が落着したかと思ったら、次は三木さんから突然手渡された手作り弁当に僕は戸惑っている。彼女自身はどこかに食事に行ってしまってここにはいない。
他の男性社員も社食なので、僕のデスクのまわりには誰もいなかった。
その中で、ゆりかの弁当と三木さんの弁当を交互に眺めている僕がいた。
『どうして三木さんが僕に・・』
そう思いながら、僕は彼女の弁当から手をかけた。
「えっ?これは・・」
弁当を包んだハンカチの中から手紙らしきものが。。。
「読んでいいのかなぁ?・・でも僕にくれたものだからいいはずだよな。。」
僕はきれいに折り畳まれた一通の紙をゆっくり開いた。
森田さんへ
突然の手紙ですみません。昨日はご馳走様でした。
筆不精なので、文面がメチャクチャかもしれませんが許して下さい。
実は私、この部署に異動して来てから、ずっと森田さんのことが気になっていたんです。本当です。他の社員に弄られながらも、必死に耐えて仕事に打ち込んでる姿勢がとてもけなげで、愛らしさと優しさ、人の良さを感じます。
急にこんなこと言って、おかしな女と思われるかもしれませんが、それを承知でひとつだけお願いがあります。今回のお礼も兼ねて、どうか私と一度、お食事でもしていただけませんか?もちろん森田さんには素敵な奥様がいらっしゃることくらいわかっています。私が森田さんの生活にご迷惑をかけるつもりなど全然ありませんから安心して下さって結構です。
今度の日曜の夜などいかがでしょう?
最後に私の携帯メアドを書いておきますね。お返事待ってます。
三木綾乃
「・・・・( ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄;)信じられない。なんで僕なんだ。。」
(続く)