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優先

影と優真の間には優しい空間が作られている。幸せを噛み締めながらも、母親と継父に対する恐怖、妹の光子の事、どれだけ優真と触れ合っていてもどれも頭の片隅から消えてくれない。優真がそばにいて心地いいのに心の何処かで現実から目を背けられずにいる。

眠っている間だけが不安から解き放たれるというのに眠る事さえも怖くて睡眠不足に陥る。もうすぐ優真は自分の家に帰ってしまうだろうし、色んな感情で更に押し潰されそうな気持ちになった。


「影、今日泊まってもいい?」


その一言が影のぐちゃぐちゃになっていた思考を一瞬でさらっていった。


今、なんて言った⋯?


「親にLINEで連絡して許可はもらった。今日あんな事があって余計辛いの分かってるから。俺がいれば少しは安心して眠れるだろ?」

「えっ⋯と⋯ドキドキして逆に眠れないかも⋯?」

「え、俺床で寝るけど?」

「それはダメ⋯大事なお前を床で寝かせるなんて出来るわけがない⋯」

「⋯じゃ、一緒に寝かせて?キス以上の事はしないから信じてくれないか」

「信じるも何も俺には優真しかいないよ。それ以上の事だってお前となら⋯」


男なのに恥ずかしくなってもじもじしてしまう。優真がこんなにも俺の事を大切にしてくれているのに肝心の俺は不安になったり怖い事ばかり考えたり⋯。前向きになれたかと思いきや、直ぐにネガティブになってグルグル考えて落ち込むのが自分の悪い癖だ。


そして更に優真は言葉を紡いでいく。


「大丈夫。好きな人が怖がる事はしたくないし望んでない。そりゃしたいかしたくないかで言ったらしたいけどお前の気持ちを優先したいんだ」


“優先”

その言葉はズルい⋯ずっとずっと欲しかった言葉をこんなにも当たり前のようにくれるんだな優真は⋯。

俺今まで上手くポーカーフェイス保ってられると思ってた。でも優真の前では普通の恋する男子高校生になっちゃうんだよな⋯


「ありがと⋯今日は一緒に寝る⋯」

「おう、こっちこそありがとな。俺の事信じてくれて嬉しい」


嬉しいのは俺の方だよってちゃんと伝えたいけれど、今日ずっと優真が此処にいてくれるんだと思うと感動して涙が溢れ、声にならない。


小さい時から一緒で唯一心を許せる相手が優真。

片想いで実る事なんてないと思っていた初恋の人。

俺の憧れ⋯いや皆の憧れである優真。

眩し過ぎる彼と決して恋人として釣り合ってるとは言えないのに⋯誰よりも俺を愛してくれるたった一人の人。


「っ⋯ぅ⋯ぁ⋯」


ほんと⋯何で俺なんかを好きになってくれたの⋯?家族から見放され、独りの俺を闇から救ってくれた。自分の命すらどうでもいいと思っていた俺を笑顔にしてくれて親よりも大事にしてくれる、そんな人優真以外にいないよ⋯


「影⋯泣きたい時もそうじゃない時でもいつでも俺を呼んでくれ⋯愛してるよ影⋯」

「お、俺だって⋯ひっく⋯⋯優真を愛してる⋯」


恋心がどんなものかは知っていたけれど、それが愛だとは知らなかった。全部優真が教えてくれた。泣きながらやっと自分も同じ想いだと彼に伝えられた。

心から優真を愛してる。





暫く強く抱き合って時折キスもして再び抱き合うのを繰り返す二人。大きな愛に包まれてドキドキもするし安心もする。


「俺、バイトしようかな」


優真がそう呟いた言葉に影は驚きパチパチと瞬きをし、思わず彼の顔を覗き込んだ。


「バイト?」

「ん、自分の稼いだお金で影に何かしてあげたくて」

「ばか⋯自分のお金なんだから自分の為に使ってくれよ⋯」

「言ったろ?俺ん中では何よりもお前が優先なんだよ。もう高校生なんだから働いて社会経験も積みたいし、そしたらデートにも行けるし」

「デート⋯ってかそれなら俺もバイトしたい」


そういえば付き合ってばかりとはいえ、まだデートもした事がないと今気付いた。優真はデートの事まで考えてくれてたのか⋯と感激したが、それなら自分も働きたいと思った。

優先してくれるのは嬉しいけど、だからといって優真一人が頑張るのは違う。一緒に頑張りたいんだ。



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