37 『エーデル、優勝しろ』
――あっという間に三日経ち、遂に『剣術大会』当日になった。
この三ヶ月間は毎日朝から晩まで汗水垂らして、神力の調節と剣術を身につけた。
中には授業以外で自主練していた人もいた。
皆本当に頑張ったんだ。
まず僕らは教室に集合した。
クラス全員が席に着き、タクロ先生は教卓に手を掛け少し前のめりになる――いつもと同じ行動だ。
そして先生は僕らに一言――
「お前らが一年だから言う。
勝ち負けにこだわるな。後悔のないように。以上」
「「「はい!」」」
先生の言う通り、これがもしアカデミー七年目であれば『勝て』の一言だろう。
だが僕らは入学したばかりの一年生だ。まずは後悔しないように自分が出来るところまで全力を出すのが今回の課題だ。
ヘルヴィンが肩に手を乗せて、トントンと二回叩いた。
「エーデル。優勝しろ」
いつもの様に笑っていない。いつになく真面目な顔で彼は言った。
「わかった」
僕は何の疑問も抱かずその言葉に乗った。
『どうせやるなら勝ちたい』僕がどれ程強いのか、僕は先輩相手にどれ程通用するのか。全力を出し切ってみたい欲に駆られていた。
すると先生に呼ばれた。
「エーデル・アイビスちょっと来い」
「はい!」
先生は僕の肩に手を回し、耳元で小さい声で言う。
「エーデル。変なこと考えてないよな? あまり目立つ様なことはするな、わかったか?」
「はい!」
「よしっ! 行ってこい」
先生は僕の背中を押した。つくづく思う、本当にいい先生を持った。
(ごめんなさい、先生)
先生が僕を心配して言ってくれていることはわかっている。
でも約束は守れないと思う。
今、僕の感情はとても昂っている。
人生で感じたことのないほど、嘘みたいに胸が躍っているんだ――
今までになかった昂り。
何の取り柄も無かった僕が、何の楽しみもなかった僕が、唯一持つことを許された強さ。
もしこの力が無ければアレクに出会えなかったかもしれない。
ロニカを助けることができなかったかもしれない。
クラスメイトに出会うことができなかったかもしれない。
そもそもアカデミーに通いすらしなかっただろう。
この力は今の僕に必要不可欠で、僕が初めて何かに挑戦したいと思えたことなんだ。
先輩方を差し置いて一位になりたいとかじゃない。
どれだけ戦えるのか、どれだけ通用するのか、僕はそれが知りたい――




