格の違い
彼の笑い声に戸惑う周辺のギルド職員と冒険者達。
彼の笑い声が止むと彼は俺を大きく睨み付けてきた。
「まさか、私を"異世界人"と見破れる者がいたとは‥‥‥」
彼のその発言に響めくドラグハーツ支部内。
そんな彼等の響めきようなど気にすることなく彼は言ってきた。
「そこにいるリアラの常時発動型能力【運命の兆し】も偽造しようとしたが、上手くいかなくてね。彼女の【運命の兆し】がどうしても邪魔でね。何度も彼女が冒険者登録する所や、彼女のチームメンバーの固有能力値を偽造することで、実力のない存在として世間を騙しながら暗殺しようと思ったのだよ」
ドルフェンは自分達のことがしてきたことを自慢げに言ってきた。
「今回もそうだ。彼女達が"竜道"に向かったと聴いて、そこにいる恐竜族を差し向けるように仲間にも伝えていたが‥‥‥まさか、彼女の能力で明らかになった"異世界人"の最大の邪魔者が来たと聴いてやってきたが、まさか血鑑水晶詳の偽造をすぐさま発見されるとは思わなかったよ」
そう告げるドルフェンはまるで正体がバレても問題ないと言わんばかりな態度を取っていた。
先程までの状況悪化に顔色を変えていた彼とはまるで別物だった。
それに加えておかしな部分がある。
「妙だな。リアラが受けた予言は["竜道"にてメタルティラノに襲われし私達を救う者現れる。彼の者は「泰平の時代」を救う者にして、和を乱す災厄を滅する者なり]だった。にも関わらずお前達"異世界人"はどうやってリアラ達と共にやってくる者が「救う者」だと把握したんだ?」
そう質問するも、彼の正体がバレる前後の豹変からして語ろうとはしないだろう。
だが、聞く必要がある。あの時俺とリアラ達の五人以外はいなかった。いたらアルスが反応していたはずだ。
しかも恐竜族を差し向けると言ったが、メタルティラノには彼女達の魔力しか痕跡がなかったから、差し向けられるとは思えない。
嘘をついているのか?
「確かに妙ですね。"竜道"に入る為、私は国王である父に入域する許可を貰いましたが、その際の理由に、救世主様の件は告げてません。どうして私に届いた予言を知り得たのですか?」
リアラも疑問に思ったらしくドルフェンに質問した。
そんなドルフェンはニヤリと笑みを浮かべて告げた。
「私が答えるとでも思っているのかね?」
そう言って彼の胸の中心に巨大な光が輝いており、その光の中心に文字が見えた。
その文字はF。
Fの文字が更に強く光り輝いた時だった。ドルフェンの姿が大量に現れたのだ。
「なに?」
「‥‥‥増えた」
リアラ達は突然と増えたドルフェンに驚愕していた。だが、すぐさま正気になったシノンがスタリバーンを振るう。
しかし、ドルフェンに聖剣が当たることはなく、蜃気楼のようにすり抜けた。
「幻影の類ですか?」
「いいえ。違うわ、クレア。獣人族は幻影に対して強い耐性を持っています。私自身でも見分けられないということは、幻影じゃありません!」
プラチナブロンドの女性ことクレアが幻影なのかと思っているとアイリスが否定した。
獣人に幻影が通じないとは驚きだ。
しかし、シノンやクレアは幻影ではない別の何かで増殖したドルフェンに次々に剣で斬りつけ、弓矢で射貫くが、どれもこれもが蜃気楼の様にすり抜けていくだけが続くだけだった。
幻影ではないのなら、一体何なのか?
