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50 神々の争い

【逃げ遅れた三年生男子の視点から始まります】


***


「何が起こっているんだ? 一体どうしてこんなに魔物が……?」


 突如第二ホールのステージに現れた魔物に驚愕し、逃げ遅れた。

 

 足が震えて動けない。

 観客席にまで押し寄せるピュートーン。

 右にも左にもピュートーンがいる。

 

 すると僕はピュートーンと目があった。

 

(ハッ。今僕をみた?)


 ピュートーンが僕に向かって走って来た。

 目の前で大きな口が開いた。

 ピュートーンが攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

(あ……終わった)


 研究専攻の少年にピュートーンと戦う術はない。

 少年は目を瞑り、覚悟をした。


 グサッという音と共に攻撃が止まった。


 恐る恐る目を開けるとそこにはピュートーンの頭に刺さった剣。

 その剣に手をかける少年。

 その少年の体に纏った風は荒々しくて、でも風が少年の味方をしているように見えた。


 僕よりも小さい……一年生の子か?

 キャラメル色の髪に青い綺麗な瞳をした少年がいた。


 少し前、入学式で問題を起こした人物が話題になっていた。

 神同等といわれ、規格外の風の神力を持つ少年。


「君は……エーデル・アイビス君?」


 彼はこちらを向いて言う。


「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」


「怪我はしていない。大丈夫だよ」


 すると安堵した少年はホッと息をついた。


「ピュートーンは死体から毒を出します。絶対に触れずに、ここから逃げてください」


「わかった」


 僕は立ち上がり、第二ホール出口へ向かって走った。

 そして振り返り彼に言う。


「エーデルくん! ありがとう」


 そう伝えると、彼は人懐っこい笑みを返してきた。


 入学式の話を聞いた時はどんな問題児かと思っていたが、優しそうな子だ。

 僕を助けてくれた上に怪我の心配までしてくれた。


 この恩はいつか返せる時が来るだろうか――





***





 まだピュートーンは四十匹以上いる。

 一匹倒しても、まだ沢山倒さなければ。


 ピュートーンを殺した後の異臭。

 

 僕はエーデルの記憶を見た。

 昔エーデルが読んでいた魔物に関する本を探し、その内容を確認した。


 やっぱり……

 ピュートーンは死体から毒を出す。

 触れなければ害はないが、触れれば触れた箇所から徐々に腐っていく毒だ。

 解毒薬も一応あるのか。

 だが、作るのに時間がかかる。

 触らないことに越したことはないが、この毒を知らない人も中には居るはずだ。


 エーデルは立ち止まり、周りを見渡す。


 ドイルドとテルビアは目にも止まらぬ速さで戦闘をしている。


(あれは……僕なんかじゃ歯が立たない。ドイルドに勝とうとしていたなんて無謀だったな)


『神々の争い』


 僕が今目にしているものは、とても大事なんじゃないか?

 神々の争いとは、歴史をも変える程の影響があるのではないか?


 目の前の光景に不安が襲い、怖気付くエーデル。



「キャー!」


 突如聞こえた悲鳴に、エーデルは我にかえる。


 助けに行かないと。

 

 今することは考えることじゃない。

 まずは僕にできることをやる。

 

 再びピュートーンを倒しに、悲鳴が聞こえた方へエーデルは走った――





***





 一方、避難したディルとロニカは長い廊下を歩き、アカデミーの地下室へ向かっていた。


「ねぇディル。なんでこんなことになっているんだろう」

 ロニカは不安気に言う。


「ああ、奇襲のことか? そりゃ神さん達がお怒りなんだろうな」


「その件もだけど。ヘルヴィンが神だってことも、ドイルド先輩の言っていた事もおかしいと思わないか? エーデルが先輩に聞いていた『星のこと』『神のこと』『僕のこと』そもそも神の存在を知らないなんて変だよ。この国なら当たり前だし、今まで関わりの無かった神が二人も僕たちの目の前に現れたんだよ?」


「うーん。そうだな変だな」

 ディルは呑気に鼻をほじりながら答える。


「それにヘルヴィンは何故神だってことを隠していたんだろう? 前にも違和感はあったんだ。エーデルが神のことを知りたそうにしていた時、ヘルヴィンは多分わざと話を逸らして、自分が王族だとバラしたんだ。今回先輩が言ってしまったけど、どうしてもエーデルに知られたくないように見えてさ」


「そうか〜ヘルヴィンは王族なのか……ええ!? ヘルヴィンって王族なの?」

 

「も〜ディル! ちゃんと聞いてって!」

「さっきから聞いてるだろ?」

「本当に適当だな〜」


 ディルは鼻をほじるのをやめた。


「まあ、何にせよ。人には言いたくないことの一つや二つありだろう。ここで考えてたって答えは見つからないし、お前が擬人暗記になるだけだぞ? 二人が何か抱えてるのは俺も見ててわかるよ。でも話したいと思う時まで待つってのが男の友情だろ」


 ディルはロニカを見てドヤ顔をした。

(多分、カッコいいって言って欲しいんだろうな〜)


「フッ。ディルはかっこいいね」

「だろ? まあな。俺は成人だからよ」

「僕も成人なんだけど……」


 でもカッコいいの事実だ。

 確かに考えれば考えるほど、二人は僕に何を隠しているんだろう。そんなに話せないことなのか? それとも僕が信用出来ないのか? 二人は僕のことをどう思っているのか?

 有る事無い事考えて、何でもないことまで疑ってしまう。

 恐くなる。


 擬人暗記になってもしょうがない。

 僕は入学式で二人に助けられた。

 この恩は一生忘れない。

 ディルの言う通り、今は二人を信じよう。

 それが友達というものだろう。




***


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