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その13 思いがけない日

思いがけない日


●森田卓の視点

 オフィスビルのエレベーターのブザーが鳴った。重量オーバーのようだ。

最後に乗って来たのはでっぷりとしたタヌキ腹の部長。僕の直属の上司でもある。

 僕は入り口の左側にいて、降りる階のボタンを押そうとしていた時だった。

 

 部長はすぐに出ようとせず、エレベーターの中を軽く見回す。

一瞬ヤバイと思ったのに、見事に部長と目が合ってしまった僕。

「森田、わかるよな。」

「・・・はい。。」

 僕は渋々エレベーターから降りたものの、それでもブザーは止まらない。結局、部長も降りることになった。

 ならば僕はまた乗れるはずだと思ったけど、部長の手前そんなこと恐れ多いことできるはずもない。

 エレベーターは静かに閉まり、階上へ上って行った。

「森田、カバン持ってくれ。階段はきつい。」

「は、はいっ(-_-;)」

 僕は部長の後ろにつくお供のような形で、階段を上り始めた。

「ところで森田、奥さんは元気か?」

 部長は僕の上から振り向かずに言う。

「は?はぁ・・元気ですが。」

 僕に話しかける人はみんなゆりかのことを聞いてくる。

「家ではちゃんとお前がリードしてるのか?」

「ええと・・どっちかっていうと奥さんの方かも。。」

「なんだ。思ったとおりの答えじゃつまらないな。ワハハハ!」

「・・すいません。。」


 僕は聞こえないくらいの小さなため息をついて、うつむきながら足取りも重く進んでいる。

そのため、部長が階段の途中で立ち止まったことには全く気づかなかった。

それがまさに今日のドジの始まりを意味することになった。

 つまりその後どういうことになったのかというと・・

 そう、前を見ないで進む僕の頭が部長の股間にすっぽりとハマってしまったのだ。

「あぁんっ!!」

と、突然予想外の奇声。


  え?(?_?)あぁんて・・部長。。


僕は股間に挟まったことにも増して、部長の口から飛び出た『喘ぎにも似た言葉』のダブルショックで、そのまま頭を引き抜かずに、持ち上げてしまった。

当然のように部長の体も持ち上がる。

「バカッ!森田危ない!何すんだ降ろせ!」

今度はいつもの部長の口調。

「あ、はいっ。すいません。」

僕は慌てて頭を下げたため、部長の着地が失敗して、前のめりに倒してしまった。

階段に打ち付けられてうずくまる部長。

「ぶ、部長・・大丈夫ですか?」

「・・・大丈夫だと思うか?」

 自分の手や足をさすりながらゆっくりと起き上がる部長。

「申し訳ありませんっ!」

僕は深々と頭を下げるしかなかった。

当然、烈火のごとく怒鳴られることは覚悟していた。

それなのに意外や意外、部長は物静かな言葉で許してくれたのだ。

「・・まあいい。急に途中で止まった俺も悪かったしな。」

「は、はぁ。。」

「それに大した怪我もしなかったから良しとしよう。」

「あ、ありがとうございます。なんと言っていいのやら。。」

「森田、このことはもう忘れろ。」

「えっ?」

「今のは全てなかったことにするんだ。お前のしたことも聞いたこともな。」

「・・・聞いたこと?」

部長はなぜか体裁悪そうに念を押しながらつけ加える。

「・・そうだ。聞いたことも全てだ。それならお前を許す。わかるな?」

「・・はい。。」

「よし、じゃ行くぞ。」


 この後、僕と部長は無言のままオフィスへ向った。

明らかに部長はあの奇声を僕に聞かれたことを気にしているのは明白だ。

 そういえば、以前に部長の噂を聞いたことがある。SMクラブのあるビルに部長が入って行くのを目撃したという噂。

そういう噂には日に日に尾ひれがつくもので、部長はその中でM奴隷となり、いたぶられながら快感の悲鳴をあげているというのだ。

その噂が本当だとすると、さっきの奇声の説明もつく。

 まぁ、でもそんなことどうでもいいや。別に誰にも言うつもりなんてないし、僕のドジがそれで帳消しになるんなら万々歳だ。


 ようやく自分のデスクに落ち着いた僕は、もうすでに一仕事終えたような疲労があった。これから本番なのにどうしようもなくダルい。

僕は一旦廊下に出て、ひとつ大きな深呼吸をしていると、園崎さんが話しかけてきた。

「森田、昨日はご馳走様。またおごってね。」

「あ、はい。。(⌒-⌒;」

「今日は残業しないわよ。いいわね?」

「も、もちろんです(^_^;)」

園崎さんの前では妙に緊張してしまう。

 続いて三木さんが近づいて来た。おそらく彼女も昨日のお礼を言いに来たのだろう。

「森田さん。あの・・」

「あ、そんないちいちお礼なんかいいですよ。」

「いえあの・・お礼もそうなんですけど、これを。。」

「は?」

三木さんが手に持っているものは、明らかに彼女の手作り弁当と思えるものだった。

「森田さん、良かったら食べて下さい。。」

「・・・へ?」

「森田さん、今は社員食堂で食べてるでしょ。だからいいかなって・・」

三木さんは顔を少し赤らめながら小走りにオフィスに入っていく。

 僕は狐につままれたような感覚だった。

「なんで僕に?・・昨日のお礼のつもりなのかな?」


 なんだかわからないまま僕もオフィスに戻ろうとしたとき、またまた別な女性から呼びかけられた。

「森田さん。昨日はどうも (o^-^o) ウフッ」

振り返るとそこには意外な人物がいた。

「Σ|ll( ̄▽ ̄;)||l・・・ま、まりえさん?」

「・・まりもですけど。。( ̄ー ̄; 」

「あ、ごめんなさい。(^□^;A」

              (続く)


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