幼なじみ
若林影、現在16歳の男子高校生である。幼い頃から控えめで大人しい性格の影は周りに馴染めずに寂しい幼少期を過ごしていた。そんな彼の環境を変えた人物がいる。藤堂優真、明るくて正義感溢れる同じ歳の男の子。まだ幼い園児だというのに優真は影が一人でいるのを見過ごせなかった。
「どうしていつも一人でいるの?」
「⋯だって苦手なんだもん⋯」
「みんなと遊ぶのが苦手?」
「うん⋯」
「じゃあおれと一緒に遊ぼ」
「え?」
「ともだちになろう」
「ともだち⋯」
半ば強引に影と優真は友達という関係を築いていた。人気者の優真は保育園の中でも目立つ存在で⋯それなのにこんな大人しい自分にも声をかけてくれて一緒に遊んでくれて優しくしてくれる。気付けば優真の友達とも仲良くなっていて今まで苦手だった保育園を楽しいと思えるようにまでなった。
自分にとって優真は救世主のような存在。大事な友人であり幼なじみであり⋯⋯本人には絶対に言えないけど俺の初恋の人⋯。
恋心を自覚したのは中学生の時。人づてに優真が女子から告白されたと聞いた。相手はモデルみたいに可愛い女の子だったそうだが二人が付き合う事はなかった。優真がその告白を断ったのだと噂されていたが真意は分からない。その時最低な事を思ったんだ。
優真が誰かと付き合うなんて嫌だ、断ってくれて良かったって。
それは自分の中に初めて芽生えた嫉妬という感情だった。優真は自分と同じ男なんだぞ、何考えてるんだよ俺!って目を逸らそうともした。寂しくて仕方なかった幼少期からずっとそばにいてくれた大切な人をそんな恋愛対象として見ている事実にも罪悪感を覚えた。
けれど⋯自覚したと同時に失恋したも同然。あのキラキラした優真が自分を好きになるわけがない。この密かに抱いた想いも本人に伝える事はないだろう。
俺は卑怯だから⋯たとえ友達という枠を超えられなくてもこれからもそばにいてほしい⋯
優真好きだよごめん⋯こんなの気持ち悪いよな⋯
影はこのまま想いを告げずに心の中に隠し通す事を決めた。それからも優真が何度か女子に告白されたという噂は耳に入ってきていた。それもそのはず、年齢を重ねるにつれ、優真の容姿は男でも見惚れてしまうくらいの端正なイケメンに成長していたからだ。現在高校二年の16歳。身長だってまだ伸びるであろうし、性格もあの頃のまま明るくて優しい。爽やかという言葉がこんなにも似合う人を他に知らない。だからモテない方が不思議と言ってもいい。それなのに誰とも付き合わないのは何故なんだろうか。
「影、今日も一緒にお昼食べよ」
違うクラスだというのに彼は毎日昼休みになると影がいる教室を訪れ、一緒に弁当を食べようと誘いに来る。その度に女子達の熱い視線を感じる。
「うん、今日は何処で食べる?」
「んー、外がいいかな」
「じゃ行こう」
平然を装っているが影の心臓は痛いくらいにドクドクと脈打っている。このポーカーフェイスもいつまで続けられるのかと不安なほどに恋心は膨らんでいくばかり。
自分はゲイではないと思う。その証拠に優真以外の男子を見ても何とも思わないし偶然手が触れても気にした事もない。優真だから好きになった。他の人なんてどうでもいいんだ。彼がいなければ生きていけないとさえ思ってしまうのは幼少期から当たり前のようにそばにいてくれたから。