盾
誰もが皆、何かを抱えて生きている。辛いのは自分だけじゃない、そんな事分かってる。世の中にはもっと辛い想いをしてる人がいる事も分かる。でも辛さに重いも軽いもなくて、その人の辛さを他人が決める事じゃない。勿論“家族”さえも人の心に土足で踏み込んでいいわけがない。
「⋯優真くんといったかな。君のお陰で影は随分反抗的になったようだ。君の家族が自分の両親なんて一体何を吹き込まれたのか。影をゲイにしたのはあの女じゃなくて君か」
もうやめてほしい⋯!心がそう悲鳴を上げている。俺の事なら何と言われようがまだいい。でも大好きな優真の事を悪く言う人間は許せない。たとえそれが血を分けた父親だとしても。
「⋯何が分かるんだよ」
今まで聞いた事のないような低い声で優真が言葉を発した。
⋯きっと優真は怒ってる⋯
「知っていますか、影がいつから独りだったのか。いつから母親から酷い仕打ちを受けていたか知ってるんですか。いつも独りだった影がどれだけの勇気を振り絞って俺と友達になってくれたのか分かるんですか。それから何年も経ってようやく恋人になれたんです。そこにゲイとか同性愛者だとか関係ありません。そんな差別的な言葉で影を傷つけないで下さい。お願いします。帰って下さい」
そうか⋯優真は怒ってるんじゃない⋯俺の為に、怯えてる俺の代わりにこの人と話してくれてるんだ。
その盾になろうという優しさがあまりにも真っ直ぐで身に染みて胸が痛いよ⋯
どこまで俺は優真に頼れば気が済むんだ⋯自分の父親なら自分で話すべきなのに。泣いてる場合じゃない。俺もちゃんと言わなきゃ。
「お⋯俺は今更父親だと名乗られても困るだけです⋯それと優真の事を悪く言うのは許せません⋯。俺はあなたに捨てられ、母親からは愛してもらえませんでした。妹が産まれたので継父からの愛情ももらえなかったです。そんな俺のそばにいつも一緒にいてくれたのが優真なんです。俺にとって優真は恩人なんです。優真がいなかったら俺は今生きてないです⋯」
少し震えながらありのままを話した。
何が父親だ。今まで一度も、顔を見せに来る事すらしなかったくせに。何もしてくれなかったのに、のこのこ現れて優真を罵って。こんなの受け入れられるわけがない。
「⋯今日のところは帰るとしよう。影、よく考えてくれ。家族より他人を選ぶのは間違っているという事を」
それだけ言い残すと、男性は呆れたように部屋から出て行った。
俺は胸が苦しくてその場で蹲り、深く溜息をした。
とりあえず今は帰ってくれたから少し安心したけれどまたいつ此処に来るか分からない。無理矢理連れて行かれるかもしれない。そして何より怖いのは優真と引き裂かれてしまう⋯そんな恐ろしい未来。母親から愛されてないのは分かってた。でも心のどこかで実の父親だけは自分を愛してくれてるんじゃないかと、そんな儚い夢物語を想像していた。現実はいつも残酷でどうやって乗り越えたらいいか分からない試練を与えてくる。
「影⋯大丈夫か⋯?」
座ったまま優真に強く抱き締められる。彼の体温の暖かさで心がほぐれて視界が潤んできた。
「優真⋯どうしよう⋯またあの人が来たら俺行きたくないのに連れ去られるかも⋯お前と離れ離れなんて嫌だよ⋯っ⋯」
優真の事をこんなにも愛しているのに。次から次へと問題が起きて心も身体も震える。
でも優真は⋯「俺が守る」ときっぱり言ってくれた。
「ありがとう⋯」
沢山の感謝を“ありがとう”なんてたった一言の言葉では伝えきれない。さっきも俺の心を代弁してくれて嬉しかったし、俺の事を一番大切にしてくれる人。
平等でいたい、なんて⋯今思えば偉そうな事言ったな⋯いつも俺ばかりが守られて優真に何もしてあげられてない⋯
「優真⋯」
「ん⋯?」
「俺を抱いてほしい⋯」




