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死ぬ直前

作者: 尚文産商堂
掲載日:2011/12/31

――なあ、俺は君を幸せにできただろうか。

すでに目の前がかすみつつある俺は、うわ言のように言い続けている。

妻は、俺の横の椅子に座っているようだが、もはやどのような表情をしているのかがわからない。

――君が幸せなら、俺も幸せだ。

俺はそう言ったつもりだ。

ちゃんと妻に届いているか、確かめるすべは、すでに失われた。

今はただ、黄泉の国への片道切符を受け取った身だ。

どうあがこうが、時間はごくわずかしか残されていない。


ふとした瞬間、俺は急に体が軽くなるのを感じた。

「ようこそ」

黒フードの少年が、いつの間にか妻の横に立っていた。

「君は誰だ」

「まあ、いろんな名前で呼ばれていますが、ここでは死神と、読んだほうが自然でしょう」

「…俺を連れて行くのか」

「ええ、名残は惜しいですか」

「いつかは死ぬ身だ。これからの妻がどうなっていくのかが、とても気になるが。それぐらいだな」

「死ぬのは怖くないと」

俺は泣いている妻を見つめた。

そして、少年の前に立ち、すぐ後ろに横たわっている俺の亡骸をさらにみた。

「…怖くはない、そんなことはないんだがな。ただ、いつかは死ぬことを知っているだけだよ」

「そうですか。では、鬼士にこれからの奥さんの様子を聞かせましょう」

「鬼士?」

「黄泉の国の官僚だと思ってください。では、こちらへ」

連れて行かれたのは、部屋の扉の前だった。

「よろしいでしょうか、ここを過ぎたら、もう戻れません」

「妻の様子は」

「泣いております」

「そうか」

俺は、もうためらわなかった。

扉のノブに手をかけ、一気に向こうへと向かう。


そこは、小さな部屋だった。

「鬼士、この方の妻のこれからの説明を」

「ええ、わかりました」

死神に命じられて、鬼士は、分厚い冊子を持ってきた。

「これが、すべての記録です。生まれてから死ぬまでの」

「…全員分があるっていうことか」

「ええ、あなたの分もありました。いまは、閻魔王のところへ回付されてます」

「そうなのか」

「それで、ご所望の、奥様のこれからなんですが、110歳を超えて、亡くなられるようです」

「具体的には」

「ええっとですね…113歳と2か月と5日ですね。玄孫の誕生を見届けて、亡くなります」

「そうなのか…病気とかは」

「いいえ、健康そのものです。これからも息災ですよ」

「なら、安心だな。これで、いい」

横で黙っていていた死神が、俺の言葉を聞いて、やっと動いた。

「では、こちらへ来てください」

ゆっくりと意識がなくなっていき、死神の手にひかれるままとなった俺は、いよいよ死んだようだ。

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