四人の王女様
アルスの魔法が使うと何処かの森林に移動していた。
「さっきの魔法は?」
『時空魔法<空間転移動>だ。空間と空間を繋げて一瞬で移動する魔法だ。時空魔法は扱いが難しいのだが、慣れれば強力な属性の魔法だ』
テレポート‥‥‥‥つまり、転移か。異世界に召喚されるだけでなく、転移もなると本当に異世界なんだな。服装が替わったり、目の前の幽霊のような姿のアルスも、義妹が生きていることも夢と思えるような出来事から、只の夢現だと思っていた所もあったけど、やはり現実なんだな。
「そういえば、此処は何処なんだ?」
周りを見ても何処かの森林としかわからない。
場所が不明なことに悩んでいる俺にアルスが言ってきた。
『場所がわからない場合は地図を提示する魔法を行使すればいい』
アルスの助言を参考にはしたいけど、そんな魔法など知っているはずもないので文句を言おうとしたが、何故か頭の中に魔法陣が思い浮かんできた。
俺はアルスに用意して貰った「賢者の杖」を使って魔法陣を描いた。
「<世界図>」
魔法陣が形を変えて長方形の光学モニターがでてきた。
光学モニターに描かれていたのは世界地図だった。地図には四つの大陸とその大陸に軽く10の諸島が見受けられる。
四つの大陸はまるで四霊を思わせる形をした陸地だった。
左側に顔を向けたような東洋竜の島形をしていて、地球でいうアフリカ大陸と同規模の面積を持つ東方にある大陸───────"竜鱗大陸"
翼を大きく拡げたような火の鳥を思わせる島形をしていて、地球でいうアジア大陸と同規模の面積を持つ南方にある大陸───────"鳳羽大陸"
”竜鱗大陸”に向き合う翼を生やした大虎を思わせる島形をしていて、"竜鱗大陸"と同規模の面積を持つ西方にある大陸───────"虎毛大陸"
大亀と蛇が一つになったような島形をしていて、”鳳羽大陸”と向き合う”鳳羽大陸”と同規模の面積を持つ北方にある大陸───────"亀介大陸"
その中で、俺が転移したのは”竜鱗大陸”で、大陸の中心部にまで伸びる様に一本道となった森林の中のようだ。
まるで竜の食道を思わせる災害地帯であることから”竜道”とも謂われていると<世界図>に記載されていた。
<世界図>には地図内の詳細を事細かく知る事ができるようだ。その効果を使って”竜道”の詳細を調べてみると、どうやら一日ごとに森林内の地形や天候、魔物の種類なども変化するという奇妙な災害地帯だった。
それを調べ終わると、なにやら後ろからドスン!と音が聞こえた。
後ろを振り向くと、100mは優に超えている鋼鉄でできたTレックスがいた。
「ギャァァアアアォォォォオオオオオ」
Tレックスからの遠吠えが鳴り響く。
近い距離にいた為、Tレックスの遠吠えは鼓膜が破れそうな程の声量だった。
あまりに五月蠅すぎて耳に両手を当てるが、それでも五月蠅い!
『ほう。メタルティラノか』
目の前のTレックスの声量に微動だにしていないアルスはTレックスの名を告げた。
メタルティラノ‥‥‥「鋼鉄のティラノザウルス」ということか。見た目通りの名前だなぁと呑気に思ってしまったのは割愛しておこう。
そんなメタルティラノは獰猛な縦線の瞳をギョロッとこっちに向けてきた。
あの目は先ず間違いなく捕食者の眼だなと思った矢先にメタルティラノが黒色に輝く牙で噛み付きにきた。
やべっ!?と思い後ろに飛び退けようとしたら、なぜかメタルティラノから500mも飛び退けていた。
何が起きたのかわからず困惑している俺の目の前に何故か光学モニターが勝手に開いた。
[【超自由戦闘能力】により、自動防御を発動しました]
自動防御?500mも飛び退けていたのは、それが関係してるのか?
