24 土の神力
じゃあ、試してみようか――
目を瞑り呼吸を整える――
木の枝を構えて三秒。
「来いよ、バドラ」
バドラはニヤっと笑うとこちらに向かって走り出した――
バドラの体には茶色のオーラが纏っている――神力だ。
(なるほど。バドラの神力は土か……)
バドラは土の神力を使うことで体をゴーレムのように硬くしている。そうすることによって素手の攻撃も強くなり、もし自分が攻撃をくらっても体が固くなっている為無傷だ。寧ろ相手が生身の攻撃なら逆に怪我を負わせることができる。武闘には打ってつけの神力だな。
バドラがエーデルとの距離を詰めた。
――どう攻撃をしてくるか……
腹から押し出すように右ストレートを打ち込んできた。
――遅い。アレクよりもずっと動きが遅く、読みやすい。
エーデルは体の重心を右に傾けてバドラの右ストレートを躱す――
良い神力だ。
だが、僕(風)との相性は悪い。
申し訳ないが、僕に分がある。
交わしたと同時に右足を深く前に出し、体の左側に下ろして神力を纏わせておいた木の枝で、バドラの腹に素早く二振り当てた――
正確には一振り目は風の神力を多く使い土を崩した。
二振り目で神力を弱め僕の鍛えた腕力でバドラの腹に木の枝を食い込ませた。
エーデルはアレクにあれこれ教えてもらい、以前よりも格段と神力を使いこなせるようになっていた。強くなると決意してから鍛錬を怠ることなく、日に日に強くなっている。
「クハッ」
バドラは力が抜けたように膝から崩れ落ちた。
僕は膝から崩れ落ちたバドラの腹を抱え左手で支えた。
すると魔族の角を折った張本人がエーデルに向かい走ってくる。
「このやろー!」
――お決まりのようだな。
コイツも武闘か……
バドラが崩れ、焦ったのか腕も構えず、無防備に右手の拳だけを上げて向かって来た。
これじゃあ『僕はこれから右手でパンチをします』と宣言しているようなもんだ。
――難なく躱し、首の後ろ(盆の窪)を右手で素早く二回叩いた――彼は「ヴッ」という声を発し床に倒れた。
神力を使うまでもなかった。
思ってた以上に弱かった。今までアレクを相手にしていたからバドラ達と戦うのは余裕だ。
同時にアレクはやっぱり凄い人なんだと実感した。
まだだ。もう一人残っている――
「どうする? その気ならまだ相手するぞ」
「……い、いや。もういい」
「起きろバドラ」
「ふぁ」
僕は左手で抱えていたバドラの胸ぐらを掴んだ。
「いいか、よく聞け。お前らのしていることは平等でも秩序を正しているわけでもない! 最悪な『虐め』だ」
僕の周りを見渡した――
「これを見ているお前らも全員加害者だ。学べよ! 気づけよ! 変われよ! もう子供じゃないんだから……『普通ってのは当たり前じゃない』明日はないかもしれない。なら、簡単だろ? 手を差し伸べるくらいできるだろう」
前世での十三歳はまだまだ子供だ。だがこの国では成人だ。お酒も飲める、犯罪を犯せば法に裁かれる。成人という立場の重みをもっと知るべきだ。
これは僕自身に向けた言葉でもある。以前までの僕にはできなかったことを今日克服した。立派に物事を言える立場ではないことは重々承知の上で、前世の僕が周りに求めていたこと、そしてエーデルがたった六歳で実行した勇気をわかって欲しかった。
虐めが起きていたこの場から、見て見ぬ振りをして立ち去る者もいれば、拍手をする者もいた。
僕の行動を鼻で嘲笑う者もいれば、ただ興味本位で見る野次馬もいた。
人の心とは簡単に動かせるものじゃない。
人は皆、自分がその立場になってみないと、相手の感情などわからないものだ。
目立つつもりはない。喝采もいらない。
自分の全てが正しいとは思わない。でも僕の一連の行動が少しは何かを変えることができたなら充分だ。
「お前ら三人のしたことは悪行じゃなく愚行だ。あの子に深く頭を下げろ」
床に落ちている黒い角を拾い、魔族の子の元へ歩寄った。
僕は屈んで彼と同じ目線になり角を渡した。
「痛かっただろう?」
いざその子を前にすると、こんな言葉しか出てこなかった。
――エーデルもジニアにこんな気持ちだったのかな。
「本当にありがとう。でもまた生えてくるから大丈夫」
「そうか……ゔぅ」
急にまた頭痛に襲われた。
頭の中のフィルムが動き出した。
またなのか…………?




