42 次の対戦相手
ルークが倒れたところで試合終了。
――僕の勝ちだ。
確かにルークの火の神力とエーデルの風の神力は相性が悪い。
風は火に弱い。
エーデルとルークの神力が同等なら、この勝負はルークが勝っていただろう。
だがエーデルの神力量は『規格外』だ。
ルークには二十パーセントの神力と剣術だけでは勝てない。
だが、六年生といえど彼の神力は他より少し毛が生えた程度。アレクには到底敵わない神力量だ。
神力量を増やせば勝算はある。
勝つためには神力を最大限に使う。
厄介なのはルークの『火の神力』
だが、ルーク程度の火の神力量なら僕の風の神力を八十五パーセント出せば、火は消える。
マッチ棒についた火を一息で消すのと同じ道理だ。
そして竜巻でルークにほんの少しでもパニックを起こさせ、エーデルの風の神力を使い攻撃し、ルークの神力が完全に消え、弱ったところでトドメを刺す。
これが僕の考えたルークに勝つ為の策だ。
(先生ごめんなさい。やっぱり約束は守れそうにないや)
元々守る気もなかったけど……本当はここまで目立つつもりも無かった。
『神力八十五パーセント』
ここまで神力を出したのは初めてだ。アレクと対戦した時に出した神力量は七十パーセント。八十五パーセントまでは出していない。
アレクの時は傷つけたくないという迷いと、まだ未熟だったエーデルは七十パーセントが限界だった。
八十五パーセント、これはアカデミー来て学び、更に成長た結果だ。
(やっぱり、アカデミーに来てよかった)
正直、僕はまだ怒っている。
でもルークに勝ち、そのまま立ち去るのは少し心苦しかった。
後輩に、それも入学したばかりの一年に負けたのだから、悔しくないはずが無い。
余計なお世話かもしれないけれど、声をかけるべきかもしれない。
僕はそう思った。
エーデルはルークの元へ行き、彼の肩を揺らし起こした。
「ルーク先輩……大丈夫ですか?」
彼はイビキをかいている。
エーデルはルークの頬を叩いた。
「ルーク先輩、起きれますか?」
「……んー…………おぉ。俺は気を失っていたのか……」
「いや、ほぼ寝てましたよ。イビキかいてましたし」
ルークは上半身を起こし、状況を把握するのに数秒ぼーっとしていた。
するといきなり「ハッハッハ」と言ってエーデルの背中を叩きながら笑った。
「先輩、痛いです」
本当に色々と乱暴な人だ。
「ハッハッハ。お前強いな! この俺が負けたのか! ハッハッハ。お前かなり鍛錬しているな、やってきたことは嘘をつかない。認めよう!」
(本当になんなんだこの人……怖いな)
「はい、僕はあなたに勝ちました」
笑っていたルークは真剣な表情で話し始めた。
「悪かったな、俺はお前を挑発した。相手を感情的にさせ、判断を鈍らせる、それが勝つための手段だった。どうしても戦いたい奴がいてな。お前を倒して、そいつを潰すつもりだった」
「……だとしても、言っていい事と悪い事の区別くらい付けてくださいよ。謝る相手は僕ではないと思います」
「ああ、確かにそうだな。お前のいう通りだ。『エーデル・アイビス』よ。お前の次の対戦相手は俺とは段違いだ。あいつはここにいてはいけない奴だ。気をつけろ」
この時ルークは初めてエーデルの姓を間違えずに呼んだ。
さっきまでの威勢のいいルークとは違って謝罪に助言までくれるとは、まるで別人のようだ。
この人にも目的があったんだな。
挑発していた事実は消せないが、もしかしたらこの人は悪人ではないのかもしれない――
ルークから感じる次の対戦相手への感情。
それはルークがエーデルを前にした時の遊び心とは違う。 相手を憎むような目付き――憎悪のようなものを感じた。
「――――話は終わったか?」
エーデルは声のする方に視線をやる。
そこにいたのは全身を黒で纏い、更に黒いローブを着た長身の男。雲を集めたような白い髪で、顔の血色が悪く無表情で立っている。
彼を見た瞬間に全身が奮い立つ感覚があった。
その感覚は多分『恐れ』で間違いない。
この感覚……以前にも何処かで――
直感で感じた――この人はかなり強い。
「ああ、今終わったよ。エーデル・アイビスよ、次の対戦相手は俺が最も潰さなければならなかった男『ドイルド・ポーセ』こいつだ」
***
「びっくりした〜会場が神力に包まれたんだもん」
「でも綺麗だったね。優しい緑色だった」
観客席ではエーデルの神力が話題になっていた。
一方観客席にいるロニカ、ディルはエーデルとルークの試合を見て盛り上がっていた。
「やった! 流石エーデルだよ! 見た? ルーク転がってたよ!」
「まあ、俺が認めた男なだけあるな」
エーデルの優勝を見てロニカとディルは喜び、ハイタッチをしていた。
ところがベルヴィンだけは真剣な眼差しでステージを見ている。
「なぁベルヴィン。さっきからどうしたんだ?」
「うーん。エーデルの次の対戦相手のことを考えていた」
「次? あの黒い男か? なんか強そうだけど、エーデルなら余裕だろう?」
「いや、そうもいかないと思う」
ディルはベルヴィルの方を見て首を傾げだ。
ヘルヴィンは立ち上がった。
エーデルに伝えに行きたいけど……あいつはもう対戦する気満々だ。
間に合わない。何より時間がない。
それにエーデルに伝えれば僕に対して疑問が浮かぶはずだ。これまで彼と築き上げた関係性も、信用も失うだろう。
一から説明するにはもっと時間が必要だ――
ベルヴィンは再び座ると、険しい顔でステージに立つエーデルを見ている。
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