40 シエロ・ロサ(1)
僕は、他人と向き合うことが苦手だ。
ロサ公爵家三男に生まれた、シエロ・ロサ。
それが僕だ。
両親、二人の兄、幼い妹。
小さな頃から、兄達との関係はそれなりだったが、両親や妹には見るからに愛されて育った。
早くから魔術の素質が顕著に現れ、自分でも魔術が好きになっていった。
かつて水の精霊の祝福を受けたセラストリア王国の人間、特に王族には、今でも水の精霊の祝福を受け生まれることが多い。
例に漏れず、王家の血を引く僕も、水の精霊の祝福を受けていた。
5歳にして、周りから褒めそやされ、王都に住む僕は、王城にもよく出入りしていた。
そのまま順風満帆な人生しか見えなかった。
順調に、穏やかに、時は過ぎて行った。
8歳。
その日は、とてもよく晴れた日で、公爵家では、小さなガーデンパーティーが予定されていた。
くしゃくしゃと芝生の感触を確かめながら、セッティングされていく庭を眺める。
自慢の白い魔術師用のマントが揺らぐ。
10人ほど座れそうな大きな丸いテーブルに、お茶やケーキが準備されていく。
きっちりとメイド達が場を整えていく。
「いいお天気ね」
その声に振り向くと、母が嬉しそうに微笑んでいた。
母の足元には、2歳の小さな妹、ブランカが母の足にまとわりついている。
「母様!それにブランカも」
しゃがみ込んで、ブランカの頭を撫でてやると、にこっと微笑んでくれる。
「にぃたま」
「ねえ、母様」
母の顔を覗き込む。
青い空を背景に、朗らかに笑った顔が、とても綺麗だ。
「今から来る人が、僕のお嫁さんになる人なんでしょ?」
「ええ、そうよ。仲良くしましょうね」
その日は、婚約者候補との顔合わせの日だった。
「うん。ブランカも、一緒に仲良くしよう」
そう言うとブランカが、わからないなりに「ふふふっ」と笑う。
草の上に座り込んで、ブランカと並んで座った。
「これから来るお姉さんは、こことは違う国のお姫様なんだ」
「おひめさま?かわいい!?」
「どうかな。可愛いといいね。その人が、僕と将来、結婚するんだよ」
ブランカはやはり理解できなかったけれど、シエロの嬉しそうな顔に合わせて、またきゃっきゃと笑った。
どんな子なんだろう。
気が合う子だったらいいな。
気が合わなくても、お互い歩み寄るんだもの。そんなに悪いことにはきっとならない。
今までずっと勉強ばかりで、遊ぶ時間もなく友達もいなかったから、一緒に遊んでくれる子がいい。
まだそれほど派手な魔術は使えないけど、魔術を見せてあげよう。
それなら、魔術で国を支えているこのセラストリア王国らしいだろう。
きっとすごいって言うだろう。
興味を持ってくれたら嬉しいな。
それからすぐ、その小さな婚約者候補はやって来た。
同じ年頃の、煌びやかなドレスの女の子と向かい合う。
「初めまして」
「ええ、初めまして」
子供ながらに、恭しく礼をする。
どうなることかと思ったけれど、第一印象は悪くなさそうだ。
テーブルの向こう側で、にこやかにお茶を飲んでいる。
笑っている。
たぶん、これでいいんだ。
大丈夫。
緊張は徐々にほぐれ、みんなの笑顔も増えてきた。
「向こうで、妹のブランカと一緒に遊びませんか?」
「ええ、いいですね」
シエロが婚約者候補の女の子を庭へと誘った。
魔術を見せてあげよう。
シエロが、近くに置いていた赤い宝玉のついた、自分の身長よりずっとずっと大きな杖を手に取った。
さて、シエロくんの過去編。
ここからしばらく続きます。




