49 魔物
これが『神』なのか?
『神』と呼べるのか?
僕が思う神とは、人知を超えた絶対的存在。
天地万物に宿るといわれ、それを支配する存在。
時に祈願や感謝をされる存在。
その存在は尊く、人間に崇め奉られるものだ。
だが、異世界に来て実際に会った神はその存在からかけ離れていた。
「んで、ドイルドは何故そのチビを守るの?」
片腕がないテルビアはバランス悪く腕を組んで話し始めた。
「賛成派だからだ。今死なれては困る」
「ああ、なるほどね! じゃあ敵になるのか〜ドイルドは強いから戦いたくなかったな〜あれ? ルミスは? あともう一人神いるよね? 名前は何だっけ? アイツは弱いから忘れちゃったよ」
エーデルは神達の会話に付いていけない。
当事者なのに重要なことは何も教えて貰えず、ただ命を狙われている。
当事者なのに神達の前で、今エーデルは蚊帳の外だ。
「ヘルヴィンのことか」
ドイルドは冷たい声を出した。
「ああ、そうそう! そんな感じの名前! 今どこにいるんだ?」
「『サーチ』」
テルビアは魔術を使いヘルヴィンの居場所を特定する。
体に纏う神力はヘルヴィンと同じ『闇』だ。
「いた! なんか狭い部屋にいる〜」
狭い部屋? 奇襲されたのは計四箇所、そのうち練習場と第一ホールそして第二ホールは広い場所だ。となれば僕たちのクラスにヘルヴィンがいるってことか? もしかして一人でいるのか?
(助けに行かなきゃ)
エーデルが走り出そうとしたその時、ドイルドに肩を掴まれた。
「先輩、離してください。ヘルヴィンが……」
「奴なら大丈夫だ」
「でも、ヘルヴィンは今一人なんです」
「さっきも言っただろう、アイツは神だ。信じろ。アイツは強い」
僕はまだヘルヴィン本人のの口から自分は神だと聞いていない。
大事なことは本人から聞きたい。
だが、今の状況を理解していない訳じゃない。
僕がここから去れば死人が出るかもしれない。
確かにヘルヴィンは強いと思う。剣術の授業で出した神力とさっき僕を治癒するために出した神力、比べものにならないほど差があった。それに出した神力も違っていた。授業では水の神力を使っていた。でも治癒する時は闇の神力を使っていた。
それに何故か、剣術専攻なのに治癒魔術を使っていた。
人間が得意とするものに神力が上乗せれる。
剣術と魔術、両方得ることなど可能なのだろうか?
彼は嘘をついていた。
授業では手を抜いていた。
もしくはバレないようにしていたのかもしれない。
考えれば考えるほど訳がわからない。
でも何か理由がある筈だ。
『人が何かを成すことには、必ず理由がついてくる』
記憶の両親の言葉がエーデルの頭によぎる。
(そうだよな? クラウス、カルラ。それとエーデル)
よし、ヘルヴィンを信じよう。
「先輩! 僕はテルビアの相手はできません! 多分すぐやられます」
「ああ、わかっている。テルビアは私が相手をする。お前は魔物を殺せ」
「はい! 倒したらヘルヴィンの所へ行ってもいいですか?」
「ククッ。ああ、全て倒したらな」
するとタクロはテルビアから目を逸らすことなく、エーデルに近づいてきた。
「エーデル。魔物と戦うのは初めてだろう? アイツらは『ピュートーン』という魔物だ。殺し方はわかるか?」
やっぱりピュートーンだ。
エーデルの記憶で見た通りだ。
「父から聞いたことがあります。まず羽を斬り落とします! 急所は脳か、心臓ですよね?」
タクロは安心したように鼻で笑った。
「フッ、さすがだ。これを使え!」
タクロがエーデルに長い何かを投げ渡した。
エーデルが受け取ったものは剣だった。
木刀ではない、剣だ。
剣をまじまじと見ると何処か既視感がある。
グリップが金色で細かい模様、青みがかった刃……見覚えがあるような。
「これじゃないと殺せない。死ぬなよエーデル」
「はい! じゃあ、左から行きます!」
エーデルは剣を構え、ピュートーンに向かって走り出した――
(まずは羽を斬り落とす!)
目の先にいるのは人じゃない。
でかい魔物だ。
エーデルは助走をつけて風の神力を使って上に飛び、ピュートーンの上から羽を目掛けて斬る――
羽を斬られたピュートーンは奇声をあげた。
(うわぁ。先生からもらった剣……切れ味がすごい)
片方の羽を失っても尚、飛ぼうとするピュートーンに向かって再び走る――
そしてピュートーンの下から滑り込み、剣を上に向けた状態で羽を斬った。
タイミングを間違えばエーデルは羽の下敷きになる。
神力を使って飛べば頭を狙いやすい。だが、体力的に辛いものがある。
なるべく体力を温存しておきたい。
倒すのは一匹だけじゃない、何十匹だ。
二枚の羽を失ったピュートーンはもう飛ぶことはできない。
だが油断はできない。ピュートーンは口から氷を出す筈だ。
それによって攻撃されたら身動きが取れなくなる。
飛んで上から頭を刺すか――
下から心臓を刺すか――
その時ピュートーンが立ち上がった。
(今だ!)
エーデルは走ってピュートーンの下に滑り込んだ――
そして胸の辺り、心臓に剣を刺した。
ピュートーンは奇声を発した。
(まずい! 下敷きになる!)
エーデルは瞬時にピュートーンの心臓に刺さった刀を抜いて、風の神力で体を回転させ、ピュートーンから距離をとった。
ピュートーンは倒れた。
(危なかった〜ヒヤッとしたよ。それにしてもなんだこの異臭は)
エーデルは周りを見渡した。
タクロはテルビアが乗っていた一番でかいピュートーンの相手をしている。
やっと一匹殺しても、まだ四十匹以上のピュートーンが生徒を襲っている。
まずい! 急ごう。
エーデルは次々とピュートーンを殺しに走った――




