重い愛
校庭で一緒にお弁当を食べている二人。特に会話もなく黙々と食べるこの時間が影にとっては幸せな時間。今は自分だけが優真を独り占め出来ている。もう高校生なのにまるで幼子のように優真を独占したいと思っている自分に気付き、また落ち込んだ。彼はどんどん変わっていくのに自分だけ何も成長していない。ほんと嫌になる。優真が初めて声をかけてくれたあの日が恋しい。
「影」
そんな考え事をしていたら食事を終えた優真が近距離に身体を寄せてきていてビックリした。
「な、何?」
「影は⋯俺が女の子と付き合ったらどう思う?」
「どうって⋯そんなの⋯⋯いや、別にいいんじゃない。優真なら誰と付き合ってもお似合いだよ」
突然の質問に戸惑いつつも心にも無い言葉を言ってしまった。本当は嫌に決まってる。誰とも付き合ってほしくないし、実際彼女ができたとしたら俺から優真を奪わないで⋯と胸の内で懇願するだろう。
「⋯そうか。影は俺の事どう思ってる?」
「な、んだよ⋯今日はやけに質問多いな⋯」
近距離に優真がいて自分にそう問いかけてくる。何故こんな事を聞いてくるのか分からないけど、そんな風に真っ直ぐ見つめられたら⋯はぐらかせないじゃないか。
「⋯お前の事好きだよ。優真は幼なじみだし友達だし⋯」
幼なじみ。友達。
改めて言葉にすると凄く切なくなる。
もし俺が女の子だったら⋯こんな時恋愛対象として好きだと言えたのかな。男同士の一生叶わない恋なんて辛い。それでも優真に嫌われたくない。ただただ一緒にいたい。それが俺の切実な願い。
「⋯影、どうして泣いてるんだ?」
優真に言われて泣いている自分に気付いた。
ついに感情を抑えきれなくなり、優真への想いが涙となってポロポロ頬を伝う。
何でだよ⋯もう何年もずっと心の中にしまい込んでいたのに。普通に接しられていたのにこんな簡単に俺が心にかけた鍵を開けないでくれ⋯。
「っ⋯何でもない⋯ごめん俺もう戻るっ⋯」
急に立ち上がり教室へ戻ろうとする俺の手を優真が掴む。それを振りほどき、溢れる涙と痛む胸に何度も言い聞かせた。
この想いは絶対に知られてはいけない。彼に知られたらもうそばにいられなくなる。
──優真に嫌われて拒絶されたら⋯この世界は地獄になる。
16歳という若過ぎる年齢、思春期の今だからこその重い愛。今の影にとっては優真が全てであり、家族でさえ影の心の中には到底入れない。影の家庭は複雑であり、両親は幼い頃に離婚していた。母親に引き取られたものの、その母は直ぐに再婚し父親違いの妹まで産まれた。母は妹を溺愛しており、ずっと疎外感を感じながら生きてきた影。形式上は家族であっても現実では家族とは言えないような扱い。さっき食べていた弁当だって登校中にコンビニで買った物だ。自分の為に料理を作ってくれる事もなかった。幼く、人一倍愛情が欲しい時にいつも独りだった。そんな優しさに飢えていた影に初めて手を差し伸べてくれたのが優真だった。
優真がいなかったら⋯ほんとどうしてたんだろう俺。孤独に耐えられずこの世界からいなくなっていたかもしれない。
だからこそ自分を救ってくれた優真には幸せになってほしい。そりゃ誰かと付き合うのを見るのは辛過ぎる。でも俺は友達として応援するしかないんだ。それに高校を卒業したら離れ離れになるのも分かってる。彼のそばにいられるのはあと少しだけだ。