訪れた機会
「先生、体操服が盗まれました」
「何だって? それで蒲野の体操服は見つかったのか?」
「どうして蒲野さんの体操服だと思ったのですか?」
三守はニヤリと笑う。俺はなんてバカなんだ。うっかり口を滑らせてしまうなんて。
「普通は私の体操服が盗まれたと思いますよね? それなのに先生は蒲野さんと言いました。先生は蒲野さんの体操服が盗まれたことを知っていた。つまり犯人は先生ですね?」
三守は俺の目をじっと見つめてきた。俺はその視線に耐えられず、ゆっくりと頷いた。
「実を言いますと、先生を尾行していたので、蒲野さんの体操服を盗むところは目撃していたんです。なので先生が犯人なのは最初から分かっていました。だから先生のところに来たんです」
まさか盗むところを三守に見られていたとはな。ん? 待てよ? 先生を尾行していたと言わなかったか? 三守は何で俺を尾行していたんだ?
「何で俺を尾行した?」
「それは先生のことが好きだからです。告白する機会を伺うために尾行していたんです。ようやく告白の機会が訪れました」
三守はそう言って腕を絡ませてくる。ほんの少し頬が赤くなっていた。
「私と付き合ってください。言っておきますけど、先生に拒否権はありませんよ。もし拒否したら先生が犯人だってバラしますから」
「……分かった。三守と付き合うよ」
俺に残された選択肢は一つだけだった。もしバラされたりしたら、俺の教師人生は終わってしまう。それは何としてでも避けたい。
「先生、もう体操服を盗んだりしないでくださいね。盗むなら私のだけにしてください。私のならどんな物でも盗んでいいですから。あ、でも命は盗まないでくださいね。先生と一緒に過ごせなくなりますから」
三守は満面の笑みを浮かべる。俺にはその笑顔がとても恐ろしかった。
「先生、大好き」
三守はニヤニヤしながら、俺に抱きついてきた。
俺は顔を引きつらせながらも、三守を抱きしめる。
――俺はもう三守には逆らえない。
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