プロローグ~世界転生~
動力核。
それは知性を持った生物のみが手にする力の根源であり、<固有権能>と呼ばれる"世界に干渉する特別な力"に覚醒することができる。
その中で「八始原」と名称される八つの<固有権能>を有した一体の形無き生命体が世界を創世し、八つの種族が創生された。
後頭部に光の輪を持ち神秘的な服装を着用した光属性の魔力にて理を司る存在であり、神界に在住する種族──────神族
吸血鬼や不死者や悪魔といった闇属性の魔力にて概念に干渉する存在であり、魔界に在住する種族──────魔族
樹木の妖精や四種族の精霊やピクシーなどを含めた自然界の力を秘めた種族──────妖精霊族
大地や鉱石や砂といった土系統の属性を操作でき、山を引き抜くほどの膂力と3mを超える巨大な身長を持つ種族──────巨人族
海や湖を清潔な水場へと変える力を秘めた魚人や人魚の種族──────水尾族
天空にある雲に住まい、天候を管理する力を秘めた鳩や烏や鷲などの鳥系の翼を背中に生やした種族──────天翼族
人の姿を持ちながら動物の尻尾と耳を持つ獣で、魔獣や聖獣と繋がりを持つ種族──────獣人族
八種族内で幅広い潜在能力を持ち、あらゆる種族と種の繁栄ができるが他の種族よりも寿命が約一〇〇年の種族──────人間族
その中には混血によって更なる種族が誕生していくほどだった。
しかし、繁栄よりも消耗が激しいかった。
人間と人間ならざる種族が争い始めたのだ。
どれほど種の繁栄を試みる者達がいようと、それを上回るように手を血に染める日常が繰り広げられていた。
"始まりの八族"と言われている八種族の代表がとある魔法空間の中で一つの円卓に集まって話し合っていた。
最初に言葉を発したのは額に悪魔的な四本の角を生やし、両肩に骸骨の頭部を装甲のように取り付けた魔王感溢れるマントを羽織った褐色肌に縦長の瞳孔を持つ男──────大魔王デミウルゴスだった。
「最早、一刻の猶予もない」
大魔王デミウルゴスの発言が気に食わなかったのか怒張で異論を告げるのは、背中に六対の白い翼を持った狐目で肩に乗せられるほどの橙色のロングヘアーを持つ聖騎士風の鎧を着用した美少年──────大天鳥ミカトゥルだった。
「戦が勃発したのは魔族のせいだろう!大魔王デミウルゴス!!」
怨嗟と憎悪に塗れた発言をする大天鳥ミカトゥルにそう告げたのは緋色のボブカットの髪を持ち、頭部に小さな十個の王冠を浮かばせている美女──────焉獣王アポクリス。
「勃発の原因が魔族にあろうと、矛を突き付けたのは全種族が行なった罪ですよ。大天鳥ミカトゥル」
アポクリスに同意する様に頷いたのは身長10mを優に超えた筋骨隆々な肉体に、六本の腕と三つの頭を持つ阿修羅のような姿をした巨人──────巨皇帝ティタギガン。
苦悩した表情で会話を傾聴しているのはAラインの水着を着用した絶世の美を持った人魚──────深海妃クラミツノ
「どうかした?クラミツノ」
そう訪ねたのは神々しい光を放ちながら、七色のアニメーションのように煌めく光輪を持つ10代ぐらいの容姿をした女神──────最高神アプロディア
最高神アプロディアに訪ねられたことで海妃魚クラミツノに視線が集中した。
「‥‥‥やっぱ、以前の会議に出た方法をする必要があるかもしれないと思ったんや」
海妃魚クラミツノの発言を聴いて他の七人の表情が一瞬で暗くなる。
「クラミツノ殿よ。それは以前の会議で賛否を決めたではないか?」
「巨皇帝さん。前回の会議から五〇〇年経っても、種は消耗し続けている状態や。それでも未だするべきやない言うんですか?」
そう告げられると他の者達は沈黙に包まれた。
「クラミツノの言っている通りだ」
沈黙を破りクラミツノの発言に同意したのは勇者のような鎧に賢者を思わせるマントを合わせたような装備を持ち、太陽系惑星を思わせるような杖頭を持つ綺麗な鞘に収まった直剣を机に置いていた人間──────勇賢王アルスだった。
「勇賢王アルス。件を実行するには"全生命を対象にする"必要があるという問題がある。その状態で転生が上手く成功できるのか?」
「その為に我々の全てが必要であり、彼女の<固有権能>が重要な条件だ」
そう言って振り返った勇賢王アルスの視線は背後へと向けられた。
そこにいたのはまるで巫女を思わせるような聖装を身に纏う麗しいプラチナブロンドのストレートヘアーの少女がいた。
「最高神アプロディアが選ばれた聖女だな」
「彼女の<固有権能>は確か‥‥」
「想像通りだ」
アプロディアに選ばれた聖女。
そのような人物が、代表者が集うこの円卓に呼ばれた意味を理解した代表者達に勇賢王アルスは肯定した。
自分達の想像した通りである。と‥‥‥
故に告げた。
「彼女の<固有権能>による超究極魔法と、我ら八人の魔力で世界を転生させる!」
ドンッ!と告げられた言葉に誰もが言葉を失い、沈黙が場を支配した。
その沈黙が一瞬なのか、それとも一時間なのか、わからなくなるほどの静寂を、焉獣王アポクリスが断ち切った。
