39 剣術大会開幕!
遂に剣術大会が始まった――
第一次トーナメント戦、一戦目が始まる。
観客席で沢山の人が僕らの対戦を見ている。
――少し緊張するな。
エーデルは持ち場に着き、顔も知らない対戦相手が来るのを待った。
「君がエーデル?」
「はい……」
「よろしく。アルベル・トレインよ」
声をかけてきたのは女子だった。
僕より小さく、髪を一本に縛り目がキリッとした女の子だ。
そうか――女の子も参加するんだ。
木刀でも当たったら痛いよな……痛くならない方法で勝とう。
正直負けることも出来る、でも勝って上の学年の人達と戦いたい。
対戦にはルールがある。ステージで対戦できる組の数は全部で六組。白い線で区切られている。
白い線の中(場内)で戦う。白い線を出た場合(場外)負けとなる。負傷したり、気を失っても負けとなる。
広いステージで皆が一斉に木刀を構える――
そしてピストルのパンッという音と同時に第一次トーナメントの一回戦目が始まった――
「うわー!」
アルベルは呼吸も整えず、ピストルの音と同時に僕に向かって走って来た――
エーデルは白い線のギリギリまで下がった。
対戦に慣れていないのか、無鉄砲すぎる。
だが、この程度なら少し痛いだろうけど、傷つけずに終わらせられそうだ。
エーデルは正面から来るアルベルの木刀を交わし、彼女の足に木刀を引っ掛け転ばせた。
転んだアルベルの体は白い線を越え場外に出た。
――エーデルの勝ちだ。
「はぁ〜やっぱり負けた〜」
立ちあがろうとする彼女にエーデルは手を貸した。
「ごめんね。痛くなかった?」
「ありがとう。全然! 神力も出してもらえなかったか〜悔しいな」
「いや、そうじゃないよ。傷つけたく無かったから……」
「……君は優しいね。私が女だから? 気を使わせちゃったね」
アルベルは決まり悪そうに微笑んだ。
「でも次は負けないから! エーデル・アイビス」
「うん」
彼女はホールから去っていった。
そして次の対戦も、三回戦、四回戦もアルベルと同じ様に白い線のギリギリまで下り、向かってくる相手の足に木刀を引っ掛けて転ばせ、場外へ出し僕は計四回勝利した。
次で一学年最後の対戦だ。
次の対戦まで時間があるな。
他の対戦を見て回ろうか――
今、丁度戦っているのは……ヘルヴィンとディルだ。
二人とも四回戦まで残ったんだ! ディル頑張ったんだな。凄いや!
ディルは神力を操り、体と木刀に纏っている。
そしてヘルヴィンに木刀を振るった――
カンという音がした――ヘルヴィンは神力を使わず、片手で持った木刀だけで受け止め、ディルを木刀ごと跳ね飛ばした――
ディルは立ち上がり、再度ヘルヴィンに木刀を振るう――ヘルヴィンは余裕で交わした。
――ディルは何度も何度も諦めずに、全力で立ち向かっている。『七転八起』まさに彼に相応しい言葉だ。
もどかしいな。
二人とも応援したいけど、この対戦で勝つのはどちらか一人だけ。
ディルは僕が教えたことを出来るようになったのに、相手がヘルヴィンだと勝ち目がない……
ヘルヴィンはディルに勝たせるつもりは無さそうだし、それに今のヘルヴィンは全く笑っていないーー真剣なんだ。
教室で僕に『優勝しろ』と言った時も笑っていなかった。
何の疑問も抱かずに了承したが、ヘルヴィンはどういう思いで『優勝しろ』と言ったのかわからない。
彼は基本物事に対して熱量が多いわけではない、どちらかというと一歩引いて見るタイプだ。
だから彼が剣術大会を真面目に取り組む姿勢は珍しいと思った。
「ヘルヴィン。もう勝負つけようぜ」
「ディル、君は本当に強いね――僕も負けないよ」
――空気が変わった。
二人はひと呼吸おいて、木刀を構え、力強く同時に足を前に踏み込んだ――ディルとヘルヴィンの木刀がぶつかる。
ガンッとでかい音がした――ディルはその場で倒れ、試合は終了した――ヘルヴィンの勝ちだ。
「ディル!」
エーデルは場内まで走って行きディルに声をかけた。
「ディル? 大丈夫か?」
「ああ、案ずるな。余裕だよ」
ブルブルと震えている。
とても大丈夫そうには見えないが、彼は辛うじて動く右手手でグッドポーズをした。
「神力切れだね。ディル、よく頑張ったね」
ヘルヴィンは汗ひとつ流していないが、いつもの穏やかな表情に戻っていた。
「ヘルヴィンお疲れ様」
「ありがとう。エーデル……彼と戦ってわかったことがある。僕は意外と嫉妬深いみたい。でも少し彼のこと好きになったよ」
またよくわからないことを言ってるなと思いつつ、ヘルヴィンもディルの諦めない姿勢に魅力を感じたようだ。
「少し君に似ているね」
――似ている?
「僕とディルは似ても似つかないよ」
僕は俯いて言った。
だって、そうだろう。
僕はずっと諦めることに慣れていた。ディルは諦めずに何度も立ち向かっていく、かっこいい奴なんだ。僕なんかが似てるの一言で片付けていい訳がないんだ。
「そんなことないと思うけどね。一年の対戦は次で最後だよね? エーデルも四回戦まで行けたんだね。まぁ、君なら当たり前だね」
「ハハッ。どうだろう……」




