47 奇襲
僕の神力が神同等なら、僕と同等か、僕より神力が多い人は神だってことになる。
確証はないが、確認してみる価値はありそうだ。
そういえばヘルヴィンは僕に何度か対戦を挑んできたことがあったな。その時は練習場だったから学校が壊れてしまうという理由でお預けになってしまったが、第二ホールを借りれば、対戦ができる。
(よし、ヘルヴィンに申し込んでみるか!)
「ロニカ、ディル、僕ヘルヴィンを探してくるよ」
「……エーデル」
ロニカは気まずそうに口にする。ディルの表情も雲がかったように見える。
「どうした?」
「ヘルヴィンのことなんだけど……彼の神力は闇なんだ」
闇?
クラウスから聞いたことはある。
けれど、どんな神力までだったかは覚えていない。
「それがどうかしたの?」
「闇の神力っていうのは人や魔物を操ったり、殺したり、支配したり、それに特化した最も恐ろしい神力だと言われているんだ」
「そうだったんだ……」
「ヘルヴィンも大変だと思う。与えられた力が闇だなんて……だから僕達は小さい頃からお母さんに、闇の神力の持ち主には近づけば操られるって言われて……」
迷信みたいなものか? まあ、危険な神力だと聞いたら、親なら当然心配だよな。
「そうか……それで、ロニカは体験したのか?」
「……え?」
「ロニカはヘルヴィンに操られたか? 殺されそうになった?」
「いや……それはないと思う」
「だよな! 僕もない! ヘルヴィンが直接操ったりしたところを見た訳じゃないだろう? それに薄っすらとしか見えなかったけど、ヘルヴィンはその闇の神力を僕を助けるために使っていたよね?」
「うん。確かにそうだった」
「じゃあ、悪い噂は省けたな! 噂は噂に過ぎない。でも気になるなら闇の神力の持ち主本人に聞いてみないとだな! 怖がることはない、だってあのヘルヴィンだぞ?」
「うん……そうだね! 僕は駄目だな〜噂で人を判断しちゃった。僕もヘルヴィンの友達なのに……神力を見た時、嫌な顔しちゃったんだ……」
「そっか、もしかしたらヘルヴィン落ち込んでるかもな。じゃあ、直接謝りに行こう!」
所詮、噂は噂だ。他人の話だけで判断をするのはよくない。
人を判断するのは言葉や噂ではなく、その人の行動だ。
況してヘルヴィンは大切な友人の一人だ。
ヘルヴィンと話せば全て解決する筈だ。
エーデルとロニカが立ち上がり、ヘルヴィンを探しに行こうとしたその時――
ドオオオオオン!
爆発したかのような物凄い音がしたと同時に第二ホール全体が砂埃で覆われた。
砂埃が視界を遮る。
「エーデル? 何が起こったの?」
砂埃ということは第二ホールのステージで何かあったのか?
第二ホールのステージの地面は砂だ。
エーデルは音のした方を見る。
徐々に砂埃が薄れ、見えてきたのは……
「これは……」
見えてきたのは魔物だった。
それも一匹や二匹じゃない、大群だ。
ざっと見て魔物は五十匹。
エーデルの記憶で見たことがある。記憶では本の中の存在だったが、そこにいるのは生々しいゴツい体をした灰色のリアルな物体。
(本物の魔物なのか? 何でここに魔物がいるんだ?)
エーデルの記憶によると、最大三メートルの大きな体を持つ、蛇のような魔物と記されていたが、目の前にいる実物の見た目はドラゴンに近い。奴らには羽が生えている。
つまり飛行するということか?
こいつらって確か……
ステージ中央に一番大きな体のボスであろう魔物の上に人影のようなものが見えた。
それは砂埃が消えてはっきり見えた。
魔物の上に乗る人を――
それを見てはっきりと理解した。
これは――奇襲だ。
「エーデル……魔物が……何だ? この神力……魔物の上に……すごい神力だ……エーデル! どこに行くの!」
エーデルはステージに向かって走り出した。
(まずい! 何が起きているかわからないけど、まずい予感がする!)
エーデルは魔物の上にいる奴を見た瞬間、ドイルドの時と同じような感覚、全身が奮い立つ感覚があった。
ドイルドが本当に神だとしたら、あれも人じゃないかもしれない。
それに魔物は強いと聞く。
最近神力を持ち、鍛え始めた一年生から四年生では到底勝てない。五年生以上でも十人がかりで倒せるか、倒されるかのどちらかだ。ここにいる全員が直ぐにやられるのが目に見えている。
あんなのが大群で押し寄せて来るなんて……
魔物の上に立っている奴は、それを従えて引き連れるくらい強い力の持ち主ってことだ。
魔物の殺し方ならクラウスから聞いたことがある。
飛行する魔物を最初に攻撃をする場所、そして奴らの急所なら既に知っている。
――戦える筈だ。
実践は一度もないが、倒せる力を持っている奴が倒さないと手遅れになってしまう。
エーデルは走った。
観客席から下のステージまで降り、タクロを探した。
「タクロ先生! これって」
「ああ、奇襲だな。それにここだけじゃない。俺たちの教室、第一ホール、それに練習場、計四箇所。アカデミー全体を攻めてきた奇襲だ」
タクロの隣にはドイルドがいた。
ドイルドは魔物の上に立つ奴を凝視している。
ドイルドの表情はエーデルと対戦した時とはまるで違う。
その表情から読み取れるのは『とてつもない怒り』だ。
多分そいつに向けての怒り。
「エーデル・アイビスよ。お前は隠れていた方がいい」
「……何故ですか?」
「奴の狙いは恐らくお前だ。そして奴は強い」
「奴って……あの魔物の上に立っている人のことですか?」
「あれは人ではない。私の同類ーー神だ」
大変大変大変、お待たせいたしましたー!!
一読くださいませ!!
本日何話か更新いたします♩




