54 神闇
ヘルヴィンは時々感情的になると周りが見えなくなって、突っ走る。そして早口になるんだ。
こういう時は宥めるよりも先に何をするか、僕は知っている。
「そうだね、責めたかったわけじゃないんだ。ごめん…………これは聞き流してもいいんだけど、でも一応大事な友達の受け売りだから、大切にして欲しいんだけど……『まじない』をしてみないか? 自分に言い聞かせるんだ。『僕は大丈夫。ヘルヴィンと仲直りできる』って声に出してもいいし、心の中で思ってもいいんだけど。結構効くっていうか、勇気が出たり、緊張が和らいだり、僕は何回もこのまじないには助けられてさ……やってみないか?」
「…………プハッ。あーごめん。笑っちゃった」
ヘルヴィンはいつものニコニコしているヘルヴィンに戻り、安堵した。
僕はヘルヴィンが怒った時の対策として、まず謝ることをしたが、気がつけば必死に色々な話を重ね、エーデルのまじないを教えていた。
「ああ、おかしかった? 真面目だったんだけど……」
エーデルは頭を掻いて少し照れたように言う。
「真面目に話しているのが面白かったよ。そもそも仲直りって、喧嘩してないし、ごめんね。気が立ってて、僕が意地悪なことを言っちゃったね」
「いや、いいんだ。魔物を倒した後だったし、ドイルドとあんなことがあって、ヘルヴィンも疲れただろ? 本当は最初にお疲れ様って声を掛けたかったんだけど、僕もなんであんなこと聞いちゃったんだろう。ごめんねヘルヴィン」
「でもエーデル。僕に聞きたいことが沢山あるよね?」
「うん。沢山ある」
「わかった。とても長くなると思うけど、全部*話すよ」
「あ、でもその前にヘルヴィンの闇の神力を貸してくれないかな?」
「え? 闇を?」
「さっき一瞬見ちゃったんだけど、ピュートーンの亡骸を闇で呑み込んでいただろ? それを他の場所でも回収をお願いしたいんだ。ピュートーンて死んだら毒を出すだろう? 触ると危険だから」
ヘルヴィンは目を丸くして驚いた表情をしていた。
「闇の神力を貸してくれだなんて、初めて言われたよ。君は恐くないの?」
「恐くないよ。だってその力で僕を治癒してくれただろ? 優しい神力だった。そんな力を恐いだなんて思わないよ」
ヘルヴィンはエーデルにいつも通り笑みを見せた。
その表情は穏やかに見えて、何だが少し悲しそうに思えた。
「ありがとうエーデル。いや『桑田大夢』くん。ごめんね。僕は君を弄んでた神の一人だ。君が転生者だってことも最初から知っていたよ」
「…………なんで……前世の名前を……」
***
僕らはピュートーンの亡骸を回収しに、第二ホールへ向かった。
まずタクロやドイルドと合流した。
タクロはソワソワして落ち着かない様子だ。多分僕とヘルヴィンのことが気になるのだろう。
「エーデル・アイビス。戻ってきたか」
ドイルドが言った。
「はい。ピュートーンの亡骸をどうするか決まりましたか?」
「いや、まだ決まっていない。変に触れば毒に侵されるからな、話し合っていたところだ」
「ならヘルヴィンに闇の神力で回収してもらいませんか?」
ドイルドは一切表情を変えずに言う。
「『神闇』か」
ドイルドは思い出したかのように口にした。
「はい! 僕もさっき知ったのですが、ピュートーンの毒に触らずに処理できます。ただヘルヴィンの負担は大きいかもしれません」
「ヘルヴィン。良いのか?」
ヘルヴィンはドイルドに苦笑を向けて言う。
「そんなに負担じゃありませんよ。神の神力は底なしですし、問題ないです」
ん? ヘルヴィンとドイルド、二人の雰囲気が変だ。
二人というより、ほぼヘルヴィンから怒りのオーラが見える。
ドイルドが嫌いなのか?
「ありがたい。では頼む」
ヘルヴィンは体に闇の神力を纏わせ術を唱えた。
「『神闇』」