そう思っていると、メタルティラノが尻尾を振り付けてきた。
その攻撃さえも自動防御が働いたのか、軽やかに回避した。メタルティラノは捕食者としてしつこく噛み付き・尻尾の薙ぎ払いなどで攻撃が続くが、その全てが自動防御で簡単に避け続けていく。
でも、逃げの一辺倒ではどうにもならない事に歯痒い感覚に襲われていた。
そんな俺に光学モニターがまたも開かれた。
[【超自由戦闘能力】により、魔法自動習得を発動します]
そう出た瞬間に、無数の魔法術式の情報が激流のごとく脳裏に流れ込んできた。
そして、光学モニターが更に報告してきた。
[魔法自動習得が完了しました。メタルティラノに最適な属性を公開します]
「最適な魔法一覧」という別の光学モニターが展開された。
[火炎魔法・水氷魔法・土木魔法・武装魔法・時空魔法]
五つの属性魔法が紹介された。
俺は気にも留めずに、体が勝手に光学モニター内に映る魔法一覧に指をさしていた。
俺が最初に触れたのは土木魔法だった。
土木魔法に触れると、頭に流れ込んできた魔法術式の中で土木魔法に関する魔法が全て一覧内に出てきた。
メタルティラノを見失わないようしっかりと視界に収め、メタルティラノの攻撃を避け続けながら、俺は無意識に光学モニターを指でスクロールしていた。
その動きはまるで、どこにどのような魔法があるのか既に知っているといわんばかりに‥‥‥‥
そんな俺の考えなど知るはずもなく、スクロールのために動いていた指が止まった。
どうやら現状に必要な魔法の項目が見つかったのだろう。
チラッと光学モニターに視線を向けたら、そこには<鉄鋼束縛陣>とあった。
なんでメタルティラノに鉄鋼?と思いながらも、その魔法を口にしていた。
「<鉄鋼束縛陣>!」
右手に魔法陣が描かれると、メタルティラノが急に苦しみだして、動きを止めた。
ギチギチとメタルティラノの鋼鉄部分が内側に締め続けているように見える。
『<鉄鋼束縛陣>か。メタルティラノ相手にはうってつけだな』
「どういう魔法なんだ?」
メタルティラノの苦しみ方から<鉄鋼束縛陣>の効果を知っているだろうアルスに訪ねた。
『<鉄鋼束縛陣>は条件によって相手を縛る方法が異なる魔法だ。本来は鉄鋼でできた鎖型の縄を巻き付けてから、相手を地面に縫い付ける。
だが、メタルティラノのような鉄や鉱石などでできた魔物に対しては、その鉄などで肉体を内側に向けて圧力を掛け続ける』
効果を聴いて成程と納得してメタルティラノに視線を向けた。
全身が鋼鉄でできているメタルティラノは、箱の形をした段ボールを無理やり潰したような状態になっていた。
「この魔法って、縛り付けるのが目的じゃないよな?」
『メタルティラノのような鉄鋼の魔物には攻撃性の高い魔法になるな』
メタルティラノの今の状態を見て、哀れに思ってしまった。
そんなメタルティラノは<鉄鋼束縛陣>に圧し潰されたせいで、100mを超えた巨体は見る影も失っていた。
ピクピクと痙攣していたメタルティラノが息を引き取ったのか、目に宿っていた生気が無くなると、その姿が粒子状に消えては、すぐさま違う形になった。
大きな鋼鉄の原石とティラノの頭蓋骨だった。
出現方法がまるでゲームだなと思ってしまったのはいうまでもない。
『ゲームのように出てきたなと思ったな?』
‥‥‥‥心を読まれてしまった。
『ミリアが魔物を最初に討伐した時も、君と同じことが起きた。どうやら”異世界人”が魔物を討伐すると自動的に報酬が出てくるのだろう。私や妻が魔物を討伐しても同じようなことが起きる事はなかったからな』
”異世界人”はレベルの向上率と能力の取得率が上昇するだけじゃないようだ。
まぁ、地球でも猪や熊を討伐して解体する職の方はいるけど、大学生の俺がそんな経験をしてるはずもない。
よくて学校の理科でイカや蛙を解剖をしたぐらいだからなぁ。
そう思いながら、メタルティラノ討伐成功による報酬に近づくが、頭蓋骨だけでも持ち歩くのに面倒な大きさであり、鋼鉄の原石に関しては頭蓋骨よりも大きい。どうしようと悩んでいると、アルスが話しかけてきた。
『そういえば雄宏君。<鉄鋼束縛陣>を使う前、なにやら指先を動かしていたが、何をしていたんだ?』
「え?あぁ‥‥‥‥確か、俺の【超自由戦闘能力】が勝手に魔法を習得するってモニターに出てきてさ。頭の中にいろんな魔法の術式が流れ込んできたんだけど、その時はメタルティラノに通用しそうな魔法がどれかわからなかったんだけど‥‥‥‥モニターにメタルティラノに最適な属性を公開するとか、最適な魔法一覧とか出てきて、その中に土木魔法があったんだ。
土木魔法の項目を選んだら、頭の中に流れ込んできた土木魔法の術式だけが紹介されてて、指が勝手に<鉄鋼束縛陣>の魔法を探してたんだ」
そう説明すると、何やらアルスの目が険しくなった。
「どうしたんだ」と聴いてみるも『なんでもない』と言われてはぐらかされた。
一体どうしたんだ?
