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36 ディル・バーナ

「ヘルヴィン。君との対戦にはとても興味ある。今度何処か出かけた時にでも対戦しないか?」

 ヘルヴィンはまたニコニコと笑ってい『いいよ』と返してくれるのだろうーーいつものように。


 ――笑っていなかった。

 彼は少し考え込んで、こう言った。


「いや、冗談。僕は正直君と戦いたくないし」

 ……あれ?


「でももし僕がピンチ*になったら助けてくれる?」

 ……ピンチ……


「……もちろんだよ」

「じゃあその時まで君との対戦はとっておくよ」

 そういうと彼はいつものようにニコッと笑った。


 

 彼のピンチとは一体何か?

 王族で思いつくピンチとは……暗殺とか?


 ヘルヴィン――不思議な人だ。

 最初は信用出来ない奴だと思った。


 バドラのと一件で僕を焚き立てる言動、話してもいないことを知っているような口振、心の奥底を覗かれているような感覚だった。


 一緒にいるうちに自然と仲良くなり、彼は何かと僕を助けてくれるようになった。


 でも彼の言葉はどこか意味深だ。

 彼はどうしていつも笑顔でいるのだろう――

 別に楽しいことがあるわけじゃないのにいつも笑っている。まるで仮面をつけているみたいだ。


 その笑顔の裏には何が隠されているのか。

 僕はそれに触れてもいいのだろうか――

 ピンチの時ヘルヴィンを助ける事ができるだろうか。


 もしかしたら彼に手を差し伸べられるのは僕かも知れないし、僕じゃないのかも知れない――


 翌日から神力を使いながら剣を振るう授業が本格的に始まった。

 たまに僕とヘルヴィンは教える側に回った。

 全員で出来ることを共有し、みんな順調に神力を調節し操ることを覚えていく。剣術もかなり上達したことだろう。

 毎日疲れ果てるまで授業を真面目に取り組んだ。



 ――こうして三ヶ月が経った。



 三ヶ月も経てばある程度クラスの団結力が出来る頃だ。

 エーデルもクラスメイトと打ち解けて来た。

 主にヘルヴィンやディルのお陰もあるが、僕自身も積極さを身につけ、良い方向へ進んでいる。


 僕はディルと何度か対戦をした。

 僕の一振りでディルは吹っ飛んでしまうのだ――

「うわぁ!」

 後ろに転がるディルに申し訳ないと思いつつ、僕はその光景に少し慣れてきた。


「ディル大丈夫か?」

「……心配すんな。こんなの余裕だ」


 吹っ飛んだディルは上半身を起こし、手でグッドポーズを取る。

 彼は他の人より頑丈な体を持ち合わせているらしい。最も彼の土の神力のお陰でもあるが、神力を使った防御だけは本当に完璧だ。


 そして何より彼は真面目だ。

 神力量で僕に勝つことは不可能なのに、屈せず何度も僕に対戦を申し込んでくる。

 僕は彼のそういうところが好きになった。

 

 剣術の授業は決して楽なものではない。

 神力を使いながら剣を振るうというのは『思考、洞察、技術、体力』全てをフル作動させなければならないのだ。



 皆、毎日本当に頑張っている。

 それは三日後のアステリオスアカデミーで開催される『剣術大会』に向けて――



「ディル。剣を振るう時は防御も大事だが、剣にも神力を纏わせるんだ。神力を半分に分けて、体と剣どちらにも神力を浸透させるんだ」


 僕は自分でやってディルにお手本を見せた。

「エーデル〜俺、神力少ないからどっちかしか出来ないよ」

「少なくても調節するんだ。まずは神力と友達になるんだよ。そうしたら神力は君の味方になってくれる」


 これはアレクの受け売りだ。

『神力と友達になる』特別何かをするわけじゃない。ただ気持ちの問題だ。

「これからよろしくね」と話しかける様に、神力に対して敬意を払う。


「私もエーデルと友達になりたーい」

 声をかけて来たのは――ジュリエ・ビン。

 女子のクラスメイトだ。

「ハハッ。もう友達だろう?」


「じゃあもっと仲良くなりたーい」

「黙ってろジュリエ。俺は今集中しているんだ」

「ディル、まだ防御しか出来ないの? 皆もう調節は余裕で出来てるのに〜ダサッ」

「ジュリエ。言い過ぎだ」


 エーデルはジュリエを叱った。

「はーい」というとジュリエは僕たちから離れていった。


「実は俺悔しいんだ。皆もう神力を操れているだろう? 皆とと違う……俺だけ……これじゃあ剣術大会で戦うなんて出来ないよな」


 ディルは無理をした笑顔を僕に向けた。

 今にも悔し涙を流しそうな顔。

 本当に悔しいんだ――

 気持ちは痛いほどわかる。


『皆と違う』そこから生まれる感情は、精神を殺めることになるかもしれない。

 ――前世の僕と重なった。

 このクラスで虐めが起きるとは思わない。だが、ディルの心の問題だ。

 心が病んでしまったらそこからは地獄が始まる。


 自分を差別して苦しんで欲しくない。

 今僕が彼に出来ることは――

「ディル。よく聞いて」

 僕はディルの両肩を掴み、身長の低いディルと同じ目線になる様に膝を曲げた。


「ディルは強いよ。きっと更に強くなる! 何度も諦めずに僕に立ち向かって来たじゃないか。皆はディルの様に出来ないよ! ……だって痛いだろう? 痛いから皆僕と対戦しないんだ。諦めないっていうのはディルにしか出来ない戦いなんだよ!」


 ――ディルの目つきが変わった。

 歯を食いしばり、両手で頬をバチンと叩いた。

「悪かったなエーデル。弱いところ見せちまって、ありがとう頑張るよ俺!」


 僕はやっぱりディルが好きだ。

 自然と応援したくなる。例えディルが敵になったとしても応援したくなるんだろうな。

 僕の言葉でディルの折れそうな心を少しでも支えてあげたいと思った。


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