それは【叡智の賢眼】で解析できた。
「ではこの現象はいったい‥‥」
「動力核魔法だろうな」
そう言うとドルフェンはニヤリと卑しい笑みを浮かべながら、俺の言葉を肯定した。
「その通りです。三種類の能力を身につけレベル100以上に到達した生物のみが、"世界に干渉する特別の力"‥‥<固有権能>へと覚醒して手にする個人のみが有する力の根源。それが────動力核だ。私の動力核の文字はF。<改竄者>。それが私の<固有権能>だよ」
まるで自分が上位の存在だと言わんばかりに告げるドルフェン。
そんな彼の固有能力値を【叡智の賢眼】で解析した。
名前:ドルフェン・グリンフォルド
性別/年齢/種族:男/70歳/魔族
職業:詐欺師・旧時代の子孫
レベル:105
体力:37,401,749
魔力:22,482,715
攻撃力:1,619,300
防御力:2,201,800
俊敏力:2,183,400
動力核:覚醒文字・F <改竄者>
レベル100を超えると能力数値が軽く7~8桁を超えるのか。
それにしても職業が詐欺師か‥‥‥‥
確かに彼の偽造行為の動機を考えると、確かに詐欺師という職業は的を得ているな。
<改竄者>。恐らく血鑑水晶詳を偽造したのも動力核魔法だろうな。
幻影ではないけど蜃気楼の様に実体がない分身も、己に関する動力魔法なのだろう。
「さて、私は消えさせて貰うよ」
そう言って逃げようとするドルフェンに対して俺は魔法陣を展開した。
そんな俺を見たドルフェンは高らかに笑いながら告げてきた。
「ハハハ!無駄だよ、救世主君。どれほど"異世界人"の邪魔者であろうとも、弱者に私の動力核魔法<権謀術数>を撃ち破る事など出来はしないよ」
そんなドルフェンの言葉など、俺は一切聞えていない。
この男の浅知恵とも言える行動を徹底的に崩すとしよう。
そう思いドルフェンに対して魔法を一つ発動した。
すると、大量に現れたドルフェンがたった一人‥‥‥つまり、本人以外の全てが光も音も無く消滅した。
「‥‥‥は?」
ドルフェンは何が起きたのか理解出来ずにいた。
それはリアラ達[希望]や[自由組合団体]に登録している現役冒険者達や職員達も驚きの余り沈黙に包まれていた。
ドルフェンが何が起きたのか理解出来ずに震えていた。
「な‥なにが‥‥起きたんだ‥‥‥」
困惑するドルフェンの疑問に答えるかのように、ある人物が姿を現した。
『知りたいか?』
そう告げる者に皆の視線が集まる。
彼を見たことのあるリアラ達[希望]のメンバーを除いた者達は、彼の姿を見て言葉を失っていた。
彼らの胸中はあの時のリアラ達と一緒なのだろう。
そして、目の前のドルフェンは困惑から一変。"異世界人"だとバレる前の青褪めた顔色よりも更に酷く、重病にあった様な顔色にまで青褪めていた。
「き‥‥貴様は‥‥まさか‥‥」
微かに出てきた彼の言葉はもはや驚愕のみであった。
『まさか、世界を転生させても未だに戦いを好む者がいたとはな。九人の努力を無駄にしないでほしいものだ』
只々呆れ返ったような声色で語るアルスにドルフェンは一歩一歩後退りしていく。
「な‥‥なぜだ‥‥何故だ!!?」
発狂とも捉えられる大声でアルスを否定した。この様子だとアルスの事を知っているんだろう。
ドルフェンは幽体状態のアルスに発狂に似た声で問いかけてくる。
その口調は先程の余裕綽々な態度とは明らかに一変していた。
「転生前の世界で貴様等は一万年もの間、現れることはなかった。消滅したか、力を失った状態で転生したのではなかったのか!?」
『転生したのは本当だが、力を失ったかはお前達が決める事ではない。況してや今の時代ではお前達"異世界人"が弱体化させているだけだろ』
「黙れ!"勇賢王"アルス・マキナ!!」
勝手に力を失っているだろうと言わんばかりに告げるドルフェンに、勝手な想像で物申す彼に呆れながら告げるアルス。
アルスの名が出た事でリアラ達以外の冒険者・職員達は騒然としていた。
「マジかよ‥‥」
「あれが人間族の大英雄!?」
「でも、どうして幽霊のようになってるんだ?」
伝説の英雄が現れたこと、地球で言うなら一般庶民の中に超一流アイドルが着飾ることなくその場にいた為、周囲から話題になるのと似た様な感じだな。
しかし、見た目が幽霊のような姿は奇妙な事だからな。そう思うのも当然である。
「‥‥クッ‥ククク‥そうか、そういうことか。貴様のその姿から察して肉体を失っているようだな」
まるで勝機を見いだしたと言わんばかりな発言をするドルフェン。
正体が見破られた時といい、アルスを見た時といい、表情の豹変の激しい奴だな。
「惨めだな。人間族の英雄様が今では肉体を失って現れるとは‥‥‥まぁ、世界を転生させる等という禁忌を犯したのだから当然か」
『禁忌?』
世界を転生させた事が禁忌なのか?
