1.Noting(裸の少女)
頭が重い―――
まず一番初めの感想はそれだった。
2時間ぐらいしか寝てなくてほとんど徹夜だった時の覚醒のような。
「ッ・・・・・・」
東国真知香はゆっくりと重い瞼を開けた。
最初に映り込んだ景色は緑だった。
なんていうか全体が緑。―――木だった。
マチカは木に囲まれていた。
そこは森だった。
自分が寝ていたのは、柔らかい葉っぱや土の上であることが手から伝わる感触で理解できた。
自分の長い黒髪に木の葉やらドロやらがついてる。マチカはそれを払って立ち上がった。
しかしここはどこだ?
昨夜自分は何をしていたのだっけか。
仕事帰りに新しくオープンした焼き鳥屋にでも行ったのか?
なら酒に酔ってどっかの自然公園でふて寝でもしてしまったのだろうか。
今何時だろう―――
マチカは自分の左腕に目をやった。
ところがいつもならあるはずの革の腕時計はなかった。
畜生―――寝てるすきに浮浪者にでも盗られたのか―――
マチカはその場で地団駄を踏んだ。
もし仕事の時間なのならヤバい。
ただでさえ真面目にやっててもアレなのに・・・・・・
マチカは周りを見渡した。
いつも仕事に行くときにしょっているリュックもなかった。
本当に全部浮浪者にでも盗られたのか? あの中には財布も資料も入ってるのに―――
「クソックソッ!!」
マチカは自分が寝てるすぐ横に突っ立っている大木に思いっきり蹴りを入れた。
「痛ッ!!」
大木からはトゲのように枝が出ていた。
蹴りを入れたマチカの足にそれの先端が刺さってしまったのだ。
「ううう・・・・・・たかが木のくせに―――」
マチカは泣き顔になりながら大木を睨みつけた。
ひとりで自爆して―――バカみたいじゃん。
でも今本当に何時なんだろ・・・・・・。
8時過ぎてたら本当にヤバイ。
ただでさえ定時に出勤してもあの女ディレクターに目をつけられているのに・・・・・・。
遅刻なんてしたらただじゃすまない。
マチカは東京の桜TV局のADである。
高校を卒業してすぐにこの業界を夢見て入社したマチカだが、そこでの労働環境は実に悲惨なものだった。
何に関してもコキ使われるADの立場はマチカの女としての心も歪ませていった。
特に直属の上司の女性ディレクターである黒住麟には執拗にイジメに近いようなことをされ続けていた。
茶髪ロングの美人でプロデューサーのウケも良かった黒住の下につけて本当に良かったと入社当初は考えていた。
だが黒住のソレはただの表の顔に過ぎなかった―――
入社して2年経つ。もう今年で二十歳だ。
ファッションだの何だのと言っていた女子高生の頃が懐かしい―――
黒住のヤツ―――私より10歳年上だからって調子乗りやがって―――いつか地獄を見せてやる―――
マチカは心の中で毒づきながら取り合えずアパートに戻ろうと考えてポケットを探った。
だがアパートの鍵は入ってなかった。
これなんの冗談よ―――なんで私がこんな目に―――
ポケットから手を出すと何やら硬いものに当たった。
・・・・・・なにこれ?
初めは気が付かなかったが、どうやらベルトに何やら挟んであるらしい。
マチカはソレを引っこ抜いた。
―――それは拳銃だった。