アルスの不自然な態度に疑問に思ったけど、すぐさま目の前の原石をどうするか考えなおした。
「ゲームみたいにアイテムボックスなんてないのかな?」
そうボソッと呟いたら、原石と頭蓋骨が一瞬で消えた。
その光景に目を疑った。
「‥‥‥‥え?えぇぇぇ!?」
俺はキョロキョロと目の前にあった原石と頭蓋骨を探すも見当たらない。何処に消えたのかと思案していると、さっき呟いてしまった言葉を思い出してしまった。
「‥‥‥‥まさか」
『君が<無限収納>と呟いたからだろうな』
もしかしてと思っていたことを、アルスが肯定するように言ってきた。
どうやらアイテムボックスと呟いたせいで、アイテムボックスに原石と頭蓋骨が収納されたんだろうけど、どうやって確認すればいいんだ?
そう思っていたら、またも光学モニターが勝手に現れた。
そのモニターにはこう書かれていた。
[【規格外設定】と【超自由戦闘能力】によって、常時発動型能力【能力創成】を獲得。
【能力創成】によって常時発動型能力【完全記憶】。特殊固有型能力【叡智の賢眼】。特別習得型能力【魔導の覇者】と【武勇の覇者】を作成完了]
どういうことだと思っていると俺の脳裏に<無間収納>内に収納された先程の原石や頭蓋骨などのアイテムを確認する方法が流れてきた。
でも、どうしていきなり方法が分かったんだろう。新たに手にした能力に関係してるのかもしれないけど、詳細を把握してなかったな。
そう思っていると、メタルティラノの遠吠えが新たに聞こえてきた。
バキバキと木々が倒れる音も聞こえてきたので、視線を向けると四人に人達がメタルティラノ相手に襲われていた。
「砂埃とか魔法が飛び交っているのに、良く見える。どうしてだ?」
砂埃や魔法が飛び交っていて人達の人影も真面に見えない状態でありながら、ハッキリとした人数が見えていた。
『【叡智の賢眼】の影響だな。今の君なら魔物や他人の固有能力値を把握できるだろうから、見てみるといい』
そう言われてこっちに来ている人達を【叡智の賢眼】で見つめた。
【規格外設定】と【超自由戦闘能力】で変動していく俺の固有能力値の情報を、【完全記憶】が自動的に一秒たりとて逃すことなく記録という記憶をしている。
お陰で所有中の能力の効果を把握する事が出来ている。
特殊固有型能力【叡智の賢眼】には「千里眼・万物鑑定・深淵解析」という三つで出来ている。
【叡智の賢眼】の「千里眼」でもう一体のメタルティラノと四人の人影を見つめると望遠鏡のように遠くを見る事が出きて、ハッキリと姿が把握できていた。
そして、メタルティラノと四人の人影の左斜め上に各々の固有能力値がゲームキャラクターの設定画面を見ているかのように顕現していた。
名前:メタルティラノ
性別/年齢/種族:性別無し/180/恐竜族
レベル:50
体力:4000
魔力:1000
攻撃力:53400
防御力:32200
俊敏力:31500
メタルティラノのレベルは50もあるのか、100単位のゲームならば中位の実力だな。しかも攻撃力がとても高い。鰐と同じく噛みつく事に関して強力な筋肉量を持っているのかもしれない。
今の俺の固有能力値でメタルティラノを攻略できるのだろうか?そう思い、自分の固有能力値を開表した。
すると、表示した自分の固有能力値を見て、最初に見た時と同じように絶句してしまった。
名前:崇常雄宏
性別/年齢/種族:男/22歳/人間族
職業:勇者・賢者・異世界人・◯◯◯◯
レベル:60
体力:1890000
魔力:4500000
攻撃力:1052400
防御力:739560
俊敏力:879360
動力核:未覚醒
能力:
常駐発動型────【規格外設定】・【完全記憶】
特殊固有型────【超自由戦闘能力】・【叡智の賢眼】
特別習得型────【魔導の覇者】・【武勇の覇者】
メタルティラノを一体討伐しただけでレベルが50も上昇している。体力や魔力の数値も6倍になっている。
恐らく<鉄鋼束縛陣>で討伐したメタルティラノのレベルも四人の人影と相対しているメタルティラノも同じレベルだったのだろう。そのレベル値が俺に加算された影響なのかもしれない。
「メタルティラノとレベルが10も上なら倒せるな」
そう思った俺はメタルティラノに<鉄鋼束縛陣>以外の魔法で倒そうと思った。
しかし、アルスが止めに入った。
『待て雄宏君。"勇者"の力を確認するべきだから、今度は近接戦闘を行うんだ』
