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56 花のように笑う女性

「エーデル! エーデル! 大丈夫かい?」



「……ヘルヴィン。大丈夫だよ」


「また放心状態になっていたよ。エーデル、君精神的に疲れているのかもしれないね」


「ああ、少し疲れたかも」

 ヘルヴィンは心配そうにエーデルを見つめる。



 何だったんだ?

 今までの記憶とは違う。

 側からエーデルを見ているようだった。


 こんなのは初めてだ。

 誰かの記憶? だとしても誰だ?  エーデルと黒いモヤの奴、もう一人誰かいたのか?

 そいつの記憶を見たのか? 

 でもなぜ?


 僕の魂がエーデルの肉体に入ったから、エーデルの過去の記憶を見るのはまだ理屈が通る。

 だが、他人の記憶を見ることは説明がつかない。

 疲れによる妄想か?

 

 だとしても扉を閉める時のエーデルの顔は嫌に生々しかった。とても気分がいいものじゃない。

 十二歳の少年が精気を失ったような顔をするなんて、並大抵の話でそんな顔をする筈がない。

 


 一体誰と何の話をして、そんな顔をしたんだ?



「エーデル! エーデル! やっぱり少し休んだ方がいい」


「ごめん、ヘルヴィン。少し考え事をしていたんだ。もう大丈夫だよ」


 ヘルヴィンは不服そうな顔をしている。

 そんなヘルヴィンに僕は作った笑顔を向けた。


「はあ。君の無理をした笑顔は変わらないね、昔から」


 ふと、テルビアに視線を向けると、相変わらず僕を睨んでいた。


「じゃあ、テルビアをどうするか。そんなにエーデルを睨んだって意味ないよ。何があってもエーデルは僕らが守るから。タクロ先生、テルビアをアカデミーで預かれますか?」


「ああ、一応校長に話を通してからだが、問題ないと思う」

 タクロは腕を組みながら言う。


「よかった。ドイルド、地下に牢獄があった筈だ、監禁して拷問でも何でもして、全て吐かせろ」


「わかった。だが加減できるだろうか?」


「加減? そんなのしなくていいよ、死ななければそれでいい。さて、鬼が出るか蛇が出るか」


 タクロとドイルドはこの場を後にして、アカデミーの地下にあるという牢獄へ向かった。


「エーデル、僕は第一ホールと練習場のピュートーンを回収しに行かなきゃならない。君も一緒に来てくれないか? 紹介したい人がいるんだ」


「うん。わかった」


 この場を仕切り、次々と問題を解決し、無欠な判断をするヘルヴィンに従う先生や先輩。


 その光景を見ているとやっぱり彼はこのルピナス王国の王子なんだと気付かされる。

 いつもニコニコしている彼とは違う、真面目な立ち振る舞いはとてもカッコよくて、立派だ。


 彼がもしこの国の国王になったら、ルピナスは更にいい国になるのではないだろうか。

 それを願うと同時にもしそうなれば簡単には会えなくなるのだろう。


 それは少し寂しいな。


「エーデル。行こう――」

「うん」

 

 僕らは練習場のピュートーンを回収し、第一ホールへ向かった。


第一ホールに着いて、そこで目にしたのはピュートーンの亡骸の山だ。

 

 そして、ピュートーンの亡骸の山を眺める華奢な女性の後ろ姿。

 おろした剣を片手に持ち、もう片方の腕を腰に置いて、長く白い髪が風で靡いている。その姿はまるで、たった一人で戦場に立つ英雄のようだった。


「ルミス!」


 ヘルヴィンがそう呼ぶと、彼女は弾けるように振り返った。

 彼女はこちらに向かって手を振った。


 僕とヘルヴィンはルミスの元へ歩み寄り、挨拶を交わした。


「エーデル。この子は『ルミス・デイジー』だ」


 ルミスはエーデルの顔を覗くように見ると人懐っこい笑みを浮かべて言った。

「はじめまして! 君がエーデル・アイビス? よろしくね」


 彼女の笑顔に目を奪われた。

 

 花のように笑う人だと思った。

 それと何故か、彼女を見て懐かしく思った。間違いなくルミスと会うのは今日が初めてだ。

 理由はわからない。だが、本当に初めて会ったとは思えなかった。


「はじめまして。よろしくルミス」

 エーデルは手を前に出し、彼女はエーデルの手を握り、握手をした。


 その時――


「ゔっ……」


 またひどい頭痛がした。

 彼女と手を握った瞬間、さっきとは比べ物にならないほど痛い。

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