守りたい
「ん⋯っ」
どれだけ時間が過ぎたんだろう。短いような長いような時間を錯誤してしまうほどの拙いキス。優真の唇と触れ合って頭がぼーっとする。
「ちょ、優真っ⋯何でキスなんか⋯」
これ以上はどうにかなってしまいそうで、優真の身体を引き離そうとするけれど力強く抱き締められて身動き取れない。
「俺の気持ちも聞いてくれ影⋯こんな大事な事自己完結しないでくれ⋯」
「え⋯」
「俺も影が好きだ。子供の頃からずっと⋯」
「ほんと⋯に⋯?」
「ん⋯俺達両想いだな⋯」
俺達が両想い⋯まさかの事実に驚いている。優真は嘘をつかないし冗談でキスなんて絶対にしない。だから本当に自分達が想い合ってるのが分かって今度は自分から優真にキスをした。数秒間の触れ合う口づけで心が満たされる。でもキスの途中で此処が外だという事を思い出した。
「優真⋯ここ、外⋯」
「無理。もう離したくない」
「知り合いに見られたらどうするんだよ⋯」
「⋯じゃお前の部屋行こ」
「そりゃ俺は一人暮らしだけど⋯」
影は高校に入学と同時に狭いアパートで一人暮らしをしていた。あの家庭に必要のない自分だけ追い出されるような形だったが、何も反対しなかった理由は妹が幸せに過ごせるならそれでいい、光子にだけは自分のような想いをさせたくないという影の優しさだった。家族なんてどうでもいいと思っていたのに「お兄ちゃん」と呼んでくれた光子の事は蔑ろに出来なかった。
「そういえばお前一度も俺んとこ来た事ないよな」
「お前が一人暮らしするって聞いた時⋯もう影の事好きだって自覚してたから二人きりは抑えられる自信がなかった」
何を?なんて聞かなくても分かる。自分だって優真を想って一人でした事はあるから。
そんな優真と密室で二人きり⋯確かに色んな意味でマズいかもしれない。でも今は優真と離れたくない。
「いいよ⋯行こ」
人目は気になるけれど手を繋いで彼らは影の住む部屋へと向かった。少しぎこちなかった二人だが歩みを進めながら指を絡めて恋人繋ぎをする。絡める指の強さや熱さからお互いにもう決して離さないという真剣な強い想いが伝わってくる。
「此処だよ、俺の部屋」
二人が辿り着いた所は一言で言えばボロアパート。パッと見た外観だけでもそれが分かってしまう。優真は今まで此処に来なかった事を後悔した。こんな所で影はただ一人で寂しく暮らしていたのかと思うと涙が出そうになった。何が「ずっとそばにいる」だよ。綺麗事ばかり言って影の孤独も知らないで。もう一年以上も影は此処で誰かを呼ぶ事もなく独りで⋯。
「入って」
「⋯お邪魔します」
影が鍵を開けてくれて足を踏み入れると、部屋の中は想像通り必要最低限な物しかなくそれが影の家庭環境や性格を物語っているようだった。
ほんと何やってんだ俺⋯影の事を誰よりも知っていると思い込んでいた。肝心な所からは目を背けて⋯。
「ごめん⋯優真と俺じゃ違い過ぎるよな⋯」
「⋯何が」
「こんな⋯古くさくて狭いとこ優真には合わないよ⋯」
「影にだって合わないだろ⋯それに泣くの我慢すんな⋯」
「ぅ⋯優真⋯っ⋯」
お前は無意識かもしれないけど、俺にどう思われるか不安で仕方ないって顔に表れてるんだから。そんな風に思わせてごめんな⋯。これからは俺が守る。まだ高校生で出来る事は限られてるけど⋯守ってやりたいんだお前の事⋯。