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階段物語  作者: 七海トモマル
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階段:おどる

元気なおばあちゃんだと思われている。

それはとてもハッピーなことだとあたしは思うよ。


若草色のシャツのおばあちゃん。

ヒップホップで踊る。

この階段の下で、軽快に踊る。

階段をのぼれないわけじゃないさ。

ただ、この場所が気に入って、

なんとなくここで踊っている。


亭主がいなかったわけじゃない。

湿っぽい話になるから話したくないだけ。

たださ、若草色が似合うなんて、

昔々の話を、思い出して。

年甲斐もなく若草色のシャツを着ただけ。


なんだろうね。

気がついたら踊ることを考えてた。

ゆっくりしたのじゃなくて、みんなで元気になれるやつ。


迷彩柄の人影がわき目もふらず上っていった。

黒い学生服の男の子は、

ケンカでもしたのかな。

黄色いシャツの男の子は、希望に満ちた顔をしていた。

そして、私にしてみれば若造の男が階段を眺めている。

「転びますね、あの子」

若造は静かに言って、上を見る。

見れば、空き缶を袋に入れて抱えた女の子が、

つまづいてバランスを崩した。


がらんがらんと降り注ぐ銀色の空き缶。

赤い髪の兄ちゃんも、腕で頭を守る。

あたしだって階段からちょっと離れたよ。

ただ、見ちゃったんだよね。

黄色いシャツの男の子が、えらい反応して、

まるで空き缶の上を瞬時に移動するように駆け上っていったのを。


あたしは、ふぅとため息。

そういうことだってあるさ。

そのあとで駆け下りてきた白いワンピースの少女は、

泣きそうな、鬼がいなくなったあとのような顔をしていた。

何かが落ちた顔をしているってこういうことかね。

その隣で、さっきの若造が、

どこかのうら若いお姉さんを支えている。

まったくいろいろあるもんだよ。


「若いっていいねぇ」

まったく、若いっていいね。

ロマンスグレーとか言われる若造も、

栗色の髪のお姉さんも、

憑き物落ちたお嬢さんも。


誰かが空き缶を思いっきり投げたらしい。

結構な速度で飛んでくるそれを、

あたしは、手近な空き缶で、

誰にもわからないように無音で相殺した。


年をとれば、こんなことだって出来るのさ。

さぁ、元気に踊ろう。

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