確かに、さっきのメタルティラノの討伐は賢者の職業が活かされていたけど、勇者の職業はいまだ未経験だったなと思い直し、アルスの提案を受け入れて、「勇者の剣」を<無限収納>から取り出してメタルティラノへと向かっていった。
高速から音速へと加速していき、四人の人影を通り過ぎた。
「キャッ!」
「な、なんだ!?」
「え?え?」
「‥‥‥ッ」
四人の人影達は通り過ぎた俺の存在に困惑していた。
そんな反応など気にすることも無く、俺はメタルティラノとの距離は既に10mを切っていた。
メタルティラノは素早い動きで尻尾を振り下ろしてきた。
【超自動戦闘能力】の自動防御が発動しているらしく、自動的に回避行動してくれた。
振り下ろされた尻尾の上に飛び乗り、音速で駆け上る。同時に【超自動戦闘能力】の自動攻撃が発動しているのか「勇者の剣」を持つ手が勝手に秒速で10回以上斬り続けた。
斬られた所から血が溢れだした。
メタルティラノは出血するほどの痛みを受けて苦痛の叫びをあげる。
尻尾から首元へと辿り付いた俺は両手で持った「勇者の剣」を振うとズブズブと刀身が入っていき、すんなりとメタルティラノの鉄の首を斬り落とした。
ドスンと首と胴体が地に落ちた。
落ちた首と胴体が粒子状に消滅しては一点に収束していき、メタルティラノの爪や原石が出てきた。
「‥‥‥ふぅ」
約3分ほどの攻防を制し、恐竜の首を斬り落とすという成果を出したのだが‥‥‥‥はっきり言ってゲームの様に倒せたから良かったけど、能力や魔法などない地球で恐竜相手に剣で斬り落とすなんて絶対に無理だ。
そう思っているとアルスが話しかけてきた。
『「勇者の剣」は折れることなく振るえる事が出来たようだな』
「そうだな。魔法の杖の時と違って壊れることはなかったな」
そう話していると、後ろから話しかけてこられた。
「あの‥‥」
「ん?」
声のする方へと視線を向けると、そこにはメタルティラノと交戦していた四人の人影達だった。
四人とも女性で誰もが容姿端麗な見目をしている。
話してきたのは聖女のローブを羽織り十字と光輪が合わさった様な神聖な力を感じさせる杖を持つ赤髪ロングヘアーの美女が頭を下げた。
「先程は助けて頂きありがとうございます」
「いや、気にしなくていいよ」
そう言いながら<無間収納>にメタルティラノのアイテムを収納した。
アイテムが収納された光景に驚愕の表情を浮かべる四人。
「私はリアラ・ドラグハーツといいます。"竜鱗大陸"の国家、ドラグハーツ国の第二王女です。貴方様の名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
リアラ・ドラグハーツという美女が名乗っては俺の名前を聴いてきた。
外国人のように名・性の並びで自己紹介している事から、
「俺はヨシヒロ・タカツネ。君達はなぜ、"竜道"に来ていたんだ?」
俺がそう訪ねるとリアラが決死の覚悟を持ったような顔つきをしていた。
「私達はヨシヒロ様。貴方様を探しておりました」
リアラの発言に疑問に思った。
「俺を?」
「はい。私達四人は別々の国の王女であり、同時に[希望]というチームで冒険者をしています。そして、私の常時発動能力【運命の兆し】が"竜道"に行くように天啓を受けました。その天啓には続きがございます」
リアラは俺をジッと見つめてはこう告げた。
「["竜道"にてメタルティラノに襲われし私達を救う者現れる。彼の者は「泰平の時代」を救う者にして、和を乱す災厄を滅する者なり]と‥‥‥」
「泰平の時代」?
それは現代の事をいっているのか?それに"竜道"で彼女達を助ける者がいて、その人が崩れる日常を護るということなのだろうか?
『‥‥‥』
アルスは何やら深く長考していた。恐らく話しかけても転移する前と同じく反応しないだろうな。
「つまり、どういうことだ?」
そう彼女に質問した。
俺の質問に彼女達は片膝を着き、片手を胸の部分に当てて頭を下げた。
「どうか。私達のチーム[希望]への入団して頂き、災厄を守る為にお力をお貸し願いませんでしょうか?救世主様」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥へ?」
俺は突然の事に唖然としてしまった。
崇常雄宏の能力解説
常時発動型能力【規格外設定】
能力効果:固有能力値内のレベルと下記の項目数値を平均能力値数から逸脱した数値向上・特定の能力の獲得率大向上・レベル向上率変動も含まれている。