愛情
仲良くお弁当を食べ終わった二人はそれぞれの教室に戻った。放課後今日も一緒に帰る約束をして心晴れやかな影だったが、教室に入った途端にクラスメイトの女子生徒達に囲まれた。
「ねぇねぇ若林くん、藤堂くんといつもお昼一緒にいるよね?仲良しなの?」
「え?あ⋯うん、幼なじみだし」
「きゃー、もし二人が付き合ってたらお似合いだ ね!」
「は⋯?」
「今私達女子の間で流行ってるの!BL!」
「あ⋯そう、なんだ」
「それに昨日手を繋いで歩いてるとこ見たって噂になってるよー!」
「へ⋯⋯」
昨日⋯部屋に向かう時に確かに手を繋いで歩いた。両想いだと分かって浮かれていて今日みたいに距離を開けて歩く事もなく、普通に恋人として過ごしてしまったがまさかそれを見られていたとは⋯。
どうしよう⋯もっと警戒するべきだった。優真に迷惑がかかったらどうしよう⋯
頭の中はパニック状態で冷静さを保っていられずにいたが、「まぁでも今どき手を繋ぐくらい仲良しならあり得るよねー、二人とも人気だから勘違いされちゃうね」と言われて少しだけ安心した。“二人とも”という言葉に疑問を抱きつつも何とかその場をやり過ごした。
そして放課後、帰り道を歩いている時優真に昼間女子生徒に言われた事を正直に話してみる事にした。
「俺達が手を繋いでるとこ見た人がいるらしい⋯ごめん優真⋯」
「何で謝んの?俺がお前の事好きで外なのに我慢できなかったのが悪いし」
「でも⋯俺のせいでゲイとか変な噂が立ったら⋯」
「影のせいじゃないし、もし恋人だってバレても俺が守るよ」
「優真⋯」
自身の家庭問題で深く傷つき過ぎて全てを自分のせいにしてしまう影に、優真はいつだって歩み寄り優しい言葉をかけてくれる。親にすら言われた事がなかった『守る』というまるで魔法のような元気をくれる言葉に再び泣きそうになる。優真を好きになって良かった。彼がいなかったら一生愛情を知らずに生きていただろう。
部屋の鍵を開けて玄関に足を踏み入れると直ぐさま後ろから優真に抱き締められた。
「も⋯限界⋯ずっとお前に触りたかった」
「俺も⋯優真に触れたかった⋯」
お互い触れ合いたいのに触れられず、部屋に入るまでもどかしくて仕方がなかった。そんなもどかしさを埋めるかのように少し荒々しくキスをしてしまう。
「ごめん影⋯舌入れさせて」
「ん⋯いいよ⋯」
影の嫌がる事はしたくなくて余裕のない時でもきちんと許可を取る優真を愛しく感じる。ゆっくりと、確実に舌を口内に入れられるディープなキスに心臓が破裂してしまうんじゃないかと思うくらいにドキドキする。
優真が好きだ。この世界で何よりも大切な存在。彼が望むのならたとえまだ怖くてもその先に進んでもいいと思えた。でも優真は長いキスの後、「めちゃくちゃ満たされた⋯急にごめん⋯受け入れてくれてありがとう」と言って影の背中を優しくさすった。
「優真は何でそんなに優しいんだよ⋯俺に甘過ぎ⋯」
「嫌⋯?」
「ばか⋯嫌なわけないだろ⋯お前がしてくれる事は全部嬉しい⋯」
たったそれだけ言っただけなのに、優真は満面の笑みを浮かべて今度は軽く影に口付けた。
あぁ⋯幸せだ⋯このまま時間が止まってしまえばいいのに。それ程に今この瞬間が幸せ過ぎて⋯俺生きてて良かったと心から思えたんだ。生きる事をやめなくて良かったって優真のお陰で思えたんだよ。