優真の想い
小さい子供なんて煩いくらいに騒いだり大袈裟に泣いたりする、それが当たり前で仕事みたいなものだと思っていた。だけどいつも寂しそうに一人でいる男の子、それが影だった。静かにただポツンとまるで自分だけの世界にいるような⋯そんな放っておけない姿を見て優真は彼に駆け寄り声をかけた。
「どうしていつも一人でいるの?」
間近で見た影は瞳が大きく綺麗な澄んだ顔をしていて幼心にドキンとしたのを覚えている。あの瞬間にもう自分は恋に落ちていたんだと思う。一目惚れ、なのか理由なんて分からないけど当時は恋心の自覚はなく、自分達はその日から友達になっていた。毎日のように一緒に遊び、一緒にご飯を食べて笑い合う。影のそばにいるといつも居心地が良くて自慢の友達⋯だった。
中学生の頃くらいには流石に自分の気持ちに気付いた。影が他の誰かと話してるだけで嫉妬してしまうし、「若林くんと仲良いならこの手紙渡してほしい」なんて彼宛のラブレターを渡された事もある。影は自分はモテないし誰も興味持ってないと思い込んでいて自分の事を何も分かっていない。
男に可愛い、綺麗と思うのは失礼なのかもしれないが⋯俺にとって影は華のように可愛く透き通った水のように綺麗な存在だ。
影の家庭の事情は本人に聞いたから知っている。影は言っていた『俺はあの人達にとっていらない人間だ』って。『優真がいなかったら生きてなかった』とも言われた。だったら俺が死ぬまでずっとお前のそばにいる。俺はお前をいつも必要としてるんだよ、と伝えると彼は両手で顔を覆いながら泣いていた。
そして⋯「優真が友達で良かった」と切なそうに告げられた。
⋯友達?俺がいなきゃ生きていけないと言ってくれたのにお前にとって俺はただの友達なの?俺はこんなに好きなのに⋯。そう思ってもこれ以上は傷つくのが怖くて踏み込めなかった。多分俺も⋯影を失ったら生きていけそうにない。影が俺の事を友達だと思っているのならそれを受け入れてそばにいるしかねーのかな⋯。
優真と影、お互いに恋を自覚し、想い合いながらも友達という壁を超えられずにいた。大切だからこそ長年築き上げてきた関係を壊したくなかった。優真だから好きになった、影だからそばにいたい。性別なんて関係なく惹かれ合っていてもその想いを伝えるのは簡単な事ではない。
更に優真は影に対して性的な感情も芽生えていた。こればかりは影を想いながら一人で自身を慰めるしかなかった。影とキスをして抱き締め合ってベッドに押し倒す、そして影の身体を隈なく触りたい。自分だけの影にしたい。そんな欲望が暴走しないか不安になる。
影⋯俺はお前が思ってるよりずっと卑怯な人間なんだよ。お前を邪な目で見てる事さえ気付いてないだろ?
子供の頃はさ本当にただそばにいられれば十分だったんだ。日に日に募っていくお前への想いが溢れ出してしまうのを必死に堪えてる。