繋がり離れ
僕らの出会いは偶然だった。
春の暖かな陽気の中、ただその場所にいて言葉を交わした。
たったそれだけの出会いだった。
でも、その偶然の出会いは、必然って思えるようになったんだ。
それから僕らが再び出会ったのは、未だに夏を忘れきれない蝉の声が鳴く頃だった。
僕はその初めての出会いの事なんて忘れていたけれど、君は笑って僕にこう言ったんだ。
「久しぶり! 元気だった?」
満面の笑みで僕を見る君は、とても綺麗で、可愛かった。
僕らは、それから何度も繰り返し会い続けた。
君は僕の何でもないような話にも、目を輝かせて聞いてくれた。
僕もそんな君の顔を見るのが楽しくて、僕の知っている限りの話をしてあげたんだ。
ただ、お店に入って話をするだけ。でも、それだけの事でも僕は幸せだった。
だけど、楽しい時間にも終わりはある。
そう。
すべての出来事には始まりがあって、終わりがあるんだ。
私は幸せだった。
桜の綺麗なあの頃に出会った、少し背の低い彼に出会ってからは。
最初の出会いは、何でもないような社交辞令だった。
でも、私はその時思ったんだ。
これは偶然なんかじゃなくて、必然だって。
次に彼と会ったのは、夏が終わって秋になろうかという時だった。
その場で彼を見た時は、思わず小躍りしてしまいそうだった。
でも、私は重要な事に気づく。
夢に出てくるほど会いたかった彼だけど、二言三言話しただけで、名前を全く知らなかった。
そんな現実にうちひしがれそうだった私だけど、勇気を出して言ってみた。
「久しぶり! 元気だった?」
って。
私たちは何度も会った。
最初はきちんとした自己紹介からだけど、それすらも楽しくて、嬉しかった。
彼の話は今までの私からは想像もつかないような、とっても楽しい話だった。
少し適当な感じはするけれど、それでも彼の話は新鮮だった。
だけど、楽しい時間はもう終わり。
私の都合で終わらせるのは悲しいけれど、だからこそ終わらせなくちゃならないんだ。
「…ねぇ。…私の、秘密、聞いてくれる、かな?」
ある日、いつも通り話に花が咲いている時、君は突然そう言った。
歯切れ悪く言った君に、僕は努めて優しくこう答えた。
「うん、いいよ。聞かせてほしいな、君の秘密」
笑いかけながらそう言うと、君は一度笑って元気なく言った。
「…私、ね。…後、三日で死んじゃうんだ…」
にっこりと私が好きな笑みを向けて、私の話を聞いてくれる彼。
そんな彼に対して、私は自分の体の事を話す。
医者にも匙を投げられ、後余命三日と宣告された私の体をの事を。
でも、彼は信じられないとか、嘘だろ?とは言わなかった。
ただ、いろんな感情が入り交じった目をして私に言った。
「…そう…なんだ。…あ、でもさ! ならその三日間は全部遊ぼうよ! 僕と、思い出を作ろう?」
この言葉は僕の本心だった。
彼女は嘘は吐かない。いや、吐けない。
それが短い間に気づいた、絶対に正解してる君の事だから。
だから、僕はそう言ったんだ。
彼の言葉は正直信じられなかった。
私の話を聞いてそんな反応をするなんて、おかしいと思った。
だけど、だからこそ彼なんだとすぐに気づかされた。
私が好きになった彼なんだと。
そう思った瞬間、私は泣いてしまった。この思いと共に。
「…わ、私は…もっと生きたいよ!」
肩を震わせながら絞り出すように、自らの願いを言う君。
僕はそんな君の気持ちなんて分からない。
だって、僕はそんな経験をしたことがないんだから。
だから、僕は君に対してできることをした。
「…なら、尚更楽しもうよ。残り少ない生を、精一杯楽しんで生きようよ」
彼は私を優しく抱き締め、そう言ってくれた。
そんな彼の優しさに、私は涙を止めることができなかった。
だから、私は彼にこう言ったんだ。
「…うん。なら、私と、三日間、生きてくれますか?」
顔を赤く染めながら、真剣にそう言う君に、僕は不覚にも違うことを考えてしまっていた。
可愛いって。
でも、すぐに答えは出たんだ。
「分かった。君が生きる最後の時まで、一緒にいるよ。約束する」
それから三日間は、二人で一緒に思いっきり遊んだ。
色んな所に言って、僕にとっても彼女にとっても最高の三日間だった。
でも、だからこそ、別れは本当に辛かった。
運命の三日目。いや、その終わり。
医者に言われた通りなら、私はいつ死ぬかなんてもうわからなかった。
でも、私にはそんな不安は一切無かった。
ただ、隣に彼がいると言うことだけで、私は幸せだった。
お互い手を繋ぎあって、肩を預けあって、最後の時を待っていた。
隣に君がいる。
ただそれだけの事に、僕は緊張しっぱなしだった。
この三日間、ずっと一緒にいたし、そんな事よりもすごい事もした。
でも、今この瞬間に限ってはそんな事は関係なかった。
二人で寄り添い会うこの瞬間に、僕は緊張していたのだ。
私は、自分自身がどう死ぬのかなんて分からなかった。
自分の体の悪い所は知っているけれど、それでも分からなかった。
ただ、彼に迷惑をかけるような死に方はしたくないって思っていた。
そんな事を考えていたからこそ、分からなかったのだろう。
知らず知らずの内に動かなくなる体と、重くなる瞼に。
君の体が崩れ落ちる。
突然の出来事に、僕は一瞬唖然とする。
でも、直ぐに彼女の体を起こして揺する。
だけど、何度揺すっても反応は無く、ただ体が冷たくなっていく。
視界が滲む。
頭の中では分かっているのに、心がそれを拒否していた。
意識の奥底で、彼が私の名前を呼ぶのが聞こえる。
悲痛なその声に私の胸は締め付けられる。
どれだけ手を伸ばそうとしても、瞼を開こうとしても、私の体は言う事を聞いてくれない。
私はそれにめげずに、体の至る所を動かす。
彼に伝えたい、たった一つの言葉を。
君の体を抱きすくめたまましばらく経った時、彼女の口が動いた気がした。
滲む視界を振り払うように、頭を振って彼女を見つめ直す。
すると、彼女の唇が微かに動く。
すぐさま僕は、耳を唇に近づけて彼女の声を待った。
やっと見つけた。
唯一動いた唇を必死に動かす。
もう、すぐそこまで来た死と言う単語に抗うように、必死に。
「…私は、あなたを、愛しています…」
彼女の口から、そんな言葉が聞こえた。
僕はそれに答えるように叫ぶ。
「僕も! 僕も、君を! 愛してる! …だから! 死なないでよ!」
彼に伝えられた。
そう分かった途端、すべての力が抜けていくのを感じた。
堕ちていく意識の中、彼の言葉が聞こえた気がした。
いくら叫んでも、いくら揺すっても反応は無い。
事切れたのだと、頭と体と心が理解した時、僕は最後の叫び声をあげた。
空に向かって。
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