58 神について……
何となく『神』と会った時の一瞬の感覚で、その人が神なのか人間なのかわかるようになってきた。
最近まで『神』の存在すら知らなかったが、人か神かその区別をつけられる程に進歩した。
あとはヘルヴィンに不明な点を聞き出すだけだ。
これで少しは肩の荷が降りてくれればいいのだが。
「エーデル、神は好き?」
ルミスは聞いた。
「……正直まだわからない。僕が普通の人なら好きと答えられたかもしれない。でも今日は色々ありすぎて、今日初めて色々知ったんだ。ドイルドが言っていた『神々に弄ばれている』ってね。どう弄ばれたのかわからないけど、まずヘルヴィンに神について聞いてみてから判断しようと思う」
「そっか、そうだよね。君は当事者なのに何も知らない。辛いよね、ごめんね」
「いや、ルミスが謝ることはないよ。僕も知ろうとしなかったし、僕が無知だったから……ごめん。話によっては君たちを好きでいられる自信はないんだ」
ずるい言い方をしたと思う。
友達であるヘルヴィンにも、優しく心配してくれているルミスにも、話の内容によっては神を好きになるか、嫌いになるか決める。神を天秤にかけるような事を言っていい気はしないだろう。
それでも彼女は微笑んだ。
「いいんだよ。君にはそれを決める資格がちゃんとある」
そういいながら、ルミスはまた僕の頬に次は両手で包むように触れた。
彼女は少し距離感がおかしいと思う。
でも正直嫌な気はしない。
「ル、ルミス……」
何なんだ。このホワホワした感覚。
「ルミス。いい加減にしろよ」
ヘルヴィンはルミスを睨みつけた。
「もう! ヘルヴィンはエーデルに執着しすぎ!」
「はあ。ルミス、君がエーデルにどうしても会いたいと言うから紹介はした。満足だろ? 僕らはこれから大事な話があるから、もう行くぞ」
ヘルヴィンは若干怒りながら言った。
「え、待って!」
「まだ何かあるのか?」
「ピュートーン回収してよ」
ヘルヴィンはルミスの言葉にハッとなり「…………『神闇』」と唱えた。
黒い闇にピュートーンが呑み込まれ、回収された。
もしかして、忘れていたのか? ヘルヴィンも疲れているんだな。
これだけ神力を使えば、神も疲れるのかもな。
第一ホールのピュートーンの亡骸を回収し終えて僕らは教室に向かった。
こうして、神の一人テルビアによる奇襲は全て片付き、ピュートーンの血や戦いで荒れたアカデミーは、高学年や先生の魔術によって何事もなかったかのように回復した。
これから始まるのは僕とヘルヴィンの話だ。
教室に入るといつも通りの風景で、とてもピュートーンとヘルヴィンが戦ったあとには思えないほど、普段通りだった。
ただ一つ違うとしたら、今この教室には僕とヘルヴィンの二人だけと言うことだ。
僕らはいつもとは違う席に座った。
机を挟んで椅子に向かい合わせで、お互いの顔を確認出来るように。
ヘルヴィンの表情は硬く、緊張しているようだった。
今僕らがいる教室の空気は緊迫感が漂っている。
「ヘルヴィン、まずはお疲れ様。今日は頑張ったよね」
第一声はエーデルだった。
この空気をどうにか暖和したかった。
これから何を聞かされるのか正直気が気じゃない、だがあまりにヘルヴィンが辛そうな顔をするから、彼の肩の荷を少しでも下ろしてあげたかった。
「ありがとう、エーデルもお疲れ様。君が無事で良かったよ」
「うん」
ヘルヴィンは顔を上げて覚悟を決めたように口を開いた。
「まず、『神のこと』について話すね」
エーデルは頷いた。




