表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/15

決意

その夜、優真は自身の母に簡単に作れる手料理を教えてもらった。明日は早速影に何か作ってあげたくて母親を頼ったのだが、料理をあまりした事がない優真にとってそれは難しいものだった。包丁を扱うのすら中学で習った家庭科の調理実習以来である。


「母さん、毎日こんな大変な事してくれてたんだな⋯」

「大袈裟よ、大変だなんて思った事ないわ」

「準備だけでも負担かかるのに後片付けまでいつも完璧だし」

「家族がいるとね頑張れるものなのよ。料理は食べてくれる人の事を考えると張り切れるの」

「母さんってすげぇ⋯」


いつも料理を含め家事は母親がしてくれて当たり前だったから実際に料理を作ってみて分かった。準備も後片付けも正直面倒くさいと思ってしまう。それを大変だと思った事がないとキッパリ言われるとその愛情の深さを思い知る。


「⋯もしかして影くんの為?」


その言葉にドキリとした。流石母親だ。何故自分が料理を覚えたいのか見抜かれている。


「うん⋯あいつ普段コンビニやスーパーで売ってる物しか食べた事ないんだよ」

「優真が力になってあげて。影くんあまりにも可哀想よ。確か一人暮らししてるんでしょう?」

「ん⋯影を見てるとさ俺恵まれてんだなって身に染みる⋯」


比べたってどうしようもないのは分かってる。産まれてくる場所なんて誰も選べないし子供は親を選ぶ事もできない。だけどこう思わずにはいられない、親なら⋯産んだのなら責任を持って影に愛情を注いであげてほしかった。幼少期から独りとか無責任にも程があるだろ。自分が影だったら親に反抗して間違った道に進んでいてもおかしくない。なのに影は妹の光子ちゃんの為に我慢して生きている。どんな暗闇の中でもそんな優しい心を持つ影に俺は惹かれたんだ。


「母さんありがとう。明日影に作ってみる。ちょっと帰り遅くなるかも」

「影くん喜んでくれるといいわね。優真、お母さん達はあなたの味方だからね」

「ありがと⋯」


“味方”だという言葉に泣きそうになりながら、それを堪えて部屋に戻った。俺が注いでもらった愛情を影に分けてあげたい。もう独りになんてさせない。早く明日にならねーかな。影に逢いたい。







──ピンポーン

久しぶりに鳴ったインターホンの音で目が覚めた。優真の事を考えるとなかなか寝付けなくて、30分に一度くらいのペースで目が覚めて全く眠った気がしなかった。それよりこんな朝から一体誰が?と寝ぼけた思考回路の中でドアを開けると、そこには制服を着た優真の姿が。


「優真⋯?」

「おはよ、LINE送ったんだけど気付かなかったみたいで直接来た」

「おはよう。ごめん、なかなか寝れなくて⋯。今も優真が来てくれるなんて夢かと思った」

「夢じゃないよ」


その言葉と共にキスをされた。その柔らかい感触でこれは夢じゃないんだと実感する。まだまだぎこちないキスだけど優真がしてくれる事は何でも好きだし素直に受け入れられる。


「影、着替えて?そろそろ学校行かないと」

「あ⋯そうだよな。すぐ着替えるから待ってて」


優真の目の前で部屋着を脱いで制服を着ようとして彼の方を見たら、優真は顔を赤くして目を瞑っていた。


「どうかした?」

「いや⋯好きな人の裸見れないよ」


優真が照れてるところなんて初めて見たかもしれない。そうか⋯俺達付き合ってるんだからこういうのも気をつけないといつ火がつくか分からないよな⋯

キスで精一杯の俺を気遣ってそれ以上は何もしない優真の優しさを無下にしてしまうところだった。


「あと影、今日の昼は何も買わなくていいよ。母さんが影の分の弁当も作ってくれたから」

「え⋯⋯」

「でさ、夜は俺の手料理食べてもらうから」

「ちょ、急にどしたん⋯?」


優真のお母さんが俺に弁当を?そして夜は優真の手料理?


「これからは俺が愛情注ぐから。覚悟してくれ」


なんて幸せな言葉をくれるんだろう⋯

もう澄ました顔なんてできないよ、普通に泣きたくなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