愛するが故に
その後、荷物を部屋に置いて一緒にスーパーへ買い物に出かける事にした二人。今日は手料理を作って影に食べてもらうという課題をクリアしなければ。自分の中で決めた影にしてあげたい事リストの一つだ。
そうしてスーパーのカゴにどんどん食材を入れていく優真に少し戸惑う影。
「どうかした?」
「ごめん⋯凄く嬉しいんだけど俺そんなに払えるお金持ってない⋯ほんとごめん⋯」
「いや、俺が払うから」
「ダメだよ、俺の為に作ってくれるのにお金まで優真が負担するなんて嫌だ」
「⋯影、聞いていい?いつもお金どうしてるの?」
「一応振り込んでもらってるんだけど⋯一日一食分くらいのお金⋯」
影が華奢なのは骨格が細いというのもあるけど、何より殆ど食べ物を食べていないからだ。優真に心配をかけたくなくてお昼だけは食べるようにしていたが、ここまで来てしまうと流石に隠しようがなかった。
「俺、今すげームカついてる」
「ごめん⋯」
「影の親に、だよ。影の事マジで何だと思ってるんだよ。酷過ぎて親なんて単語も使いたくないくらい」
優真を見ると自分より怒ってくれていて⋯彼に愛されてるのを実感した。もう何年も前から一緒にいて温厚で優しい優真しか知らなかったけれど、こんな風に俺の為に怒ってるのを目の当たりにすると不思議と嬉しくなった。
「ありがと優真⋯落ち着いて?」
「ん⋯カッとなってごめん。俺が出来る事をしたいだけだから気にせず甘えてくれないか?大人になるまでの間でもいいから俺を頼ってほしい」
「でも⋯平等でいたいんだよ俺は優真と⋯」
「俺、好きな人に自分の料理食べてもらいたい。だからこれは俺の我儘」
「優真⋯」
何度拒んでも優真の決意は固かった。俺を傷つけないように、素直に甘えられるように、慎重に言葉を選んでくれてるのも伝わってきた。
いいのかな⋯俺⋯こんなに幸せで⋯。ありがとう優真⋯それしか言えない自分が情けないけど「気にすんな」って頭を撫でられてガラにもなくキュンとした。
会計の時も申し訳なさで何も喋れなかったが、そんな俺の心情を察した優真が「部屋に帰ったら影からキスして」なんて言って微笑んだ。
ヤバい⋯優真カッコイイ⋯全てにおいて自慢の彼氏で今すぐキスしたいと思ってしまう。
──買い物を終えてスーパーを出た所で「お兄ちゃん?」と声をかけられた。
「光子⋯」
「優真さんも一緒だ。良かった、お兄ちゃん私優真さんに話したい事あるの」
「⋯俺、いない方がいい?」
まだ中学生である妹の光子。サラサラの長い髪に女の子らしい可愛いメイク。俺が与えてもらえなかった親からの愛情を一身に受けて育った妹は輝いて見える。それより優真に話したい事って何だろう。嫌な予感がするのは気のせい、だよな⋯?
「光子ちゃん、ごめん。俺は今影と一緒にいたいから用事あるならまた今度にして」
「え⋯どうして⋯」
どうして私の事を優先してくれないの?と目で訴えかけている。
兄の自分よりいつもどんな時でも優先されてきた。愛されて産まれて何不自由なく生きてきた光子。だから自分が後回しにされるなんて味わった事がないんだ。
「優真⋯俺先に帰ってるから光子の話聞いてあげてほしい」
「急だしどう考えても影との時間の方が大事。光子ちゃんまだ中学生だから分からないかもしれないけど非常識だよ」
優真にバッサリそう言われると顔を赤くして妹は走り去った。そこまで言う必要なかったんじゃないかと光子の事が心配になるが
「もう嫌なんだよ、影が傷つくの。誤解されんのも嫌だから言うけど俺が好きなのは影だから。影以外どうでもいい」
そんな強い想いをぶつけられ、衝撃的だった。誰に対しても分け隔てなく接してきた優真が今は俺以外どうでもいいなんて。そこまで想われて⋯妹には悪いけど嬉しかった。さっきも思ったけど俺本当に優真に愛されてるんだ⋯って身に染みて一筋の涙が頬を伝った。