愛おしい人
「優真⋯そろそろ遅くなるから帰らないと⋯」
「お前だけ残して帰れない」
「親御さんに心配かけたらダメだろ⋯」
そろそろ19時になる。抱き合ったりキスをしたりしていたら時間が溶けてゆきあっという間に外は暗くなっていた。高校生なんだから心配かけないように帰った方がいいと諭したが優真は影から離れようとしなかった。
「⋯分かってる。でも影、俺は⋯」
「俺なら大丈夫。優真から沢山元気もらったし、なんか今日だけで俺すげー幸せな気持ちなんだ。それに俺、家族を大切にしてる優真好きなんだよ」
自分を大事に育ててくれた人達を同じように大切にしている優真を近くで見てきた。優真に反抗期なんてあったのか?と思うくらい、彼とその両親の関係は良好に見えた。影の理想とする家族関係。羨ましいとは思っても妬む事はない。優真を取り巻く環境が暖かく優しいものであれば自分の事なんてどうでもよくなるくらい。
「影はズルいな⋯俺にとっては影も家族も両方大事なのに」
「その言葉だけで十分だから⋯途中まで送るよ」
「そしたら影が帰り一人になるだろ。危ないからダメ」
「⋯俺、男だけど⋯」
過保護だと思われるかもしれないが影の無自覚さに心配になる。力強く抱き締めたら折れてしまうんじゃないかと思うほどの華奢な身体、綺麗な顔立ち、そして俺だけが知ってる朗らかな笑顔。近寄り難い雰囲気があるだけで影に惚れてる女子や男子は少なくない。本人はそれを知らないし独占欲の強い俺はこのまま知られずに自分だけが彼を独り占めしたいと思っている。
「とにかくダメなもんはダメだから。あとお前が嫌じゃないなら明日も此処に来たい」
俺がそう言うと、影は瞳を潤ませて
「ありがとう⋯嬉しい⋯」
そう言って抱きついてきた。
可愛い、愛しい、やっぱりまだ帰りたくない。でも影を困らせるのは嫌だから⋯
「じゃまた明日な」
「ん、また明日」
優真が明日もこの部屋に来てくれるという嬉しさに影は心の中で舞い上がっていた。彼がドアから出ていくのを少し寂しいと感じながらも笑顔で見送る。
優真と恋人になってキスも何度もして⋯思い出しただけで顔が熱くなるし胸がドキドキする。唇にはキスした時の柔らかい感触が残ってる⋯。
そういえば優真もキスは初めてだと言っていた。数え切れないほど告白されている彼がずっと俺を想って断ってくれていたんだ⋯と思うと、何とも言えない感情が込み上げてくる。
そして一瞬だけ舌を入れられた事も思い出してジタバタしたいくらい恥ずかしくなった。優真は⋯俺とキス以上の事もしたいのかな⋯
ダメだ⋯頭の中が優真でいっぱいで何も手につかなくなる。テストも近いし勉強しなきゃいけないのに俺の心は彼の虜になっている。
ずっとこのまま一生、独りで生きていくんだと思っていた。幼なじみの優真にはいずれ彼女ができて俺とも距離を置くはずだと⋯そう思ってたのに。まさか俺達が恋人になるなんて夢を見てるみたいだ。