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その11 眠れぬ森田卓

眠れぬ森田卓


●森田卓の視点

 僕は寝室で横になりながら考え込んでいた。

ゆりかはとなりで静かな寝息を立てて気持ち良さそうに寝ている。


『いつも可愛い寝顔だな。。(*^.^*)』


 僕にはゆりかという素晴らしい女性がいてホント幸せだと思う。

だから逆にこの幸せが夢じゃないかと急に怖くなるときもある。

もし夢ならどうかいつまでも覚めないで欲しいと。

そして今まさにそんな不安が一気に押し寄せてきていた。


『こんなミテクレの悪い僕を選んでくれて、ゆりか自身は幸せを感じてくれてるのかな?彼女は後悔してないんだろうか?』


 僕はまだゆりかを守るなんて立派なことが言えた義理じゃない。むしろこの前の下着泥棒の一件といい、彼女に守られ、救われてるくらいだ。

愛想を尽かされたとしても文句言える立場じゃない。ドジが治らない今でもゆりかは僕を支えてくれている。なんでだろう?

 僕は更に深く考え込んでいった。。


 考えれば考えるほど悪いことばかりが思いつく。

 ゆりかはまだ暗示から解けていないんじゃないか?

 最初の出会いは合コンでいきなり僕に告白してくれたことから始まった。まさに夢のような話。でもそこから間もなくして僕は奈落のどん底に叩き落された。

 でも考えてみれば本来はこれが当然の形なんだ。暗示から覚めれば僕を好きになる要素なんてない。それなのにゆりかは再び僕のところに戻って来てくれた。


『まさか・・暗示が解けてないんじゃなくて、再び催眠をかけられたんじゃ・・?』


 そう思い始めると更なる不安と恐怖が僕を襲う。

『ダメだダメだ!プラス思考でなきゃダメだ!もっと良い解釈すりゃなんてことないんだ。過去にあった忌まわしい暗示のことなんて断ち切ってしまおう!』


 僕はふと、今夜の帰り道での出来事を思い出した。

『あのときだって・・そうさ、きっと僕は意外とモテるのさ。倒れた女性を起こしたくらいで、相手から携帯番号とメルアドを教えてもらえるんだ。』

 僕は改めてあの場面のことを頭の中で再生した。



「一応、全部拾ったと思いますけど・・バッグの中身に不足してるものはないですか?」

「ええと・・・あっ!アレが・・ないわ。」

「アレ・・ですか?」

「ええ・・アレが・・その・・」

 その綺麗な女性は路上をキョロキョロ見渡した。僕も釣られて一緒に彼女の目線を追う。

 すると二人同時に、落ちている“ある物”を発見して声を出した。

「あった!!」

 綺麗な女性はそれを見つけるや否や、素早く拾い上げ少し顔を赤らめている。そう、彼女が拾った自分の持ち物は避妊具だったからだ。

僕はどうリアクションすればいのかわからないのが災いして、逆にとんでもないことを口に出してしまった。

「それって、丈夫そうでいい品物ですね(^_^;)」

「(*v.v)恥ずかしい・・・」

「(゜〇゜;)ハッ!ご、ごめんなさい。失礼なことを。。」

「い、いえ、いいんです。落とした私が悪いんだもの。あなたはとても親切で優しい人だわ。」

「いえいえ、僕なんか・・」

「あの、もし良かったらお名前教えてくれません?私は倉沢まりもといいます。」

「まりも・・さんですか?ペンネームとか?」

「いえ、本名です(^_^;)昔からよくそう言われるんですよね。」

「すいません。また失礼なことを・・」

「いいのいいの。もう何十回も言われてるから。私、釧路出身なの。阿寒湖の近くに住んでたので両親が。単純よね。」

「あーはいはい、なるほどねぇ。阿寒と言えばまりもですもんねぇ。」

「そんなに感心することでもないと思うけど(⌒-⌒;」

「いえいえ、とても素敵な名前で・・」

「ありがとう。で、あなたのお名前は?」

「僕なんか名乗るほどでも。」

「あのー、私が名乗ったんだからあなたも教えてくれない?(^_^;)」

「あー・・それもそうですよね。不公平ですもんね。」

「ええ。」

「森田卓って言います。でも僕、名前の由来は親から聞いたことないですよ?」

「誰もそこまで教えてくれとは言ってませんから。( ̄ー ̄; 」

「あ、そうでしたか。なら良かった。」


 その後、僕はまりもさんを少し先の大通りまで肩を貸して、タクシーを呼び止めることにした。その短い道中、なぜかまりもさんは僕に果敢に話しかけてくる。というか要求してくる。

「お願い。森田さんも私の肩に腕をまわして支えて。でなきゃ私、倒れちゃう。」

「は、はぁ・・そういうもんですかねぇ?」

 僕はとりあえず言われるがままにしてみた。

「森田さん、手が震えてるわ。緊張しなくてもいのよ。 (o^-^o) ウフッ」

 別に緊張などしていなかった。どのくらいの力で支えたらいいのか要領がつかめないだけだった。


 まりもさんが僕にどんどん寄りかかってくる。よっぽど足が痛いのかな?

