33 雷紋
午後の授業も終わり、エーデルとヘルヴィンは寮の宿舎へ向かった。
宿舎の建物は白くて大きい、窓の枠が緑でお洒落な外国の雰囲気だった。
中に入ると食堂スペースがあり階段を登ると張り紙があり、そこには僕達の部屋が割り当てられた。
宿舎は一クラス全員での入居だ――計二十人。男女混合だが、二階が女子三階が男女と別れている。
エーデルとヘルヴィンは隣の部屋だ。部屋の割り当てはランダムで決まるらしいが、偶然にも二人は隣の部屋同士になった。
「じゃあエーデル、六時にお風呂入りに行こう」
「うん。後でね」
お風呂は一階に銭湯のような大浴場が一つ。これも共有スペースだ。だが残念ながら男女で別れている。寮の生徒は朝と夜で自由に入れるらしい。
僕は自分の部屋に入り、何の飾りもない質素な木製の家具達を見て寂しく思った。
エーデルの家は写真やぬいぐるみ、柄の入った食器があり生活感に溢れた。それが妙に暖かく感じていたのだ。
エーデルは素朴なベッドに腰掛け、隣にある窓を見た。
「ここだけは安心するな」
窓の外には小さい湖があった。
静かな波を打ち、透き通った青、それを囲む緑の木々。
思わず窓を全開に開けて、目一杯空地を吸った。
――自然の空気は美味しい。
ここにはスマホもテレビもない。
技術は前世に劣るかもしれないが、寧ろ健康にもいいがする。何よりそれがなくても不便していない。
前世でなくてはならないものは異世界では必要なかった。
トントンと部屋の扉を叩く音が聞こえた――
「エーデル、荷解きは終わった? もう6時だからお風呂に行こう」
「うん! 今行くよ」
荷解きを忘れていたが、後でやればいい。
急いで鞄から着替えを持ちヘルヴィンの元へ向かった。
大浴場に着くと、見覚えのある顔が揃いも揃って全裸で騒いでいた。剣術の専攻だからか皆鍛えられた逞しい腹筋がしっかりとある。クラスメイトはもう既に仲がいいようで、エーデルは早速出遅れた感がある。
少し恥ずかしいな。裸なんて前世で両親の前でしか見せたことないし、百合にだってあまり見せたことがない。銭湯にも入ったことがないんだ。
ヘルヴィンは隣で平然と脱ぎ始めた。
僕もそこそこと服の袖から少しずつ脱ぎ始めた……
「おい、エーデル何そこそこしてるんだよ。お前は女か?」
クラスメイトの一人が茶化してきた。彼はクラスで一番のお転婆の怖いもの知らず。僕に最初に話しかけてきた一人で、名前は――ディル・バーナだ。
「違うよ」
「耳が赤いぞ〜」
何だが恥ずかしがっているのが馬鹿らしく思えてきた。僕は吹っ切れて思いっきり服を脱いだ! そのままパンツまで脱いでやった!
「…………おい」
「なんだよディル」
何だ? アレが小さいとでも言いたいのか?
「お前の背中どうしたんだ?」
「え? 背中? ヘルヴィン、なんか変?」
僕はヘルヴィンに背中を向け見てもらった。
「なるほどね。エーデル、鏡で見てごらん?」
鏡に背を向け首を横に捻り鏡越しに背中を見た。
「え……何これ」
自分で背中を見る機会など無かったから知らなかった。背中にあるたくさんの線。二十センチ程の一本の太い線から枝が何本も生えたような……うねうねしたような模様……ミミズ跡…………何だ?
――何かわからない。
――覚えがない。
するとディルが言う。
「これって雷紋じゃないか?」
「雷紋?」
「雷に撃たれてたら雷紋といって、体に線みたいな跡が残るんだよ」
――――雷?
エーデルの記憶のフィルムを探した。
だが、どれを見てもエーデルは雷に撃たれてなどいない。
思いつくのは前世の記憶――
僕が死亡理由――雷に撃たれて死んだこと。
でも実際に雷に撃たれたのはエーデルではなく大夢だ。
大夢が撃たれたのに、エーデルに雷紋が残るなんてあり得ない、意味がわからない。
何が起きているんだ?
「エーデル」
声をかけてきたのはヘルヴィンだった。
「大丈夫? 雷紋が付けられたことは後で調べよう。それより冷えちゃうから早く入浴しよう」
「あ、ごめんヘルヴィン待っててくれたんだな」
我に帰ると僕らはすっぽんぽんだった。僕らの像は丸出しだったのだ。
僕は耳を赤くして言う。
「早く行こう」
耳が赤くなった理由を察したのか、ヘルヴィンはいつものように優しく微笑んだ。




