26 光り輝く生徒達
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「あの……エーデルさん。大丈夫ですか?」
目の前にいるのは一本の角が折れた魔族だ。
魔族。そう呼ばれる彼の瞳はルビーのように赤く、皆が恐れ、忌み嫌う理由など消えてしまうほどに綺麗だった。
「ああ、大丈夫だよ。あれ? 僕名前名乗ったっけ?」
「いえ。皆さんがあなたのことをそう呼んでいたので。僕はロニカといいます、ご挨拶が遅れてごめんなさい」
「そうか。よろしくロニカ。エーデルでいいよ、敬語もいらない」
――何故今までこの記憶を見ることができなかったのか。 やっと開いたパンドラの箱。
それは二人だけの思い出だったからだ。
本当は見せる気はなかったのだろう。だが、心変わりした。そのきっけとなったのは『バドラ』だ。ここで予期せぬ再開と、エーデルの小さな復讐心だろうか。
バドラがジニアにしたことを、同じくロニカにしていたことへの怒りか。
それとも、もしバドラと再開したら復讐すると決めていたのか――いや、それない。
ジニアとの一件があった後もバドラと何度か顔を合わせる度に喧嘩をしていた。そしてわざと負けてあげていた。
エーデルは人を傷付けるより、自分が傷つく事を選ぶ人だ。
もしかしたらバドラの事も『救って欲しい』だったのだろうか――
だとしたら僕はおかどちがいだったかもしれない。
エーデル、君ならこの場面でどう解決しただろう?
――僕の行動は合っていたのか?
僕みたいに声を荒げず、怒りを抑えて解決できたのではないか。自分以外の誰も傷つけない道を選ぶだろうな。
そしてあの『まじない』はジニアの受け売りだった訳だ。
(どうりでよく効くと思ったよ)
あのペンダント……ただのアクセサリーだと思って机にしまったが、大事な思い出があったんだな。
一応鞄に持ってきてよかった。今日からまた付けよう。ジニアがエーデルの為にくれたものだからな。
すると何処からかヘルヴィンが登場した。
「いや〜お疲れ様エーデルくん、流石だよ。それにしてもびっくりしたよ〜、エーデルくんは彼を前にして急に頭を押さえて放心状態になるんだもん」
放心状態だと? 記憶を見ている間僕は放心状態になっていたのか?
「そうだったのか……ヘルヴィン、キミもエーデルでいいよ、堅苦しいのはやめよう」
僕がヘルヴィンに言うと、彼はニコッと笑った。
確かに彼には助けられた。ヘルヴィンから木の枝を貰わなければ、僕は戦闘体制にすら入れなかった。僕はジニアに殴られていたかもしれない。
――ヘルヴィンに感謝しなきゃだな。
でも正直ヘルヴィンを信用できない。僕を挑発させるような言葉を何度も掛けてきた。それに彼の言葉には違和感を感じる。『君はあれを見たことがあるだろ?』虐めを目前にしてたった二度会った僕に普通はそんなことを言わない。
親切には変わりないが彼の言葉にはどこか意味深を感じる。
彼の話を全て鵜呑みにするのは危ない気がする。でも悪い奴じゃないはずだ。
図書館でも本をくれたし、さっきも僕を助ける為に木の枝を渡してくれた。何より僕に話かけてくれた。
でもこうしてせっかく仲良く慣れたんだ。理由もあるだろうし……落ち着いたらゆっくり彼の話しを聞いてみよう。
「了解! ロニカくんは大丈夫?」
「はい。ロニカで大丈夫ですヘルヴィンさん」
「じゃあ、皆堅苦しいのはやめよう! 二人ともこれからよろしく! それにしても人間は本当に欲深い生き物だね〜少し前までは食べ物を探すことに精一杯だったくせに。本当に虫唾が走る。あ、でも君のことは好きだよエーデル」
一瞬ヘルヴィンから憎悪に満ちた表情を感じた。その表情は少しアレクと重なって見えた。何にせよこの一連はとても気分の良い光景ではなかったからヘルヴィンは不快に思ったのだろう。
「もう皆第一ホールに集まっているね。行こうかエーデル、ロニカ」
その後、僕らは全学年が集まる第一ホールへ向かった。
第一ホールは大きい窓幾つもありカーテンを閉めていた。 全学年約八百人が余裕で入れるほど大きいホールだ。映画館のように一人一人座る席があり、正面には演台がある。
その演台がライトアップされ、一人の髪の白い老人が中央に立った。
彼はアステリオスアカデミー現校長である――ポピー・マイティー。
そしてら僕らはポピー校長先生から入学歓迎の言葉を頂いた。
「光り輝く生徒達よ。ようこそ諸君。
未来に進むための一歩をこのアステリオスアカデミーに踏み入れてくれて感謝する。このアカデミーはルピナスで最も優秀な生徒達が集まる場所じゃ。国の為、家族の為、友人の為、自分の為に更なる強さを求め学ぶのじゃ。
そしてこのアステリオスアカデミーでは、この国の方針である平和主義と国民皆平等であるということを忘れてはいけない。何やら朝から問題が起きていたようじゃが、気をつけるように」
(ハッ……)
今僕は校長と目があった気がした……気のせいだろうか。
それにしてもさっきの一連が既に校長の耳に入っているというのは少し怖いな。考えすぎかもしれないが監視をされている気分だ。
「…………以上じゃ」
ポピー・マイティーによる挨拶は30分にも及んだ。
この世界でも校長の話というのは長く、立ち疲れ、眠たくなるものだった。
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