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せ・ん・り・つ
「ん? 何?」
ヘッドホンで歌を聴いていると背中越しに肩を揺さ振られた。
「君とおしゃべりしたいなと思ってさ」
「この歌を聴き終わったら、おしゃべりしてあげるわ」
私はそう言って歌に集中する。目を閉じて歌を聴くのは最高だ。
身体を小刻みに揺らし、歌を堪能する。
ずっと聴いていられる。歌って本当に素晴らしい。
ただ私は聴くのは好きだけれど、歌うのは好きじゃない。だって声に出して歌うと誰に聞かれているのか分からないもの。
心の中ではしょっちゅう歌っている。実際に声を出して歌うのは好きじゃないけれど、心の中で歌うのは嫌いじゃない。いや、ハッキリ言って大好きだ。
心の中でならうまく歌える気がする。心の中でならプロ並みの歌唱力だと自負している。でもやっぱり声に出して歌うのは苦手。
もうそろそろ歌が終わる。聴き終わった。大満足。
「聴き終わったわ。おしゃべりしましょう」
私は目を開ける。
目の前は真っ暗――
でも私には聞こえる。闇の中に潜む住人どもの声、声、声。
やはりヘッドホンくらいじゃやつらの声は消せないか――
感想頂けると幸いです。