 僕はあまり背が高くないから、彼女の吐息が僕の顔のすぐ横に吹きかかる。

「森田さんの好きな女性のタイプってどんな人かしら?」

「ん〜・・どっちかって言えば、可愛いより綺麗系ってゆうか・・」

 僕は横のまりもさんをチラ見すると、彼女は僕の顔をじっと見ながら一緒に歩いていた。

「私は森田さんのタイプに当てハマるかしら?」

「そりゃ、まりもさんは見ただけで綺麗な方ですから。。」

「じゃ当てはまるのね。嬉しいわ。」

「は、はぁ・・(^_^;)」

「こんなに親切にしていただいて、私に何かお礼をさせて下さいね。」

「いやそんなことは・・」

 まりもさんはおもむろにバッグから携帯を取り出す。

「私のメルアド、赤外線送信するから森田さんのと交換してくれません?後日またお礼をさせていただくのに、会う約束をして欲しいの。」

「はぁ、それは構いませんが・・」


 こうして僕は倉沢まりもさんとアドレス交換をしたのだった。

でもこれって本当に僕はモテてたのかな?僕のどこを気に入ってくれたのかな?暗いから僕の顔がわからなかったのかもしれないな。

それに彼女がタクシーに乗ったときはなぜか機嫌悪くなってたし。。

 まぁ、想像してもしょうがないからな。もう寝ないと明日の仕事に支障が出そうだ。

 ふとんの中でずっと考え込んでいた僕は、次第に心地よい睡魔と共に深い眠りに就いていった。



 一方、自室ベッドの中の倉沢まりもは未だ寝付けないままでいた。

「私を好きなタイプだと認めておきながら・・あのブ男!!」

 そう、まりもが怒っている原因は、森田と携帯メルアドを交換してから後の会話。


「私って森田さんにとって魅力的な女に見える?」

「えと・・その・・はっきり言うの苦手なんですが・・」

「構わないわ。タイプに当てハマるって言ってくれたじゃない。」

「ええ、まりもさんはお綺麗なのは間違いないんですけど・・」

「けど?」

「魅力を感じないってゆうか・・」


 ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!!ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!!


 まりもは大ショックだった。こんなこと言われたのは生まれて初めてだ。

「意味わかんないわ。タイプなのに魅力感じないってどういうこと?」

「ごめんなさい。本当にごめんなさい。まりもさんのせいではないんです。」

「余計わかんない!」

「あの・・僕にはお嫁さんがいまして。。」

「あぁ、そういうことね。お嫁さんに気を使ってるのね。私は相手が既婚者でも独身でも好きになったら関係ないタイプなの。」

「そういう人もいますよね。再現ドラマでよく観ます。」

「再現って・・(^_^;でも奥さんがいるだけで私の魅力って感じないものなの?」

「そりゃうちのお嫁さんより素敵な女性がいたら感じるかもしれませんが・・あ(゜〇゜;)すいません。。( ̄ー ̄; ヒヤリ」

 倉沢まりもは凍りついた。

「そ、そんなに森田さんの奥さんて綺麗な人なの?」

「え、ええ。自慢じゃないけどすっごく綺麗なんです。」

「それって自慢よ(⌒-⌒;」

「アハハハ(^□^;A そうでしたか。」

「ねぇ、奥さんて私より綺麗な人?私・・ひょっとして森田さんのこんな優しいとこ、好きになっちゃったかも。。」

 まりもが森田の耳元で囁くような悩ましい声で誘惑しても、鈍感な彼は躊躇なく言い放った。

「うちのゆりかより上をいく女性はいないんじゃないかなぁ・・」


 まりもの嫉妬心に火がついた。

『森田ゆりか・・・どれだけの女か知らないけど、超ムカつく!!!』

 ある人物から依頼されて初めて森田卓を尾行したとき、車の中から一度だけゆりかの後ろ姿を目撃したことがある。(その1参照)

でもそのときは卓ばかりに気を取られて、ゆりかに目はいかなかった。

『ふんっ!ブ男の目なんてイカれてるだけよ!あんな男に私より上の女がつくはずないわ!』

 怒り心頭のまりもはタクシーを捕まえて早々に乗り込み、森田に演技の挨拶をしてその場を跡にしたのである。


『森田ゆりか・・』ベッドの中で目を見開いて呟くまりも。

今の彼女の心境は、指令どおりに森田卓をターゲットにするよりも、ゆりかを苦しめてやろうという気持ちが勝っていた。

                (続く)


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