その夜
「影も一緒にバイトする?」
「うん、その方が嬉しい。デート俺もしたい」
高校生で甘い考えを持っていた影は卒業するまで自分が働くという発想がまずなかった。
そうか、働けばいいんだ。そしたら少しずつ貯金もして此処より良い所に住めるかな⋯
卒業後大学には行かせてもらえるわけがないし、あの冷たい両親も自分が自立して独立すればお金が浮いて喜ぶんだろうから丁度いいかもしれない。
それに⋯光子の為にはお金を惜しまないのは分かりきっている。
「同じバイト先見つかるかな」
「え⋯同じ所で働いていいの⋯?」
「夜遅くなるから一緒じゃないと危ないだろ。ただでさえこの辺の治安が心配なのに」
「一人だと怖い時はある⋯ボロボロのアパートだし人気も少ないし⋯。ありがと優真⋯」
「大丈夫、俺がそばにいるから。母さんや父さんにも相談してみるよ」
「ごめん⋯」
「何で謝んの?」
「俺⋯何から何まで優真の世話になってる⋯」
「そんな風に思わなくていいよ。俺、影の事⋯ただの恋人だと思ってないから」
「どういう意味⋯?」
彼氏であり恋人であると思っていたから優真の言葉に少し不安を感じたけど次に紡がれる優真の言葉は想像とは裏腹のものだった。
「将来を見据えた関係だと思ってる」
「将来⋯?」
「影、俺と婚約して欲しい」
「こ、婚約!?」
あまりにも意外過ぎて大きな声が出てしまった。
付き合って日も浅く、恋人になれただけでも十分過ぎるくらいに幸せなのに優真はそれ以上の関係を考えてくれていた。
でも婚約って⋯本当に俺でいいの⋯?
俺、何も持ってないんだよ⋯?
優真と釣り合えるようなものも何も無い⋯
そんな俺でもいいの⋯?
「高校卒業したら引っ越してまず一緒に暮らそう」
「ちょ、優真っ⋯待って⋯何でそこまで考えてくれてるの⋯?」
「影は不安になりやすいし約束があった方が心が落ち着かないか?それに本気だから俺」
「うん⋯物凄く嬉しい⋯⋯俺頑張るよ。堂々とお前と一緒にいられるように⋯」
将来の約束⋯
大好きな優真と婚約なんて⋯
夢ならどうか醒めないで⋯と祈ってしまう。
高校を卒業してもずっと一緒にいよう⋯
そんな優真の想いは俺の氷のような心を溶かして暖めてくれる⋯
その夜、優真は腕枕をしてくれて華奢な影の心も身体も包み込んでいた。
距離が近くて心臓の音も聞こえてしまうんじゃないかと思うくらい近距離に彼がいる。
「寝れそうか?影」
「やっぱり眠気よりドキドキする方が勝つ⋯」
「俺もだよ」
「そうなの?」
「俺、影が思ってる以上に影の事好きだから。キスしよ影」
「ん⋯⋯」
狭いシングルベッドで優真に包まれながらキスをする。唇と唇が触れ合うだけの優しい長い口付け。そしてこんな状況である変化に気付いた。
⋯⋯俺、欲情してる⋯
こんなの知られたくないと思ってキスの途中で少し顔を背けてしまった。
「影⋯?」
「ごめん、俺⋯その⋯ちょっと変なんだ⋯」
「⋯もしかして身体反応してる⋯?」
「うん⋯優真が俺の為に我慢してくれてるのにほんとごめん⋯」
「いや⋯嬉しいけど⋯どうして欲しい?そのままはキツいだろ?」
「ん⋯優真に触られたい⋯」
とんでもなく恥ずかしいけど優真に手で直接触ってもらい、それが気持ち良くて直ぐに彼の手の中で果てた。
穴があったら入りたいくらいの気持ちで自分の両手で顔を隠していたら、彼に「顔見せて、影」と言われ真っ赤な頬を見られてしまった。
お互い思春期の男同士だからこそ分かる恥ずかしさと気まずさと行為に対する特別感。
本当に嬉しそうに俺を見つめる優真。
優真⋯そんな顔されたら俺も嬉しくなるだろ⋯。
これは二人だけの秘密。
影だけが知る優真の顔と優真だけが知る影の表情。
それがあまりにも幸せな事で二人の想いを強くさせている。




