27 教室という壁
立ち疲れ、眠たくなるポピー・マイティーによる挨拶が終わった。
「長かったね〜校長の話。肩が凝ったよ」
「そうだね『朝から問題があった』って僕らのことだよね……ごめんね。二人まで巻き込んじゃって」
ホールを出て僕らは教室へと向う廊下を歩いていた。
「気にするな。ロニカのせいじゃない、僕がそうしたかったんだ」
ヘルヴィンは何も言わずに穏やかな表情のまま微笑んだ。
魔術を専門としているロニカはここでエーデルとヘルヴィンと別れ、魔法専門の教室へ向かう――
そして僕とヘルヴィンは剣術の専門だ。二人は同じ教室まで廊下を歩いていく。
――遂に教室の目前まできた。
また前世の嫌な記憶が蘇る――
前世で僕の机には『死ね』や『キモイ』が当たり前に書いてあった。
当時はもう慣れたことだと割り切れた。
この世界に来て沢山『楽しい』を知ってしまった僕は、以前のようないじめには耐えられないかもしれない。以前の僕なら贅沢な程に。
「エーデル? 大丈夫かい?」
「……あ、ごめん大丈夫」
目の前に立ちはだかる大きな壁。
教室という壁だ。
アカデミーの門とは違う。
教室の中は密室空間――
動悸がして、吐きそうだ。
「エーデル。一緒に入ろう」
隣にいるヘルヴィンはいつもと変わらず、穏やかで優しい目を僕に向けている。
…………あ、そうか、一人じゃないな。ヘルヴィンが一緒にいてくれている。
(覚悟を決めよう)
僕は教室の扉に手をかける。
扉の隙間から光が溢れ、その光は徐々に大きくなっていく――
扉を全開に開けた教室には20人程だろうか、生徒が一斉にエーデルを見た。
…………怖い。
僕はその視線に怯えながらも、1番後ろの席まで歩いていく。
――やたらと後ろの席までの距離が長く感じる。
もしかしたら手と足が同時に動いているかもしれない。
やっと席に着いた。
教室という壁は意外にも簡単に変えられるものだった。
それはヘルヴィンが隣にいるおかげもある。
だが、少しづつ僕自身も良い方向に変わって行っている気がする。
一つ確実に言えることは一人じゃないと言うのはこんなにも心強いものだと言うことだ。
それにしても何故そんなに見るんだ?
僕の顔に何かついているのか?
僕が目を合わせると目を逸らす、女子は頬を赤らめてこそこそと話している。
――何かしただろうか?
不穏な空気が漂う教室。
ブレザーが後ろ前とか? 社会の窓が開いているとか?
不自然に思われないようにブレザーと社会の窓を確認した。
……何もおかしいところはないはずなのに。
隣に座ったヘルヴィンに聞く。
「ねえ。僕何かしたかな?」
「フフッ、うーん。まあ目立っていたからね」
そういうことか。
やっと理解した。
朝の一連のことで騒ついているんだ。
僕の怖いとはまた違った。皆も僕を恐れているのか?
「でも悪い意味じゃないと思うけどね。流石に木の枝で武闘二人組をやっつけたのは目立つよね! まあ理由はそれだけじゃないと思うけど」
もう起きてしまったことは仕方がない。
僕もやり過ぎたと思ったが、ロニカを助けたことに後悔はない。これでバドラ達がどう出てくるか不安はあるが、その時はまた戦うことになるだろう。
周りの目が気になりながらも鞄からジニアの角出てきたペンダントを取り出し首に掛けた。
大事なものだから肌身離さず付けることにしよう。
これはジニアがエーデルに贈ったものだ。
僕は本物のエーデルではない。
でも今は僕がエーデルなんだ。周りは皆僕のことをエーデルだと思っている。騙すことは良くないことだと理解はしている。
でもまたこうして生身の体で生きている。本当のエーデルの人生とその責任を全うする。ジニアの気持ちも汲み取るように僕はエーデルと僕自身も守る為に生きているんだ。
学校中のチャイムが鳴った――
これは授業が始まるというチャイムだ。
相変わらずチラチラと視線が気になるが、今隣にヘルヴィンが居るし前世のようにいじめられても、今の僕には力がある。
相手を痛ぶることはしない、だけどやられっぱなしにはならない。正当防衛くらいは許されるはずだ。
教室の扉が開いた――
扉を開けて入ってきたのは、30歳くらいのおじさんだ。
おじさんは教壇に登り、黒板の目の前にある木製の教卓に手をかけ少し前のめりになった。
「お前らの担任になった――タクロ・リーインカーだ。
よろしく。最初に言っておくが、やる気がないやつは即退学にする。俺にはその責任と権利がある。
忘れるなよ、俺はいつでもお前らの首を切ることができる。わかったか、ヘルヴィン」
ヘルヴィン!?
横を見るとそこにあるはずの頭がない。
目線を少し下にやると、机の上に頭が乗っている。
顔はこちらに向いて涎を垂らし、目を瞑っている。
ヘルヴィンはいつの間にか寝ていたのだ。
「はぁー。エーデル・アイビス起こせ」
「はいっ!」
先生は深い溜息をついた。
僕はヘルヴィンの肩に手を乗せ揺らした。
「ヘルヴィン起きて! 首になっちゃうよ」
起きない。
僕は次の行動をとった――頬をビンタをした。
これは愛情の印だ。
「ヘルヴィン!」
ビンタでやっと目を開けた。
「あーごめん。先生なんか言ってた?」
「起こせって」
彼はしれっと起き、何事もなかったかのように前を向いた。
それにしてもワイルドな先生だ。
ロン毛を後ろで一本で束ねて、髭を海外のハリウッドスターのように整えている。上下黒の服のせいか見た目までワイルドだ。
「これから授業に入る。自己紹介なんかは後で各自終わらせろ」
「…………」
「それとここで生徒同士仲良くするのは構わないが、ほどほどにしておけ。ここは剣術を学ぶ場だ。それを忘れるな、以上。それとヘルヴィン、エーデル授業が終わったら廊下に出ろ」
僕とヘルヴィンは顔を見合わせた。
何かまずいことをしてしまったのか。
それとも朝の行動が問題になり怒られるのか――
皆様!
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二章に散らばっている伏線を読んでいただけましたでしょうか?
朱春伏線大好きなので、これからも驚くような伏線を拾っていきたいと思っております☺︎
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