41 感情的な神力
「俺は――『ルーク・アックス』次のお前の対戦相手だ」
(!?)
このガタイが良く、タッパもある頭の赤い男がルーク・アックスだと?
ここで対面するとは……それに何故急に木刀を振り下ろしてきたんだ?
「はじめまして。いい加減木刀を下ろしてくれませんか?」
エーデルは感情を抑え、冷静に言った。
「嫌だね」
――プツンと頭の中で何かぎ切れた音がした。
「じゃあ結構です」
エーデルは神力を出し『風』を体から木刀へ移動させた。ルークが木刀を押す力より更に強い神力で押し返した。
――ルークの木刀はカランと音を立て床に落ちた。
ルークはエーデルの目を凝視したままだ。
「ハッハッハ、今年の一年は生意気だな。燃えてくるぜ」
「先輩こそ背後から襲うなんて随分卑怯じゃないですか?」
「ハッハッハ、面白いなお前。エーデル・ワイス」
「アイビスです」
「あ〜そうか。俺は強い奴の名前しか覚えられなくてな」
「そうですか、では後で。行こうみんな」
僕らはその場を後にして、第二ホールへ向かった。
ルーク・アックス……なんだったんだ?
直ぐ試合で対戦できるのに、なぜいきなり木刀を振り下ろしてきたんだ? なんの目的で?
何れにせよ気分の良いものではなかった、正直腹が立った。
でもあのガタイとタッパ……生まれ持った肉体と、鍛え抜いた力で押された時、神力を使わなければ力負けしていただろう。あれは既に出来上がっている。
次の相手は今までのようにはいかないだろうな。
「エーデルごめん。僕がサーチをうまく使えなかったから……」
「気にするなロニカ。君が謝ることじゃない」
ロニカの魔術は『サーチ』を使える。
魔術の中でもサーチはをうまく使いこなすのが難しいらしい。今回は近くに誰かがいることは察知したが、攻撃がくるとまでは察知できなかった。
カルラは当たり前のように使えていた。ロニカとは年齢も経験も違うが、カルラはエーデルが思うよりも凄い魔術師なのかもしれない。
「本当にびっくりしたね〜ルーク・アックスは何がしたかったんだろう?」
「わからない。でもヘルヴィンの言う通り危険人物だということはわかった」
「そうだね〜見て? ディルなんてビビってモアイ像みたいな顔してる〜」
振り返って見たディルは石のように固まり、恐さのあまり顔が伸びていた。
「モアイゾウって何?」
ロニカは不思議そうな顔をして聞いた。それにヘルヴィンが「石だよ、石」と答えた。
そして第二ホールに着いた。
「――行ってくる」
エーデルはステージに向かって歩き出した。
持ち場に着き、ルーク・アックスが来るのを待った。
次の相手は神力を使わずに勝てる相手ではない事は理解した。素の力だけでは多分、僕は負けるだろう。
何か策を考えないと――
「何を考え込んでるんだ?」
ルークが近い距離で僕の顔を覗き込んできた。
「いえ、別に」
「何をそんなに怒ってるんだ?」
彼は僕を挑発してるのか?
いきなり背後から木刀を振り下ろされて怒らない奴がいるか?
「……」
「この勝負、俺の勝ちだな」
「僕まだ負けてませんけど」
「ハッハッハ、いや、お前は負ける確実に」
エーデルはルークを凝視しながら木刀を構えた。
ルークは木刀を肩に担いだーー
これが彼の構えのようだ。
ピストルの音が鳴り響いた――
『第二次トーナメント戦』一回戦目の開始だ。
ルークはまだ動かない。
それなら、僕から行こう――
エーデルはルークに向かって走ると同時に神力を十パーセント出し、足に力を入れ、そのバネを使って上に飛んだ――
風を纏わせた木刀をルークの上から振り下ろした。
ガンッという音が鳴ると、目の前が急に赤く広がった。
「これは――」
よりにもよってアレクと同じか――火の神力だ。
エーデルの風とは相性が悪い。
これは本当に何か策が必要かも知れない。
あのタッパとガタイに勝つためには――
「どうした? エーデル・ワイス。男なら頭で考えず、行動しろ」
「ええ、そうします」
再びエーデルはルークに向かって走る――
風で体を押し、走るスピードを上げた。
更に木刀の側面を風で押し、重力を増やして木刀をルークの腹に向けて横から振るった――
ルークは木刀を片手で大きく動かして弾いた――
彼が持っているのは本当に木刀か? まるで斧だ。
でかい斧を持っている熊だ。
認めたくないが、ルーク相手に十パーセントの神力量と、今まで鍛えた剣術だけ勝てない。
「さっき一緒にいた奴、魔族だろう? 何故人間が魔族なんかと仲良くしてる? お前は変わり者だな」
「あなたに関係ないでしょ」
ルークは対戦中だというのによく喋る。
随分と余裕があるようだ。
同時にエーデルを舐めている。
再びルークに向かって走る――
神力二十パーセント全てを木刀に纏い振るう――
ガンッという音が鳴り、また弾かれた。
赤い火の神力が視界の邪魔をする。
風を強くすればするほど、火が燃え上がり近づけない。
風の神力を中途半端に出すのは得策ではない。
「俺はあの黒い角がどうしても気色悪くてな〜」
エーデルはその場で止まり、木刀を握る拳を強く握り締めた。
(またそれか…………あぁ、こいつもバドラと同じか――)
「最初に言っただろ? お前は負けると。何故かわかるか? お前は今、醜くも感情的になっているからだ。感情的になった人間ほど弱い生き物はない。よって、お前は俺に負ける」
そう吐き捨てるとルークはエーデルに向かい走ってきた――
エーデルはその場から動かない。
ルークはエーデルの目の前まで来ると頭の上から大きく木刀を振り下ろした――
まるで大きな斧で小さい薪を割るかのように。
その瞬間ーーエーデルは片手に持つ木刀でルークの上から振り下ろされた木刀を弾き飛ばした――
「『神力八十五パーセント 竜巻』」
第二次ホールステージから観客席まで風の神力で包んだ――
エーデルは一瞬にして会場全体を風の神力で緑色に染めた。
僕は確かに怒っている。
ルークが言うように感情的になっている。
それが友達のロニカを馬鹿にされたからなのか、エーデルの大切なアイビス家の姓を何度も間違えたからなのか。
どちらにも腹が立ったのかもしれない。
そもそも姓を覚える気すらないあいつの行動に我慢できるほど、僕は大人じゃない。
神力の中は痛くも痒くもない、ただ少し風が強いが、目を疑うほど綺麗な緑に染まった。
害のない人間まで危険には晒さない。
そのために神力をの調節を、操り方を学んだのだから――
ステージ上にいるルークへ神力で竜巻を放った。一部の場所にだけ起こした竜巻は、立つ事が困難なほどに激しく回る。
ルークはぐるぐると回転している。
――竜巻の中は呼吸がし辛いだろう。
――小さい石や砂が肌にぶつかり痛いだろう。
そして膝をついたルークの首の後ろ(盆の窪)に木刀でトドメを刺し気絶させた。
ルークが倒れたところで試合終了。
――僕の勝ちだ。
エーデルvsルークの勝敗は!!!
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