その10 作戦決行・・のはずが。。
作戦決行・・のはずが。。
その夜、倉沢まりもは寝付けなかった。寝付けるはずもなかった。
「なんなのよあの男は・・もうっ!」
そんな悔しさでいっぱいの思いが彼女を寝かせなかったのだ。
午前3時20分・・・もう何度寝返りをしただろう。安定剤でも飲もうか?でも今からでは朝が起きれなくなる。
「参ったわ・・アタシがこんな目にあうなんて。。」
まりもはつくづく園崎頼子が言った言葉を思い知らされた。
“森田には精神的にイライラさせられる”
まさに今夜はそれだった。しかもまりもは森田卓をオトセなかった。つまりあんなブ男にコケにされたのも同然だ。
今まで男を誘惑することに失敗したことがない彼女にとっては屈辱な出来事。
ベッドの中で忘れようとすればするほど、鮮明にそのときの光景が閉じた目の中で再生されていた。
____約5時間程前____
森田卓・園崎頼子・三木綾乃の面々は、飲み会がお開きになるとすぐに現地解散となり、それぞれの家路へと消えて行った。
森田卓の足取りは重かった。なんせ今日はおごり役。少ないこづかいの穴埋めをこれからどうしようかと悩みながら歩いていた。
そこへ前方から少しフラつきながら歩いて来たのが倉沢まりも。そして森田とすれ違う10メートル手前付近でよろめいて倒れる演技をする。
ドラマでありがちなベタな方法ではあるが、これが森田に近づける確実な策だとまりもは思っていた。
仮に逆ナンなんかしても疑われるに決まっている。事前調査で多少彼には自虐の気があることがわかっている。
つまり自分のルックスにモテる要素などないことくらい身の程を知っているということだ。
他の手としては、仕事面での付き合いから徐々に・・という作戦もあるが時間がかかりすぎる。森田ごときの男にそんな時間は割いていられない。
倉沢まりもは予定通りに路上で気分悪そうにうずくまり、地面に落としたバッグの中身も撒き散らすようにした。
『さぁ森田・・早く私を助けに来なさい。。( ̄ー ̄)うふふ・・』
しかし近づいてくる足音は、すれ違いざまに大きくなったかと思うと、そのまま徐々に小さくなって行く。
『(・_・)エッ......?』
そう、森田は全くまりもに気づかずに通り過ぎてしまったのだ。
『Σ|ll( ̄▽ ̄;)||lちょっと何なのよっ!!信じらんない!!』
このままじゃ、まりもは単なるおバカ。彼女はすかざず“助けを求めるセリフ”を去ってゆく森田の背中に浴びせる。
「すいませぇ〜ん。ちょっと誰か・・」
だがこんな中途半端な声では過ぎ去る森田を止めることなどできない。非常に不自然ではあるが、まりもは駆け足で彼の背後まで近寄ってから改めてその場で倒れる。
しかし無残にもそれすら気づかれない。彼女は怒り心頭して語気を強めて叫ぶ。
「ちょっとそこのあんたっ!!助けてってばっ!!」もう演技など忘れていた。
「・・えっ?」やっと立ち止まり、まりもに気づいて近寄って来る森田。
「ど、どうかしましたか?」
「ちょっと目まいがして・・・うっ!足もくじいちゃったみたい。。」
まりもはすぐに弱々しい口調に戻った。
「はぁ。。えと・・僕はどうしたらいんでしょう?」
まりもはあぜんとした。
「どうしたらって・・立てないし。。」
「誰か呼んできましょうか?」
「あのー・・誰かじゃなくてあなたが私を立たせて下さらない?(^_^;)」
「あ、これは気づきませんで。。」
気づけよこのバカ男っ!ヽ(`⌒´)ノ
内心そう思ったものの、態度に出すわけにはいかないまりも。
森田卓は彼女に肩を貸し、ゆっくり起き上がらる。まりもはわざと彼に体を預けるようにもたれかかりながら立ち上がる。
そして再びよろめいて森田に抱きつく。まさにドラマのワンシーン。
かと思いきや、それにびっくりした森田は慌てて自分の体を引いてしまい、まりもはみたび地面に崩れ落ちる。
「痛ったぁぁぁい(T◇T)」
「あああー、す、すいませーん。僕としたことが。。」
「もうっ!男ならちゃんと支えて下さらない?!」
「は、はいっ・・」
森田は再び彼女を起こす。今度は丁寧に。
「あの・・僕、ドジがクセみたいなもんで・・ホントにすみません。」
「いえ、いいのよ。ちゃんと助けてもらったし・・いきなり声かけてごめんなさい。あなたが怖い人だったら私、大変な目に遭ってたわ。優しい人で良かった。」
まりもは心無いことを言うのが得意中の得意だ。
「そ、そんなことは。。」
「寒いわ。ゆっくりだったら歩けるからこのまま肩を貸して下さらない?」
「ええ、それはいいんですけど。。」
「けど何?私とじゃ嫌?」
「そうじゃなくて・・・ひとつ聞いてもいいですか?」
「??ええ?なにかしら?」
「あなたはここで倒れたのに、バッグの中身が向こうに散らばってるのはなんでかなぁと思って。。」
「Σ|ll( ̄▽ ̄;)||l」
「まぁ、とにかく僕が拾って来ましょう。ここにいて下さいね。」
「え、ええ(^□^;A」
森田は小走りで10メートルほど離れた所でバッグを拾い上げ、まわりに散らばった中身も丁寧に回収した。
『私としたことが・・ちょっとミスったわ。』
(続く)