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59 見守る神

 たった十五歳の少女の人生をこいつら神は奪ったんだ。

 



「おい! 何とか言えよ糞神!」

「…………ごめん」

「なんでお前が悲しそうな顔をするんだよ……」


 するとすごい勢いで教室の扉が開いた。


「はあ、こんなことだと思った。ヘルヴィンは大切な人を前にすると色々と下手くそになるのよね。エーデル、手を離してあげて」


 そう言いながら教室に入ってきたのはルミスだった。


「は? 何でお前に言われなきゃいけないんだよ。お前も神だろ? なあ、楽しかったか? 僕を弄んでたんだろ?」


「そうよ。でもヘルヴィンはあなたも、あなたの妹も殺していない。寧ろ逆なの、守ろうとしてたの」

 

 神が神を庇っているのか? 

 くだらない。

 エーデルは頭に血が上り、冷静な判断ができなくなっていた。


 ルミスは手を伸ばし、エーデルの腕に触れて言う


「エーデル、本当にごめんなさい。オリゴスの誰があなたと百合さんを殺したのかわからないの。でもその神の計画を知ってから、ヘルヴィンはあなたをずっと見守っていたわ」


「見守ってた? 見てただけか? 守れてないじゃないか。それに僕は前世でヘルヴィンに会ったことなんて一度もない!」


「そうね、姿を現してなかったからね。でも事実よ。前世であなたが虐めを受けていたのは知っているわ。一度その虐めで死を覚悟したことがあったわよね? 死んだ目をした少年に殴られた時の話よ。後にその人は罰を受けるため牢獄に入ったと聞いたわ」


 死んだ目をした少年?

 もしかしてあの時か? 

 死を覚悟したことはある。

 本気で殺そうと殴ってきた奴がいた。そいつは後に母親の交際相手を殺して少年院に入った。

 

「あの時、本当はあなた死んでいたの。でもヘルヴィンが闇の神力を使って、あの場に人が行くように人間を操ったの。そのおかげであなたは生き延びられたのよ」


「あの時って……ヘルヴィンが先生を操ったのか? 偶然、タイミングよくじゃなくて?」


 僕はヘルヴィンを見た。

 彼は下を向いたまま、何も言わない。


「そう。本当はあっちの世界で神力も魔術も使うのは禁じられているの。だから彼には刑罰が下ったわ。それは本当の地獄の牢獄で百日間、監視されながら最高神ゼラドリスによって何度も死の幻覚を見せられるの。普通なら耐えられないわ。もしそれが他の人なら一日で自ら死を選ぶほどに辛いと言われているの」


「…………何だよ、それ……何故ヘルヴィンが? 僕のせいだっていいたいのか?」


「そうとも言える。でも彼があなたを守る為に勝手にとった行動だから、誰もあなたを責めないわ。でもわかってあげて欲しい。神の勝手なのは重々承知よ。そして、彼に刑罰が下って百日目に、あなたと百合さんは何者かの手によって雷を落とされ死亡した。まるでヘルヴィンへの挑発のようにね」


 頭の中は混乱している。

 まず、僕は神に殺され、神によって転生させられた。

 そしてあの日より前に僕は死ぬ予定だった。

 だが、それはヘルヴィンが守ってくれた。そのせいでヘルヴィンは刑罰が下された。


 そういうことか?


 誰も責められない。悪いのは神なのに、その神がわからないんじゃ、どうしようもないじゃないか。


 なのに僕はヘルヴィンを責めて、酷いことを言ってしまった。

 彼は僕を守ってくれたというのに……

 最後まで話を聞くんだった。

 これじゃあただの八つ当たりだ。


 僕はヘルヴィンの胸ぐらを掴んだ手を離した。


「へ、ヘルヴィン……なんて言ったらいいのか……申し訳ない」


「やめてくれ、エーデル。僕は君の死も止められず、君を殺した神もまだ見つけられていない。君の大事な人も犠牲になってしまった。本当はずっと君に顔向けできないんだ」


「何言っているんだ。刑罰を受けると知っていて僕を助けてくれたんだろう? 自分を犠牲にしてまで……本当に酷いことを言ったのは僕の方だ。ごめん、ちゃんと話も聞かずに感情的になりすぎた」


 ヘルヴィンは下を向いたまま話続ける。


「自己犠牲と言えば聞こえはいいが、そんなんじゃない。僕はそんなにいい神じゃないよ」


「ヘルヴィンの考えていることはわからない。でもその人を判断するのは人も神も言葉じゃなくて、行動だよ。ごめん。上手く言えない。正直前世で君の行動を見たわけじゃない、でもルミスがここまで真剣に離してくれたこと、あの時先生が通って僕は死なずに済んだこと、転生してから君が何度も助けてくれたこと、僕は信じるよ。たくさんありがとうヘルヴィン。ハハッ、ありがとうなんて言葉じゃ表せないな。ヘルヴィンそろそろ僕を見てくれないか?」


 ヘルヴィンはゆっくり、ゆっくりと視線を上にやり、不安そうな顔で僕を見た。


 この時やっと、教室に来て初めてヘルヴィンと僕は目が合った。


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