表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/65

42 次の対戦相手

 ルークが倒れたところで試合終了。

 ――僕の勝ちだ。


確かにルークの火の神力とエーデルの風の神力は相性が悪い。

 風は火に弱い。

 エーデルとルークの神力が同等なら、この勝負はルークが勝っていただろう。


 だがエーデルの神力量は『規格外』だ。


 ルークには二十パーセントの神力と剣術だけでは勝てない。

 だが、六年生といえど彼の神力は他より少し毛が生えた程度。アレクには到底敵わない神力量だ。

 神力量を増やせば勝算はある。


 勝つためには神力を最大限に使う。

 厄介なのはルークの『火の神力』

 だが、ルーク程度の火の神力量なら僕の風の神力を八十五パーセント出せば、火は消える。

 マッチ棒についた火を一息で消すのと同じ道理だ。


 そして竜巻でルークにほんの少しでもパニックを起こさせ、エーデルの風の神力を使い攻撃し、ルークの神力が完全に消え、弱ったところでトドメを刺す。

 これが僕の考えたルークに勝つ為の策だ。


(先生ごめんなさい。やっぱり約束は守れそうにないや)

 元々守る気もなかったけど……本当はここまで目立つつもりも無かった。


『神力八十五パーセント』

 ここまで神力を出したのは初めてだ。アレクと対戦した時に出した神力量は七十パーセント。八十五パーセントまでは出していない。

 アレクの時は傷つけたくないという迷いと、まだ未熟だったエーデルは七十パーセントが限界だった。

 八十五パーセント、これはアカデミー来て学び、更に成長た結果だ。


(やっぱり、アカデミーに来てよかった)



 正直、僕はまだ怒っている。

 でもルークに勝ち、そのまま立ち去るのは少し心苦しかった。

 後輩に、それも入学したばかりの一年に負けたのだから、悔しくないはずが無い。

 余計なお世話かもしれないけれど、声をかけるべきかもしれない。

 僕はそう思った。


 エーデルはルークの元へ行き、彼の肩を揺らし起こした。


「ルーク先輩……大丈夫ですか?」

 彼はイビキをかいている。

 エーデルはルークの頬を叩いた。

「ルーク先輩、起きれますか?」

 

「……んー…………おぉ。俺は気を失っていたのか……」

「いや、ほぼ寝てましたよ。イビキかいてましたし」


 ルークは上半身を起こし、状況を把握するのに数秒ぼーっとしていた。

 するといきなり「ハッハッハ」と言ってエーデルの背中を叩きながら笑った。


「先輩、痛いです」

 本当に色々と乱暴な人だ。


「ハッハッハ。お前強いな! この俺が負けたのか! ハッハッハ。お前かなり鍛錬しているな、やってきたことは嘘をつかない。認めよう!」

(本当になんなんだこの人……怖いな)


「はい、僕はあなたに勝ちました」


 笑っていたルークは真剣な表情で話し始めた。

「悪かったな、俺はお前を挑発した。相手を感情的にさせ、判断を鈍らせる、それが勝つための手段だった。どうしても戦いたい奴がいてな。お前を倒して、そいつを潰すつもりだった」


「……だとしても、言っていい事と悪い事の区別くらい付けてくださいよ。謝る相手は僕ではないと思います」


「ああ、確かにそうだな。お前のいう通りだ。『エーデル・アイビス』よ。お前の次の対戦相手は俺とは段違いだ。あいつはここにいてはいけない奴だ。気をつけろ」


 この時ルークは初めてエーデルの姓を間違えずに呼んだ。


 さっきまでの威勢のいいルークとは違って謝罪に助言までくれるとは、まるで別人のようだ。


 この人にも目的があったんだな。

 挑発していた事実は消せないが、もしかしたらこの人は悪人ではないのかもしれない――


 ルークから感じる次の対戦相手への感情。

 それはルークがエーデルを前にした時の遊び心とは違う。 相手を憎むような目付き――憎悪のようなものを感じた。

 


「――――話は終わったか?」



 エーデルは声のする方に視線をやる。

 そこにいたのは全身を黒で纏い、更に黒いローブを着た長身の男。雲を集めたような白い髪で、顔の血色が悪く無表情で立っている。

 

 彼を見た瞬間に全身が奮い立つ感覚があった。

 その感覚は多分『恐れ』で間違いない。

 この感覚……以前にも何処かで――


 直感で感じた――この人はかなり強い。


「ああ、今終わったよ。エーデル・アイビスよ、次の対戦相手は俺が最も潰さなければならなかった男『ドイルド・ポーセ』こいつだ」



***



「びっくりした〜会場が神力に包まれたんだもん」

「でも綺麗だったね。優しい緑色だった」


 観客席ではエーデルの神力が話題になっていた。


 一方観客席にいるロニカ、ディルはエーデルとルークの試合を見て盛り上がっていた。


「やった! 流石エーデルだよ! 見た? ルーク転がってたよ!」

「まあ、俺が認めた男なだけあるな」

 エーデルの優勝を見てロニカとディルは喜び、ハイタッチをしていた。

 ところがベルヴィンだけは真剣な眼差しでステージを見ている。


「なぁベルヴィン。さっきからどうしたんだ?」

「うーん。エーデルの次の対戦相手のことを考えていた」

「次? あの黒い男か? なんか強そうだけど、エーデルなら余裕だろう?」

「いや、そうもいかないと思う」

 ディルはベルヴィルの方を見て首を傾げだ。

 

 ヘルヴィンは立ち上がった。

 エーデルに伝えに行きたいけど……()()()はもう対戦する気満々だ。

 間に合わない。何より時間がない。

 それにエーデルに伝えれば僕に対して疑問が浮かぶはずだ。これまで彼と築き上げた関係性も、信用も失うだろう。


 一から説明するにはもっと時間が必要だ――


 ベルヴィンは再び座ると、険しい顔でステージに立つエーデルを見ている。



***


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