そう思いドルフェンが話すのを只聴いていた。
「あのまま闘い続けていれば魔族こそが生き残っていたのだ!にも関わらず、戦いから逃げた貴様等のせいで世界は転生し、祖先達はあの星々に封印されたのだ!全ては貴様らのせいでな!」
なんとも幼稚な動機だ。
所詮は自分達の種族が必ず勝ち続けている。
無駄に流れ落ちる友人や親族達の命に対してなんとも思わず、プライドの為に戦を続けようとしているとは愚かなことだ。
『それで?封印から解かれたから、今度は自分達が世界に波乱を起こそうと永らく準備をしてきたということか?』
「その通りだ。そして‥‥‥‥貴様が死ぬ事もな!」
そう言って彼の身体の中心から光るFの文字と彼の両手に展開された二つの魔法陣がアルスに向けられた。
「戦いから逃げ出す腰抜けに負ける通りなどない!」
そう言って二つの魔法陣と動力核が強く光りだした。
「超究極魔法‥‥‥‥」
ドルフェンが超究極魔法とやらを発動しようとした時だった。
二つの魔法陣と動力核が霧散した。
ドルフェンは突然の事に驚愕するが、霧散した光景が先の動力核魔法<権謀術数>が解除された時と似通っていた。
「なにっ!?」
「これは‥‥さっきの動力核魔法と同じ‥‥‥」
「いったいどうなって‥‥‥」
困惑するリアラ達。
だが、アルスだけは俺に視線を向けていた。
『流石だな雄宏君。動力核に干渉できるように能力が進化したようだな』
そう告げられた事に誰もが俺に視線を向けてきた。
何をしたのだと疑問を浮かべた目で此方を見てきた。
「馬鹿な。動力核を解除したというのか‥‥‥」
ドルフェンは信じられないような表情を浮かべている。
「‥‥‥いったいなにをした?」
「特別なことなどしてないさ。解析系の能力が動力核の効果を自動解析して、動力核に干渉できるように常時発動型能力が特殊固有型能力を進化させてくれたんでね。星無魔法<全権魔絶無>で無効化させてもらった」
そう言うとドルフェンやリアラ達は唖然としていたが、すぐさま仰天した。
「‥‥‥‥はぁあああああ!!??」
彼等の騒音が[自由組合団体]を大きく震わせて天井裏に堪っていたであろう埃が落ちてくるほどだった。
「馬鹿な!解析しただけで動力核に干渉できる能力に進化しただと!?ありえない!」
ドルフェンは化物でも見るような目で此方を見ている。見てきているが同時に彼はコッソリと魔法の準備をしているが幾度となく霧散しているのは【叡智の賢眼】が見逃さなかった。
俺が発動した<全権魔絶無>は魔法を無効する星無魔法。
<全権魔絶無>はこの[自由組合団体]内を対象にして発動している為、幾らこの場所で魔法を行使しようとしても無駄だ。
「無駄だ」
そう言って既に取りだしていた「勇者の剣」でドルフェンのアキレス腱を切断した。
アキレス腱を切断されたことで地に這い蹲るドルフェン。
「そんな‥‥‥私が見えなかった‥‥‥覚醒すらしていない雑魚に?」
「その雑魚に凌駕されているのがアンタだろ」
『雄宏君の固有能力値を教えようか?』
アルスがそう言って俺の固有能力値を表示した。
名前:崇常雄宏
性別/年齢/種族:男/22歳/人間族
職業:勇者・賢者・異世界人・よ◯◯◯
レベル:157
体力:4945500
魔力:11775000
攻撃力:2753780