「‥‥勇賢王アルス。貴方の考えは理解できました。しかし、転生した世界でもやはり争いが引き起こされては転生した意味が無くなるのではないのですか?」
「問題ない。彼女の<固有権能>が霊魂に影響を与えているため、現状の八割は戦争低下するだろう」
「八割か‥‥‥確かに数字的にはいいだろうが、時間が元に戻す可能性もあるんじゃないか?」
そう訪ねる大天鳥ミカトゥルに勇賢王アルスが答えた。
「その問題に関しても問題ない。そうだろ?最高神アプロディア」
「この者を見て」
最高神アプロディアが円卓の中央に映像をモニターのように映していた。
映された映像は人物の顔と能力値が書かれていたのた。
その能力値の中には職業欄が書かれており、「勇者・賢者・異世界人・◯◯◯◯」という三つの職業と黒塗りされて読めない未知数な職業を持ち合わせていた。
その職業欄を見たデミウルゴスとティタギガンが言った。
「"異世界人"だと?」
「確か、そこの聖女も有している職業の一つではなかったか?」
「そう。"異世界人"はこの世界で生まれた生命よりも潜在能力が高い。それに‥‥」
アプロディアはアルスへと視線を向けた。
その視線を向けられたアルスは頷いた。
「俺が幽体状態でその者に憑依する」
そう告げられるとアプロディアと聖女以外の者達が驚愕した。
「憑依?転生ではなくか?」
「いいや憑依だ。彼の者を召喚するというのだ。転生して魂を奪い取るわけにはいかない‥‥」
「その者にそれだけ考慮する理由はそれだけなのか?」
憑依する事に彼等はよく思っていなかった。
しかし、勇賢王アルスと最高神アプロディアはそうではなかった。
「抑止力として彼の力が必要だが、右も左もわからない異世界人に対して転生した世界を生きろというわけにはいかない」
「アルス以外の私達も転生するから、彼の者に教育する者がいない。世界の転生前後を知っている者が、彼の者に教育していくべき」
「それなら転生後に教育することもできるんとちゃいますか?」
「上位の実力者は転生しても記憶がある。彼の者が<固有権能>に覚醒ても、経験値が足りず滅ぼされる」
勇賢王アルスと最高神アプロディアの説明に理解できたのか。
皆の表情から怪訝の二文字がなくなっていた。
「確かに、転生後の世界は今の時代を生きる者達とは比べものにならぬほどに経験値が足りぬな」
「それを防ぐために同じ賢者である勇賢王アルスが憑依するわけか」
「得心しました。私は同意します」
「我も同意」
「右に同じく」
次々に同意する者が増えていき、最後に大天鳥ミカトゥルだけだった。
「‥‥‥‥‥‥」
「どうされるのですか?大天鳥殿」
深海妃クラミツノからの問いにミカトゥルは長考する中、閉ざされた狐目の瞳が薄く開かれた。
「わかった。私も同意します」
ミカトゥルからの同意を得られたことで、勇賢王アルスは頷いた。
「それでは、転生の準備を頼む」
勇賢王アルスの頼みに巨皇帝ティタギガンが尋ねた。
「今からするのか?」
「あぁ。善は急げというからな。頼むぞ皆」
そうお願いしたアルスの思いが伝わったのか、誰もが頷いた。
勇賢王アルスと聖女以外は共通の転生魔法の魔法陣を胸部に描き、勇賢王アルスは同じ霊魂属性の魔法ではあるが七人の転生魔法とは別種の魔法陣を胸部に描き、聖女は両手を開いた。
「アプロディア様。私の進言を聞きいれて下さりありがとうございます」
「気にしない。最後に彼を推薦した理由はなに?」
最高神アプロディアに問われた聖女は彼女の耳にボソボソと呟いていた。
それを聴いた最高神アプロディアは微笑ましい表情を浮かべて聖女に言った。
「出会えるといいね」
まるで昔から好意を持っている人物との再会の機会が訪れることを願う少女に対して応援する最高神アプロディア。
そんな最高神アプロディアに感謝の意を込めてお辞儀した聖女は旨の中心にRの文字がある力溢れる球体が顕現した。
「あれが聖女の動力核<輪廻>か」
「成る程。確かにこれならば世界を転生させる事も出来るだろう」
聖女の<固有権能>に感嘆としている各種族の代表者。
転生用の魔法陣と憑依用の魔法陣を取りこむように二色の粒子が無限大マークで流転していき、二種類の魔法陣が重なり合い、無限大マークが刻まれた八芒星の形をした魔法陣が出来上がった。
魔法陣が出来上がったことで聖女は世界を変える究極にして強大な魔法が、星に向けて発動された。
「超究極魔法<新世界>」
魔法陣からモノクロの魔力光が世界を覆った。
八人の代表者や聖女。魔法空間外にいる彼等の会合時にも繰り広げられる戦場の中にいる者達や戦場外でビクビクと怯える者達までもが、聖女の発動させた<新世界>の影響で粒子状に肉体と霊魂が輪廻の歯車へと導かれていき、世界までもが粒子状に分解されていき、新たな星が誕生した。
太陽と同規模の星が誕生し、周囲に地球と同規模の星が八個周回している惑星が生まれ、百年後に"始まりの八族"が再度誕生していき、派生種族も繁栄していった。
前世の記憶を持つ戦争に否定的な者達が同じ轍を踏まない為に繁栄のみを心掛けるようにしていった。
平和へと転生した今世界は後の歴史に「泰平の時代」と呼ばれる事になるのだった。






