60 神力と能力
「ヘルヴィン、ありがとうな」
エーデルが笑顔でそう言うと、ヘルヴィンは今までずっと堪えてたであろう涙を流した。
「ごめん、ごめんね大夢……」
僕はヘルヴィンを抱きしめた。
ヘルヴィンは震えていた。
ルミスはそれを見て微笑んでいた。
こんなヘルヴィンは初めて見た。
どうしてこんなにも僕を大事に思ってくれるのか、前世からというのが何よりも気になる。
でもそれは今度聞くことにしようと思った。
さっきまで頭に血が上ってた僕が言えることではないけれど、今はヘルヴィンの本当の肩の荷を少しでも多く下ろしてあげたい。
教室は相変わらず静かだが、一人増えてエーデルとヘルヴィン、そしてルミスの三人になった。重い話は終わった。
思いの外先程よりも少し空気が軽くなった気がする。
三十分程経っただろうか……
「ヘルヴィン……そろそろ泣き止んだ?」
「ああ、もう充分泣いたよ。こんなに泣いたのは赤子ぶりだね」
「え〜ヘルヴィンは赤ちゃんの時から物静かで何考えるかよくわからないって王妃様が言ってたよ」
「最後は余計だな」
教室に三人の笑い声が響いた。
泣いたせいか、ヘルヴィン目はすごく腫れていた。
「ヘルヴィン。まだ話せるか? まだ聞きたいことがあるんだ」
「うん。大丈夫だよ」
「ルミスも知っていることがあれば協力をして欲しい」
「任せて〜」
そして僕達は大事な話を始めた――
まず、神の神力、能力について。
ヘルヴィンとルミスが言うには、神の神力はそもそも神のモノ。神力が切れることはまずない、底なしということだ。
そして、ヘルヴィンが授業で使っていた水の神力とピュートーンの亡骸を回収する時に使っていた闇の神力についてだ。
「産まれて自分が神だと知ってから、水の神力だけ使えたんだ。だけど、急に闇の神力を使えるようになったのは君の元の世界に行き始めてからだ」
とヘルヴィンが言う。
「ということはテルビアも僕がいた前の世界に来たことがあるということか?」
エーデルは聞いた。
「いや、それはわからない。でも元に僕が闇の神力を元いた世界で手に入れたとしたら、テルビアも同じかもしれない。そもそも闇の神力は謎が多い。何のためにあるのか、何のために授けたのか、神力を渡すのはゼラドリスだけなんだ」
今の所、ヘルヴィンが神力を二つ扱えるのは謎ということだ。そしてもしかしたら人族や他の種族でも二つの神力を持っている可能性がゼロではないと考えている。
そのため、テルビアの神力も闇の神力だけなのか、もしくはもう一つの神力を隠しているのかも不明だ。
そして神は神力量をも操れるということもヘルヴィンから聞いた。
それは神のみが持つ能力で、自分が神だと悟られない為にある能力だということ。
もう一つ、人族と他の種族のように、元々持つ魔力や得意とする剣術、武闘のみ扱う訳ではなく。
神は全てにおいてオールマイティーだということ。
ヘルヴィンとルミスは剣術だけでなく、魔術や武闘も特化しているという訳だ。
これで、ヘルヴィンが剣術専攻なのに、治癒魔術も使える理由がわかった。
神は到底人間なんかでは倒せない程最強という訳だ。
「ヘルヴィン、そういえば君はカラコンしているよね?」
「うん、今もしているよ」
「こっちの世界ではカラコンなんて聞いたことないんだけど、それはもしかして元いた世界のものか?」
「……うん、そうだよ。ごめんね、嘘をついて」
「いや、もう理由もわかったし、いいよ」
するとルミスが興味津々にヘルヴィンの目を見つめた。
「カラコン? 何それ〜? 私もしてみたい!」
「やらないよ。貴重なんだから」
「ケチ」
ヘルヴィンはルミス相手になると少し冷たくなる。
ドイルドに対してもそうだった。
理由はあるんだろうけれど、もう少し優しくしてあげて欲しいと思ってしまう。
「そういえば、モアイ像知っていたってことはチリに行ったことがあるってこと?」
「チリ? なにそれ? モアイ像は君が中学一年生の時に教室で見たんだよ。教科書にモアイ像の写真が載っていたんだけど君があまりに楽しそうに笑うから覚えたんだ」
中学一年生?! 事故の直後か。そんなに前から僕を知っていたのか?
ああ、忘れもしないな。
あの日僕が笑っていたの見て女子が悲鳴を上げた。それをきっかけに僕は虐めを受けるようになったんだ。
「よく覚えているね」
僕は嫌な記憶が蘇り、素直に笑えなかった。
「ヘルヴィンて、エーデルのストーカーみたいだよね。本当にエーデルのことには目がないんだから」
ルミスは気を遣ってくれたのか、申し訳ないな。
そうだ、今は友達がいるじゃないか。
昔の嫌な記憶は考えるのをやめよう。
「それと、エーデル。もう一つ言わなければならないことがある」




