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月と五芒星  作者: ちまだり
第一話「霊符を駆る少年と刀を握る少女」
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第1章03 天魔襲来

03 天魔襲来

 1980年代後半、人類が有史上初めて「同じ人類以外の」知的生命体からの侵略を受けている事実が明らかとなった。

 世界各地で発生する人間失踪事件。

 この世のものとも知れぬ怪物の出現。

 厳密にいえば日本を含む各国政府が「侵略者」の存在を公然と認めたのが80年代後半というだけで、実際にはそれ以前から「彼ら」の活動は始まっていたのかもしれない。

 ――それこそ神話や伝説に語られる太古の時代より。

 人類外知的生命の実在とその侵略自体衝撃的な事実だが、それ以上に世界中の人々に心理的ショックを与えたことがある。


「彼ら」は大きく2つの陣営に分かれ、それぞれ「天使」と「悪魔(冥魔とも呼ばれる)」を名乗っていたからだ。


 天使と悪魔は互いに敵対し、宇宙規模の戦争を繰り広げているらしい。

 つまり彼らの目的は地球征服ではなく、天使は人間の感情エネルギーを、悪魔は人間の魂(生命エネルギー)を活動源とするため、お互い(天魔同士の戦争に費やされる)資源採取の一環として大規模な「人間狩り」を続けているというわけだ。

 巻き込まれた人類にとっては実にはた迷惑な話であるが。

 それ以上に問題なのは、今まで人類が一部の宗教において信じてきた「天使」「悪魔」が彼らと同一の存在か? ということだった。

 ちなみに「天使」「悪魔」といえばまずキリスト教におけるそれをイメージしがちだが、イスラム教や仏教を含め、他の宗教にも名前は違えど同様の存在はいる。

 つまりは人間を導き守る超越的な「良き光の存在」と、逆に誘惑し堕落させる「悪しき闇の存在」――それが「彼ら」なのか?

 この問題について各国の宗教家・政治家・人文系科学者たちが様々な意見を主張し、互いに激論を交わし合った。

 だがそれらは全て無駄な時間の浪費に過ぎなかった。

 今現在地球を侵略している天使と悪魔(両者を総称して「天魔」と呼ぶ)は人類側の議論などお構いなしに、世界の各地に「ゲート」と呼ばれる並行宇宙への通路を開き、そこを拠点として人間世界への侵攻を続けていたからだ。

 光と闇も、善悪もへったくれもない。要するにやっていることは人類同士がうんざりするほど長い間続けてきた歴史上の侵略戦争と何の変わりもなかった。

 強いて実例を挙げれば、欧州列強が互いに覇を競いながらも、アジア・アフリカ諸国を植民地化して現地人(当時のヨーロッパ系白人の感覚からすれば植民地の先住者たちは同じ人類の範疇にすら入らなかった)から労働力や資源を搾取し続けた19世紀の様相に近似しているかもしれない。

 間もなく各国政府による国際的統一見解が発表された。


 すなわち「彼ら『天魔』は我々が太古より信仰してきたあらゆる宗教的な存在とは一切無関係の野蛮にして邪悪な敵対勢力であり、速やかな撃退が望まれる」と。


 こうして人類側が一致団結して天魔に対抗する体制こそ整ったものの、その時点で天魔と人類の間には、軍事面において絶望的といえるほどの格差があった。

 たとえば天魔の眷属(王族クラスから最下級の怪物まで様々な階級が存在すると思われる)はすべからく「透過能力」を有し、鉄やコンクリート、炎や放射線さえも全て透過してしまう。

 つまりはナイフから核兵器まで、従来人類が「武器」「兵器」と呼んできたものは全く意味を為さないということだ。

 これでは戦闘にすらならない。

 そのうえ天魔は(少なくとも)地球上においては「人類からのエネルギー収奪」を最優先とし、両陣営の末端同士で時折小競り合い程度は起きるものの、お互いのトップが協定を結び大規模な衝突は控えているらしい。

 このまま手をこまねいていたら、いずれ地球全土は天使・悪魔いずれかの支配領域に取り込まれ、人類は天魔いずれかの「家畜」として感情か魂か、どちらかを一方的に搾取される立場に追い込まれていたであろう。

 だが本物の「神」(存在するとすればだが)はまだ人類を見捨ててはいなかった。

 時を同じくした80年代後半より、人類のうちより天魔による感情/生命エネルギー吸収に強い耐性を持ち、しかも彼らの透過能力を無効化し得る異能力者(アウル行使者)が多数出現。

 十代の若い世代を中心にアウル行使者の数は急速に増え、当初彼らは古来より世界各地に伝承されてきた各種の退魔術を用いて天魔に対抗していたが、対天魔戦に高い威力を発揮するV兵器ヴァイサリス・ウェポンの開発成功により格段に戦力を増し、ディアボロやサーバントと呼ばれる最下級天魔はもちろん、時には彼らの創造主である天使や悪魔をも敗走させるほどの戦果を挙げるようになった。

 アウル能力とV兵器により天魔と戦う専門の戦士――「撃退士ブレイカー」の誕生である。

 これには天魔側も少なからず困惑したと思われる。

 むろん彼らが本気を出して大軍を投入すれば撃退士もろとも人類を滅ぼすことも可能であったろう。しかしその場合、エネルギーを収奪する対象をも失うことになり、そもそも地球侵攻の意味がなくなる。

 そして21世紀の今日。

 天魔のゲートは世界各地に依然として残っているものの、人類への直接的かつ大規模な攻撃は急激に頻度を落とし、小規模かつ散発的なものとなった。

 残念ながら、人類側の撃退士にも天魔の大規模ゲートを破壊するほどの戦力はない。

 仮に天使か悪魔、どちらか一方に戦力を集中すれば相応の戦果を挙げられるかもしれないが、その場合人類側も多大な犠牲を払い、しかも残った勢力が「漁夫の利」を狙い地球全土の占領に着手するのは目に見えている。

 天使、悪魔、そして人類による三すくみ状態――かくして危ういパワーバランスの下、世界は辛うじて表向きの平穏を迎えることとなった。

 だからといって撃退士の戦いが終わったわけではない。

 大規模な侵略は止んだといえ、人間社会における事故や犯罪が絶えないように、今日も世界の各地では末端レベルの天魔のもたらす「災害」が絶え間なく起こり続けているのだから。



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