その12 ゆりかの朝
ゆりかの朝
●森田ゆりかの視点
「あの・・ゆりかちゃん。」
卓さんが真面目な顔で話しかけてくる。そのとき私は不思議に思った。
やっと私の名前を呼び捨てにすることに慣れてきたかと思ってたのに、また“ちゃん付け”に戻っている。
卓さんはそんなことなど気にも留めず、続けてしゃべり出した。
「あのさ、僕・・すごく不器用だからさ・・同時に二人も愛せないなんだ。。」
(・_・)エッ......?なに?なんのこと?何を言ってるの?この人
突然の彼の言葉。私はすぐに理解することができず、言葉さえも発することができないでいる。
「ゆりかちゃん聞いてる?固まってるよ?」
卓さんの言うとおり、私の口は半開きのまま呆然と彼を見ていた。
「あの・・卓さん・・よくわからないんだけど・・どういうこと?」
やっとの思いで口から出た言葉だった。
「ごめんね。。僕、ゆりかちゃんのこと大好きなんだ。ホントだよ。だけど・・」
「だけど・・なんなの?」
「だけど・・ゆりかちゃんより超好きな人がいるんだ。。」
ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!!ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!!
「えええええええ〜〜?!!ウソでしょおおおお〜〜??」
私の雄たけびもよそに卓さんはなぜか照れ笑いしている。
「実は玄関の外に待たせてるんだ。連れて来るね。」
Σ|ll( ̄▽ ̄;)||lな、なんでよぉぉぉぉぉ〜〜!!
「ちょ・・ちょっと待って卓さ・・」
私が言い終わらないうちに彼は小走りに玄関へ消えて行く。
『一体、何が起こってるの?何でいきなりこんなことに・・それに何で卓さんはそんな人私に会わそうとしてるの?』
この短い時間に急に考えても頭がパニくるだけでわからない。
「ゆりかちゃんお待たせー。ほら入って。」
卓さんに誘導されてリビングに現れた人を見て私は仰天した。
身長は180センチはあるかもしれない。コートを着ているが明らかに肩幅が広く胸板も厚い。
「どう?僕の超好きな薫ちゃんだよ。」
「・・・す、卓さん。。その人・・もしかしてニューハーフじゃ。。(⌒-⌒;」
「すごい!さすがゆりかちゃん、よくわかったね!僕、頼りがいのある人に弱いんだよ。」
「・・・( ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄;)」
「ごめんね。ゆりかちゃんとはこのまま仲の良い友達で・・」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
私は気が狂ったように絶叫した。
『なんで・・なんで私がニューハーフに卓さんを取られるのよぉぉぉぉ!!』
と、ここでハッと目が覚めた。
「夢。。。」
ベッドでしばし呆然としている私。時計を見るとまだ午前4時20分。
絶叫したのは夢の中だけだったのだろうか?となりで卓さんが爆睡している。
そんな彼の寝顔を見ながら私はホッと胸を撫で下ろしていた。
『私ってバカみたい。夢でこんなオチをつけるなんて。』
自分で自分に失笑していた。
『・・・きっと彼のスーツから匂った香水のせいかもしれない。私、無意識に疑り深くなってたんだ。。』
それからの私は寝付くこともできずにいたので、起きてお弁当作りを再開しようと思い立った。
2時間後・・・
「(_ _)(-.-)(~O~)ふぁ・・おはよぉママ。」
いずみがパジャマのままキッチンに入ってきた。
「おはよう。ご飯できてるから早く顔洗って来なさい。」
「ねぇママ・・」
「え?なあに?」
「何してんの?」
いずみが不思議そうに私の作業を見ている。
「見ればわかるでしょ。パパのお弁当作ってるの。」
「もうやめたんじゃなかったの?」
「一旦はね。でもやっぱり作ることにしたの。」
「ふうん。二つあるけど一つはアタシの?」
「ママのよ!いずみは給食でしょ!今日のメニューはたしかクリームシチューじゃなかった?」
「そうだけど・・・このお弁当のおかずも食べたいなぁ。。」
「食卓に準備してるから朝ごはんに食べなさい。」
それを聞くと、今まで寝ぼけ眼だったいずみが瞬時に目を見開き、素早く食卓へ駆け寄り歓喜の声をあげる。
「(@^∇^@)わぁーい。エビチリがあるぅぅ〜♪」
「ちゃんと顔洗って着替えてからね!」
「(・ー・)ノはーい。あ、そうだ。それはそうとママ?」
「ん?まだ何かあるの?」
「卓くんに言ったの?」
「何を?」
「ほら父親参観のこと。」
「あぁ、そのことなら昨日パパが帰って来てから言ったわよ。」
「行きたくないとか言わなかった?」
「ちゃんと行くって言ったわよ(^_^;)」
「工エエェェ(´д`)ェェエエ工・・やだなぁ。。。」
「そんなこと言わないの。」
ちょうどその時、卓さんが部屋から起きてきた。いずみの言葉の語尾だけ聞こえたようだ。
「ん?何かやなことがあったのかい?いずみちゃん。」
「うわっ!卓くんだっ!(⌒-⌒;なんでもないよ。じゃ顔洗ってきまーす。」
いずみは一目散に洗面所へ走って行った。それを不思議そうに見つめる卓さん。
「学校でイジメられたりしてるのかな?」と、心配そうに私に聞いてくる。
「ううん。そんなこととは全然違うの。それよりどう?昨日の酔いは覚めた?」
「うん。まだ少し眠いけどね。ゆりかは随分早く起きたん・・・あっ!」
「どうしたの?」
「もしかしてそれ弁当?」
「もしかしなくてもお弁当よ(^_^;)私と卓さんのね。」
「もう作らなくてもいいって言ったはずだと思ったんだけど・・僕まだ言ってなかったっけ?」
「ちゃんと聞いてます。」
「あー良かった。また言ったつもりで言ってないのかと思ったよ。」
「卓さん、自分で言ったことぐらい憶えててね(^_^;)」
「アハハ・・そうだね。で、なんでまた弁当作ろうと思ったの?」
「え?別に理由はないけど・・ほら、どうせ朝ごはんの準備はしなくちゃでしょ?一石二鳥でいいじゃない。」
「ゆりかがそれでいいんならだけど・・」
「全然平気よ。私も何回か社員食堂で食べたけど、男の人がいろいろ話しかけて来てうるさいのよ。」
「(゜〇゜;)えっ?それってナンパされてるってこと?」
「私が結婚してるって知ってるから冗談だろうけど、旦那に飽きたらいつでもどうぞとか。」
「(^□^;Aそ、そんな。。」
卓さんはすごく焦っていた。ちょっとイジワルなこと言っちゃった私。
これは夢のお返しなのよ。卓さん許してね (o^-^o) ウフッ
でも依然疑念が残るのは、彼のスーツから匂った香水のことが私の頭の片隅から離れていなかった。
(続く)