28 先生
――授業が終わり、僕とヘルヴィンは教室を出た。
僕らは教室の扉に背中を付けて立っていた。
目の前にいるのは――タクロ・リーインカー先生。
さっきよりも先生が大きく見える。
「お前ら朝のあれはなんだ」
「…………」
ああ、やっぱり朝のことだ。
怒られる。最悪退学になるのか。そう思った僕は俯いた。
――慣れている。問題が起きれば僕はいつも怒られる側だった。
こういう時は下を向いて謝ることで時間の経過を待つんだ。
「すみませ――」
同時にヘルヴィンが口を開いた。
「あれは、エーデルがロニカという魔族を助けたんだ。武闘専攻の三人組にいじめられていたから」
「…………」
「ああ、それは聞いた」
「先生もわかるだろ? 魔族は差別を受けられやすい。それを見て見ぬふりをしろって言うのか?」
ヘルヴィン――先生というのは、見て見ぬふりをするものなんだよ。
前世で虐められていた時、先生は僕を助けることをせず、先生も『いじめ』に参加していた。
寧ろ学校内で権力を持つ加害者を誉めていた。
被害者の僕は先生に怒られていた。
何故怒られていたのかわからなかった。
牛乳をかけられて床を汚したからなのか――
殴られて窓に頭を強打して割ったからなのか――
机にマッキーペンで書かれた『死ね』や『キモイ』が消せなかったからなのか――
以前の僕は口を開けば責められていた。
それが怖かった。
「そうじゃない。エーデル」
「……はい」
「まずは……なんだ。怪我はないか」
「…………」
僕はゆっくりと顔を上げた。
先生は頭を掻きながら、目線を斜め上へ向けていた。
「ありがとうな。他の生徒を助けてくれて。よくやった」
そう言って、先生は僕の頭をくしゃくしゃに撫でた。
「……怒らないんですか?」
「何を怒ることがある。お前のやったことは正しいことだ。とはいえ先生方も賛否両論だが、俺はあいつらにはやり過ぎなくらいが丁度いいと思ってる」
「……はい」
思ってたものと違った。
退学どころか、寧ろ褒められた。
先生ってこういう人もいるんだな……
あまり褒めるのが得意ではなさそうだが、最初の印象はワイルドで少し怖いと思ったけど、本当は優しい人なのかもしれない。
「武闘や剣術、魔術はこの国では当たり前だ。とはいえ無闇に使っていいというわけではない。力を手にしたということはそれに責任が伴う。お前らが持つ力は簡単に人を殺せてしまう。忘れてはいけないことだ。わかったか? エーデル・アイビス」
「はい。わかりました」
「ならいい」
「じゃ、失礼しまーす」
ヘルヴィンがこの場を去ろうと僕の腕を引っ張った。
「待て! まだ話が終わってないだろう」
「まだあるの?」
先生は顔を顰めた。
「最後に一つ聞く。エーデル、あの神力はなんだ?」
「……神力ですか?」
「あの量の神力は異常だ。それに入学したばかりで何故そんなに神力を使いこなせる?」
神力のことを聞かれるとは思っていなかった。
確かに僕の神力は規格外とは言われたが……
まさかバドラが使っていた少ない神力が一般的普通なのか?
「僕の神力が多いとか聞いてました……入学前に神力が抑えきれないことがあって、師匠に教わりました」
「抑えきれないだと!? 誰にだ?」
「アレク・ブルータルです」
「アレク……」
先生は目を見開き驚いた表情を見せた。
「なるほどな――――お前、何者なんだ?」
一瞬先生が僕に向けた目は怪訝しているように見えた。
お待たせしました!!




