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階段物語  作者: 七海トモマル
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階段:のぼる

ここは階段の多い町。

段差がもともと多く、

坂道でいいところを階段にしたものだから、

不便極まりない町だ。

おまけに町の中は入り組んでいて、

路地と階段がごっちゃになっていて、

住人でなければまず間違いなく迷子になる。


とっても不便な町だ。


僕はその町の階段を上る。

家に帰るため。

口の中が鉄の味。

身体のあちこち痛い。

早く部屋に戻って寝たいなぁと思う。


今日、僕は学校で派手にケンカをした。

理由は…なんだったかな。

そうだ。美術の課題で、

先生がこういうものを作れというのに、

反抗したところ、

取り巻きにぼこぼこにされた、ようなことだった気がする。


多勢に無勢。

先生ってのは絶対で、

先生が作れっていったら、

そういうものを作らなくちゃいけない。

僕は痛む身体を引きずりながら、階段を上る。

上を見ればきれいな空で、

階段を踏みしめるたびに、空に近づく気がした。

そういうのを作りたいなぁと思うけれど、

僕はいまいち言葉足らずだから、

拳で語るほかない。


栗色の髪の女性が下りてくるので、

そっと横に避ける。

赤い髪の人が、立ち止まって考え事をしている。

下のほうで誰かが音楽を鳴らしている。

誰かが駆け上がる。

いろいろな人が交差している。


ずっと上のほう、つまづいた誰かが、

派手に何かをぶちまける。

銀色の何も印刷されていない、空き缶。

がらんがらん鳴って、

階段の上から落ちてくる。


そのうちひとつが、

何かの拍子で僕の上を飛んでいった。

角にでもぶつかっただけかもしれない。

けれど、目で追っていた僕は、

青空と銀の空き缶が、

それはそれはきれいなものに見えた。


そうだ。

それを美術でやってやろう。

取り巻きも、先生も、

みんながぐうの音も出ないくらいのやつを、やってやろう。

黙らせるのは拳だけでない。

反抗は拳だけでない。


口の中はまだ鉄の味がする。

空き缶を拾うには、ちょっと満身創痍。

僕はよたよたしながらも、頭の中をフル回転させて、

最高の作品を考える。


創作っていうのは、きずを作るんだ。

そんなことを言ってる人もいた。

傷を知る人が、本当に創作者さ。

僕はそういうものになりたい。


そんなことを考えながら、

僕は、階段を上る。

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