46 ヘルヴィンの正体再び。
「それで、お前はこの星で何を成す?」
…………何を成す?
そう聞かれると何も浮かばない。
この世界に来て、特にやりたいことない。いや前世からなかったんじゃないか?
答えられるとしたら――
「僕は……強くなりたいです」
「それは当たり前のことであって、お前が成すべきことではない」
昔の戦争の影響により、この国では強くなることを強いられている。
家族や友人、そして自分自身を守るために強くなる。アカデミーはその為の入口に過ぎない。
誰かも守るために『強くなりたい』というのは当然のことだ。
「……まだ……よくわかりません」
「そうか。ここに来て自分の使命も知らずにほのぼのと生きていたわけか……期待はずれだったな。がっかりだ」
「…………あの、少しでも教えてもらえませんか? 星とか神……それと僕のことを」
「断る。だが、そうだな。私はこれからお前に恩を受けることになるだろう。なら先にその恩を返そう。その代わりお前は必ず成すべきことをしろ。
そこにいる奴に全て聞くが良い」
ドイルドが指を差した方に目をやる。
指が示した先にいたのは――ヘルヴィンだ。
「…………ヘルヴィンに?」
「ククッ。お前を欺き、弄んでいた神の一人だ」
突拍子もない言葉を吐き捨てると、ドイルドはこの場を後にした。
エーデルは目を丸くしてヘルヴィンを見た。
ヘルヴィンは地面に膝をつき、目を伏せ俯いている。
ディルとロニカは意味不明という顔をしていたが、タクロは頭に手を抑え、俯いていた。
「ヘルヴィン……何か、知って……」
エーデルはヘルヴィンの肩に手を掛けようとしたが、パチンとヘルヴィンの手で弾かれた。
ヘルヴィンは立ち上がると目を合わせることなく、何も言わずに去った。
ヘルヴィンらしくない行動だった。
いつもなら笑って誤魔化すか、言いたくないことははぐらかして話の話題を上手く変える。
俯いているせいか、ヘルヴィンの表情もわからなかった。
「エーデル、とにかくここを移動しよう。まだ他の人の対戦が終わっていない」
「あぁ、そうですね。すみません」
タクロの言葉にエーデルは立ち上がり、その場を後にした。
『神』
俄かに信じがたいが、ヘルヴィンの反応を見るに事実なのかもしれない。
いや、まだ本人に確かめていない。
ドイルドが適当なことを言っているだけで、事実でない可能性だってある。
彼にに聞きたいことは山ほどある。
『――どうだ? 神に弄ばれる気分は?』
ドイルドの言葉がエーデルの頭によぎる。
弄ばれるって何だよ。何を弄ぶんだ?
第二トーナメント戦、二回戦目で負けたエーデルはその後観客席で他の人の対戦を見ていた。
ロニカとディルも一緒に見ていたが、ヘルヴィンは姿をくらました。
ヘルヴィンは既に第二トーナメント戦、二回戦を勝利していたが、三回戦目を辞退していた。
そして拳銃大会が終わり、授賞式が始まった。
優勝者はドイルド・ポーセ。
王者と呼ぶに相応しい圧倒的な強さで勝利を飾った。
ドイルド・ポーセには『エレイン・ウィル・ルピナスの剣』が与えられ、今年の剣術大会優勝者と讃えられた。
ある意味では当たり前のことだ。
彼はアカデミーの七年生であり、来年卒業をする身だ。
初めて剣術大会に出場した一年生、つまり僕が彼に勝てる筈がないんだ。
ドイルドの神力は多分僕よりも多い……
『あの神力量は神同等だよな?』
ふとクラスメイトの以前言っていた言葉が頭をよぎる――
僕の力は神同等……強いと思ったルークですら神力はそこまで多くなかった。あれが普通ならば、僕より神力の多いドイルドも神なのか?
それに僕の全て知っているような言葉の数々……
『どうだ? 神々に弄ばれる気分は?』
神々ってことは……複数だよな? 神が一人なら神だけでいい筈だ。
僕の神力が神同等なら、僕と同等か、僕より神力が多い人は神だってことになる。
確証はないが、確認してみる価値はありそうだ。