防御力:343830
俊敏力:709640
動力核:未覚醒
能力:
常駐発動型────【規格外設定】・【完全記憶】
特殊固有型────【超越自動戦闘能力】・【叡智の賢眼・超越】
特別習得型────【魔導の覇者】・【武勇の覇者】
俺の固有能力値を見た[自由組合団体]職員達が騒ぎ出した。
「レベル157!?」
「嘘だろ!アイツ。まだ冒険者登録すらしてないんだろ?」
「それなのに既にレベル100を超えてるだなんて‥‥‥」
「それだけじゃないわ。職業が”勇者”と”賢者”って、アルス様と同じ職業よ」
「”勇者”は人間族の中で最高位の戦士系職業で、”賢者”は同じく最高位の魔法系職業だぞ!」
「それに"異世界人"って職業はなんだ?」
レベルの高さと人間族の最高位の職業と聞き覚えのない職業を持っている事に騒然とする[自由組合団体]の職員達。
しかし、固有能力値表示を見たドルフェンはレベルに目を付けていた。
「馬鹿な!覚醒者を未覚醒者が相手した場合、最低でも2倍以上のレベルが必要になるんだぞ!にも関わらずレベル157!?私のレベル105の約1.5倍しかないじゃないか!?私を圧倒できる理由になるか!?」
『雄宏君が言っていただろ。特殊固有能力が進化したと‥‥‥それが【超越自動戦闘能力】だ』
【超越自動戦闘能力】
その権能は以前の「自動防御・自動攻撃・魔法自動習得・能力自動選抜・能力自動発動」の五つに加えて「動力核自動干渉・動力核魔法自動取得・固有能力値数値無効化・最適化」が増えていた。
しかもレベル100を超えて、尚且つ動力核の効果を【叡智の賢眼】で解析したことで【超自由戦闘能力】が【規格外設定】の影響で更に上位互換へと進化した事で【超越自動戦闘能力】になり、動力核への干渉を可能となったのだ。
しかも「固有能力値数値無効化」は固有能力値に表記されるレベル・体力・魔力・攻撃力・防御力・俊敏力の数値を無効化する。
覚醒者────<固有権能>へと覚醒した者の名称────未覚醒者────<固有権能>に覚醒できていない者の名称────との間にはレベル二倍以上の差が必要だ。
例えば、レベル100の覚醒者を相手にレベル200以上の未覚醒者でなければ勝つ見込みがないという事だ。
しかし、【超越自動戦闘能力】の「固有能力値数値無効化」によってレベル100の覚醒者を相手にレベル200以上の未覚醒者でなければ勝つ見込みがないという理が無効化される。
加えて説明すると、ドルフェンの動力核魔法<権謀術数>を無効化する為に使用した星無魔法<全権魔絶無>の効果は魔法を無効化することはできるが、無効化できるのは属性魔法のみ。
しかし、「動力核自動干渉」によって動力核の<固有権能>に干渉して、属性魔法と動力核魔法を無効化できるように「最適化」した<全権魔絶無>が<権謀術数>を無効化したのだ。
その事をドルフェンに教えると、彼はこれでもかというぐらいに口をあんぐりと開けていた。
『雄宏君の固有能力値は覚醒者を簡単に上回ることができるということだ』
驚愕に染まるドルフェンにアルスは告げる。
『理解したか?君とは格が違うということだ』
崇常雄宏の能力解説
特別習得能力【武勇の覇者】
権能:攻撃力強化・俊敏力強化・防御力強化・疲労激減・全武器適性